「日本学術会議」の新たな会員として推薦された学者6人の任命を、菅義偉首相が拒否したことをめぐる問題。
自民党の下村博文・政務調査会長は日本学術会議について10月7日、「政府に対する答申は2007年以降出されていない」とした上で、「活動が見えていない。ちょっと色々な課題があるのではないかと我々は思っております」と語り、「会議」の在り方自体を検討し直す必要があるとの認識を示した。

自民党は独自のワーキンググループを設置し、政府に対し提言を行う方針だ。
だが、この下村政調会長の発言はミスリードだ。
答申、勧告はたしかにないが…
一般的に行政用語としての「答申」とは政府からの諮問を受けて検討し、出すものだ。
日本学術会議法の第4条では、政府が学術会議に諮問することができることとして、以下の4項目を示している。
・科学に関する研究、試験等の助成、その他科学の振興を図るために政府の支出する交付 金、補助金等の予算及びその配分
・政府所管の研究所、試験所及び委託研究費等に関する予算編成の方針
・特に専門科学者の検討を要する重要施策
・その他日本学術会議に諮問することを適当と認める事項
2007年以降に答申が出ていないことが指し示すのは、政府が13年近く日本学術会議に対して諮問を行ってこなかったという事実だ。

日本学術会議の広報担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、答申とは「字の通り、政府からの諮問に対してお答えするもの。諮問がなかったため、答申は出されていない」と説明する。
その上で、答申は出ていないものの、2007年以降も日本学術会議は政府や官庁から「審議依頼」を受けた上で審議し、報告をまとめているケースが多数あるとした。
下村氏が「問題」とした2007年以降、日本学術会議がまとめた報告は以下の10件だ。
・生殖補助医療をめぐる諸問題に関する審議依頼について(2008年)
・大学教育の分野別保証の在り方について(2010年)
・河川流出モデル・基本高水の検証に関する学術的な評価(2011年)
・高レベル放射性廃棄物の処分について(2012年)
・アジアの大都市制度と経済成長に関する検証および日本への示唆(2012年)
・国際リニアコライダー計画に関する所見(2013年)
・科学研究における健全性の向上について(2015年)
・国際リニアコライダー計画の見直し案に関する所見(2018年)
・人口縮小社会における野生生物管理のあり方(2019年)
・科学的エビデンスに基づく「スポーツの価値」の普及のあり方(2020年)
直近では2020年6月18日にスポーツ庁からの審議依頼を受け、報告をまとめている。
2008年以降、日本学術会議が出した提言は321

また、河野太郎行政改革・規制改革担当相も日本学術会議について、法律に基づく政府への勧告が2010年以来、10年間行われていないこと等を理由に「年度末に向けて、予算あるいは機構定員については聖域なく、例外なく見ていくこととしていますので、しっかりと見ていきたい」と語っている。
2010年以降、政府に対する勧告を出していない理由について、日本学術会議の担当者は「わからない」とした上で、「日本学術会議は答申や勧告以外にも様々な提言や報告を行っています。9月に第24期が終了することを受け、今年も様々な提言が出されました」と活動実態が見える形で示されていることを強調した。
2008年以降、日本学術会議からは321の提言が出ている。
答申がないのは政府からの諮問がないからだという前提に立てば、それをもって政府・与党の側が「活動が見えない」と評価できるかどうかは、疑問が残る。
BuzzFeed Newsは下村議員の事務所に、政府が諮問をしていないことを踏まえたうえで、なぜ「活動が見えていない」という認識なのかを問い合わせている。回答があり次第、追記する。
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