2020年2月21日

    あの日、僕は兄の存在を隠した。「障害者」を言い訳にさせないために

    霞ヶ関に掲示された「この国のいちばんの障害は『障害者』という言葉だ」という言葉。キャンペーンを仕掛けた背景を聞いた。

    官公庁の集まる霞ヶ関の弁護士会館に2月21日、「この国のいちばんの障害は『障害者』という言葉だ」というメッセージが掲示された。

    撮影:鈴木渉

    このキャンペーンを仕掛けているのは、知的障害のあるアーティストの作品をネクタイやハンカチなどにして販売する事業などを手がける株式会社へラルボニーだ。

    なぜ、今このようなメッセージを霞ヶ関で掲げるのか。へラルボニーの社長・松田崇弥さん、副社長・松田文登さんに話を聞いた。

    「障害者」を言い訳にはさせない

    Yuto Chiba / BuzzFeed

    左:社長の松田崇弥さん、右:副社長の松田文登さん

    「これは『桜を見る会』をめぐる一連の問題があった際に、安倍晋三首相が答弁で『担当である障害者雇用の短時間勤務職員の勤務時間との調整をした』と答えたことに端を発しています」

    へラルボニーの社長、崇弥さんは今回のキャンペーンを仕掛けた背景をこのように説明する。

    時事通信

    2019年12月2日、国会で答弁する安倍首相

    桜を見る会の招待者名簿を廃棄した理由を説明するにあたって、障害者雇用であることに言及する必要性はない。そのため、この安倍首相の発言には多くの批判が寄せられた。

    「僕らがしたいのは、安倍首相個人の批判ではない。でも、彼があえて、シュレッダーにかけたスタッフが障害者雇用であったことに言及したのは、それが国民に向けた1つの言い訳として成立すると判断したからですよね」

    「『障害者』という言葉があることで、世の中に生まれ続けている弊害があるのではないか。少なくとも、そうしたカテゴライズに関して、国民的対話を生むきっかけをこの機会に作ることができればと思い、今回のメッセージを打ち出しました」

    隠した、兄の存在

    Yuto Chiba / BuzzFeed

    へラルボニーは、松田崇弥さんと双子の兄・松田文登さんが2018年7月に設立した会社だ。

    崇弥さん、文登さんは岩手県の出身。2人には4歳年上の自閉症の兄がいる。実の兄に知的障害があったことが、へラルボニー誕生のきっかけとなった。

    崇弥さん、文登さんの家族は福祉に関わることに積極的だったという。休みの日は決まって、福祉関係の集まりに参加した。

    そうした背景から、障害を理由に差別的な言動をとらないことは当たり前のことだと思って育ってきたと振り返る。

    へラルボニー提供

    崇弥さん、文登さんと4歳上の兄

    だが、中学校に進学すると、周囲の人との違いを馬鹿にする文化に戸惑った。文登さんがおもむろに語り出したのは当時のある出来事だ。

    中学時代、学校の中で「スペ」という言葉が流行した。それは自閉症スペクトラムを省略した蔑称だ。

    「お前、スペじゃん」、何かミスをするたび、そんな言葉が教室で飛び交う。

    そんな中で、文登さんは自分には自閉症の兄がいることを切り出すことができなかった。馬鹿にされることが怖かった。

    「中学時代、僕はそこまで強い人間ではなかった。だから、兄の存在そのものを隠してしまったんです」

    届けたいのは…

    へラルボニー提供

    建設現場の仮囲いをラッピングしたアーティストの作品

    へラルボニーは知的障害のあるアーティストが描いた作品をネクタイやハンカチなどに商品化する事業や、建設現場の仮囲いや駅舎をアーティストの作品でラッピングする事業を手がける。

    そのアプローチは、これまでの一般的な障害者福祉の取り組みと比較すると異色だ。

    誰に一番届けたいのか、頭の中には常に思い描くペルソナがいると文登さんは語る。

    へラルボニー提供

    吉本興業とコラボして届ける商品も

    「これは福祉です、これはアートですと打ち出された瞬間に僕らの地元の友人の多くは『俺には関係ない』って感じてしまうと思うんですよ。だからこそ、僕らは中学時代、障害があることを馬鹿にしていた当時の彼らのような人に届けたい」

    「福祉やアートという切り口だと届かなくても、コム・デ・ギャルソンやN.HOLLYWOODなら彼らには届く。そう考えた時に、物やブランドに落とし込むことで届けられる範囲を広げることができるのではないかと考えました」

    Yuto Chiba / BuzzFeed

    障害のある兄弟がいたことで、昔、お付き合いしていた人との関係に支障をきたしたことはありますか?

    ある日、知的障害のある弟がいる女性から、こんな質問が届いた。

    その女性はパートナーに「お前の弟、障害者なんだってな。それって遺伝とかないの?」と聞かれたことにショックを受け、メッセージを送ってきたという。

    他にも「子どもを産むことを決めました」といったメッセージも受け取った。お腹にいる子どもが検査でダウン症である確率が高いことを知ったという女性からのメッセージだった。

    活動の幅を広げ、より多くの人にメッセージを届けることが可能になればなるほどに社会に存在する障害のある人への差別の根深さを突きつけられる。

    撮影:鈴木渉

    「差別をするな、偏見を持つなと声を大にして言ったところで、なかなか届かない」

    崇弥さんはつぶやく。

    それでも今回、彼らは「障害者」というカテゴライズそのものに問題提起することを決めた。

    「障害者」という言葉にもアップデートを

    Yuto Chiba / BuzzFeed

    シュレッダー処理をしたのは障害者雇用の職員、この発言の裏には「『障害』という言葉が指すものが『欠落』だと思われている節があるのでは」と崇弥さんは指摘する。

    「でも、見方を変えれば、それは『欠落』ではなく『違い』として受け入れることができるはず。この国全体に、何かが出来ないことは悪で、それを出来るようにすること、マイナスをゼロすることに価値や重きを置く風潮が蔓延しているような気がするんですよね」

    どんな個人に対しても「違い」があり、その中にある出来ることやプラスな部分に目を向ける。そうすることで「障害」を「欠落」と捉えることもなくなるのではと考える。

    実際に海外では障害のある人々は「special needs」と呼ばれている。その言葉から連想されるイメージは、日本の「障害者」という言葉から連想されるものとは対照的だ。

    Yuto Chiba / BuzzFeed

    一方で、社会的マイノリティとされる人々は多くの場合、一括りにされることで制度による支援の対象となってきたという側面もある。

    また、一括りにするカテゴリーが存在することはマジョリティの中に生きづらさを感じる人にとって、時に自分の存在価値を認めるオルタナティブな受け皿となり得る。

    へラルボニー提供

    だが、カテゴライズをすることが常に、スティグマや負のレッテルと隣り合わせであることは否定できない。

    「障害者」というカテゴライズをアップデートする時が来たのではないか。だからこそ、崇弥さんは問題提起する。

    「もちろん、生きていく中で、社会とその人との間に壁=「障害」が生じてしまう状況をさす言葉として『障害者』と総称されることも分かります。しかし、『障害者』という言葉の表現そのもので『欠落』を連想してしまう人がいるということも事実です」

    「別の言葉に置き換えるべきではないかという問題提起やそれを通じた国民的な対話によって、『障害』を『欠落』と捉える風潮を変えることができると考えています」

    「このキャンペーンを打ち出すことで波紋は起きると思います。いや、むしろ、波紋を起こしたい」

    文登さんは意気込む。

    「突き詰めてしまえば、僕は兄が自分らしく生きやすい社会をつくっていきたい。そのためにも、リスクを背負ってでも、いま議論を巻き起こしたいんです」

    Contact Yuto Chiba at yuto.chiba@buzzfeed.com.

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