• covid19jp badge
  • medicaljp badge

アビガン、10月中に承認申請へ 治験で確認された効果とは?専門家は2つの問題を指摘

富士フイルムホールディングスは「アビガン」について、国内の臨床試験で新型コロナの症状を早期に改善することの統計的有意差を確認したと発表。今回、どのような効果が治験で確認されたのだろうか。

富士フイルムホールディングスは9月23日、新型コロナウイルス感染症の治療薬の候補として名前が上がる「アビガン」について、国内の臨床試験で新型コロナの症状を早期に改善することの統計的有意差を確認したとし、10月中にも承認申請を行うと発表した

今回、どのような効果が治験で確認されたのだろうか。

アビガンをめぐる経緯を振り返る

アビガンは富士フイルムが製造した新型インフルエンザ治療薬だ。日本国内では、2014年に製造販売の承認を得ている。

国内の医療機関1カ所でアビガンの投与をスタートしたと、2月22日に加藤勝信厚生労働相(当時)が記者会見で発表したことがきっかけとなり、一躍注目を集めた。

加藤厚労相(当時)は自身が出演したテレビ番組でも「効くということになれば、全国に展開をして治療に使っていきたい」とコメントし、前のめりな姿勢を示しており、3月28日には安倍首相が、「アビガンには海外の多くの国から関心が寄せられており、今後、希望する国々と協力しながら臨床研究を拡大するとともに、薬の増産をスタートします」と宣言していた。

4月以降は「クドカン、コロナ闘病談 「アビガン」飲んで快方!!」「コロナ感染の石田純一 アビガン処方され回復傾向に」といった、その効果を強調するような報道も相次いだ。

4月8日には安倍首相(当時)がアビガンの備蓄量を3倍の200万人分まで拡大する方針を示し、備蓄のための経費が2020年度補正予算案に盛り込まれている。

安倍首相は5月4日の記者会見でもアビガンについて、「有効性が確認されれば5月中の承認を目指したい」と発言。同日、共同通信は安倍首相がアビガンの薬事承認を5月中に得られるよう厚生労働省に指示したことを自民党役員会で明らかにしたと報じている

しかし、アビガンの臨床試験を実施していた藤田医科大学が7月10日に発表したアビガンの臨床研究に関する最終報告は「通常投与群では遅延投与群に比べ6日までにウイルスの消失や解熱に至りやすい傾向が見られたものの、統計的有意差には達しませんでした」というもの。

7月の段階で、新型コロナ治療薬として承認を得ることはなかった。

富士フィルム「症状を早期に改善することの統計的有意差を確認」

そのような中、9月23日、富士フイルムは国内の臨床試験で新型コロナの症状を早期に改善することの統計的有意差を確認したと報告した。

この治験は症状(体温、酸素飽和度、胸部画像)の軽快かつウイルスの陰性化までの時間を主な評価項目とし、アビガンを投与することの有効性と安全性を調べるために行われた。

治験は「ランダム化プラセボ対照単盲検比較試験」と呼ばれる方式を用いており、実際の患者の承諾を得た上で、実際にアビガンを投与するグループと偽薬を投与するグループ(プラセボ)にランダムに分けて行われた。患者は自身がアビガンを投与されているのか、いないのかはわからない。

その結果、アビガンを投与していないグループの患者が回復に要した期間の中央値が14.7日であった一方、アビガンを投与したグループの患者が回復に要した期間の中央値は11.9日となり、新型コロナの軽症患者にアビガンを投与することで早期に症状を改善することを、統計学的有意差(p値=0.0136)をもって確認したという。

このような結果を踏まえ、富士フイルムは、10月中にも「アビガン」を新型コロナウイルス治療にも使用できるよう、製造販売承認事項一部変更承認申請を行う予定だ。

治験結果、臨床研究の専門家はどう見る?

この治験結果をどのように捉えるべきか。

臨床研究に詳しいがん治療の専門家、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授・勝俣範之医師は「治験であるため、データの信頼性はある程度確保されている」とした上で、「富士フイルムが報告した結果が事実であれば、承認されるため朗報である」と語る。

これまで新型インフルエンザ治療薬として承認されていたアビガンが、新型コロナウイルス治療薬としても承認されることが適切か、今後審査が行われる。

その上で、勝俣医師は以下の2点を懸念する。

(1)治験の形式の問題

(2)症例数の少なさ

今回の治験は、患者はアビガンを投与されてるかどうか知らないが、医療従事者は知っている状態で行われた。この場合、「医療従事者にバイアスがかかり、アビガンに良いように評価判定してしまう可能性がある」と指摘する。

より正確性を期すためには、患者も医療従事者も誰に実薬が投与されているかわからない二重盲検法で試験を行うことが望ましい。しかし、今回はそのような方法は取られていない。

そのため、客観性が保たれたのか、慎重に検討する必要がある。

合わせて、勝俣医師は症例数の156例は「やや少ない」とコメントし、懸念を示した。

既に5月7日に薬事承認が下りている、新型コロナの重症患者向けの治療薬「レムデシビル」の場合、治験における症例数は1063例だ。

また、症状の改善以外の項目についてどの程度効果を発揮したのか注視すべきであるとした。

「主な評価項目としている症状の改善かつウイルスの陰性化までの時間以外の項目、重症化率や死亡率についても改善が確認されたのかが気になります。症状の改善を早めただけでは意味がありません」

富士フィルムの回答は…

富士フイルムホールディングスは試験方法、症例数についてどのように考えているのか。

担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、二重盲検法ではなく、単盲検法を用いたのは「誰がアビガンを投与しているのか医師が把握し、リスクマネジメントするため」と語る。

「この臨床試験は3月下旬にスタートしました。その当時、Covid-19は病態解明が今ほど進んでおらず、肺炎が急激に悪化することが懸念されていました」

「プラセボを投与されているグループの方の状態が急激に悪化した際に、治療が遅れることは許容できないとの医療機関からの声があり、このような試験方法で治験を進めました」

症例数についてはどうか。

担当者はこの治験が「アダプティブデザイン」という手法をとっており、状況次第で症例数を増やすことについて、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と合意を得た上で開始されたものであるという。

当初は目標の症例数を96例としていたが、中間報告を経て、同社が設置する第三者機関である中央判定委員会から156例の症例を集めるよう勧告を受け、目標とする症例数を変更した。

その後、156例の症例を解析し、統計的有意差を確認することができたと説明する。

症例数については統計的な有意差を確認することができる数を確保しており、適切であるとの認識を示している。

厚労省の見解は?

厚労省は今回の富士フイルムの治験をどのように見ているのか。

医薬・生活衛生局医薬品審査管理課の担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し「安全性の確認についてはルールに従ってやっているかの確認は行うが、どのようなデザインで設計するかについては実施する医療機関の方で審査をしていただくのが通例」とコメントした。

そのため、「どういうデザインで行うかは自由度がある」(厚労省担当者)

その上で、「出てきたデータをもとに何が言えるか審査をしていく」とした。