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バイト全員解雇の店も…夜の街での飲食自粛呼びかけで多くの人が収入激減

3月31日、新宿・ゴールデン街は人の影がまばらだった。バーカウンターには酒と空のグラスだけが並んでいる。

新型コロナウイルスの感染拡大で夜の街は大きなダメージを受けている。

売上が減少しただけでなく、アルバイトなどスタッフの解雇に踏み切った店舗も。

こうした状況は、3月30日に小池百合子東京都知事が夜の街を感染拡大の要因の1つとして名指ししたことでより厳しいものになっている。4月1日には政府の専門家会議でもキャバレー、ナイトクラブ、バーなどの特定業種で感染が拡大されていることが指摘されている。

いま何が起きているのか。東京だけでなく、北海道をはじめ全国に広がる影響を取材した。

「こんなんじゃ商売にならないよ」

Yuto Chiba / BuzzFeed

3月31日のゴールデン街の様子

3月31日、都知事が夜の街での飲食自粛を呼びかけた翌日の新宿・ゴールデン街は閑散としていた。通りを歩く人はほとんどいない。店の中を覗くと、まばらだが人影が見える。

いつも人で溢れていた店のバーカウンターには、いまは酒と空のグラスだけが並んでいる。インバウンドで訪れる海外旅行客を主要な顧客としている店には客は誰もいない。

店先には呼び込みをする店員が2人立っていた。

Yuto Chiba / BuzzFeed

「こんなんじゃ商売にならないよ」、誰もいない店先でテレビを見ながら客が入るのを待っていた女性はこう口にする。この店を構えてからもうすぐ40年。こんなに人のいないゴールデン街は「初めて見たね」と漏らす。

取材中、何度も繰り返したのは「寂しいよ」という言葉だった。

「金曜日はどうなるかな。少しは人が増えてくれたらいいんだけど…」

午後11時過ぎ、女性はそう言い残し、店を早仕舞いして家路についた。いつもなら、これからが二軒目、三軒目とはしごをする人で賑わう時間帯だ。

「営業自粛できない」偽らざる本音

「会見の影響がかなり大きい」とゴールデン街のある店舗で店長を務める別の女性は取材に語る。「2週間前から人が徐々に減り始め、先週後半から壊滅的になってきた」。

インバウンドの盛り上がりで、ゴールデン街を歩けばすれ違わない日はなかった外国人観光客の姿はどこにも見えない。いまも店に足を運んでくれるのは常連客ばかりだという。

Yuto Chiba / BuzzFeed

来店した人の数は、3月30日に3名、3月31日も3名で、売り上げは1万円前後だ、とため息交じりに明かす。週末の売り上げは通常の3割まで落ち込んだ。この売上では、家賃や人件費を払えば赤字だ。

記者会見で都知事が夜の街での飲食を自粛するよう呼びかけた翌日、彼女が把握している範囲だけでも5店舗が営業を自粛することを発表したという。

彼女の店舗は、いまもひっそりと営業を続けている。「本当は営業を自粛した方が良いことはわかっている」。しかし、できない。

「営業しない方が良いのもわかるし、夜の街で飲食を控えるよう伝えている理由もわかります。私たち従業員にも、来店していただくお客さんにも感染のリスクはあるので、自粛ができるならばしたい…でも、自粛をしてしまったら店が潰れてしまうんです」

現在は常に窓を開け換気を行うこと、店内のアルコール消毒を行うこと、従業員はマスクを着用することを徹底する形で営業を続けている。

4月1日、新宿・歌舞伎町で新型コロナウイルス感染者が増えていると各社が報じた。今回確認されているのは、接客を伴う飲食が行われる店舗の従業員、スカウト行為を行う人の感染だ。

営業の継続は常に従業員の感染リスクや店舗が感染源となるリスクと背中合わせだ。

知りたいのはただひとつ、補償はいつ?

時事通信

「国や都が簡単に補償をします、と言えないのもわかりますが…」と前置きをしながらも、具体的な補償が提示されないために資金繰りの先行きが見えない不安を彼女は明かす。

この店舗はこの春、東京の別のエリアに系列店を出店する予定だった。だが、その計画もいまや白紙だ。出店のための資金を切り崩しながら、何とか食いつなぐ状況が続く。

自粛の呼びかけをするならば、「そこで生じた損失の補償はしてほしい。補償があると安心して営業自粛を選択することができる」と口にする。

時事通信

政府の事業者への支援方針も右往左往を繰り返し。どのような形で支援がなされるのかは不透明なまま、時間だけが過ぎていく。

「いつになればお金が補償されるのか。時期さえわかれば、いまお店を閉める決断をしても大丈夫なのかどうかがわかりますよね。でも、現状ではそれすらできません。だから、営業自粛はできない」

「いま潰れてしまった店は、コロナが終息しても再起はできないんです。潰してしまったものは戻らない。潰れず、何とか生き残ることができれば会社は残る。飲食店を潰さないことをまずは最優先に考えてほしい」

迫られた苦渋の決断

経営の先行きが見えない中で、彼女は苦渋の決断を迫られた。

4月の後半から、新型コロナ騒ぎが落ち着くまで当面アルバイトをシフトに入れないことを決めた。この店では11人のアルバイトが働いている。

「明日からバイトに来ないでください、と伝えるとバイトをしてくれている人たちにも迷惑がかかってしまう。すでに4月の前半のシフトは決まっていたので、4月16日まではバイトの方たちにシフトに入ってもらいます。でも、それ以降は社員だけで回すことに決めました」

時事通信

夜の街での飲食自粛が呼びかけられる前までは「シフトを減らして、何とかみんなに働いてもらおう」と考えていたと語る。だが、それもいまは難しい。

「バイトの方たちに休んでもらわないとお店が潰れてしまう」、そう語る声には悔しさがにじむ。

せめてもという思いから、一人ひとりに電話をして事情を伝えた。バイトで働いている人もまた「ゴールデン街が好きで働いている人ばかり」。中には他の仕事を減らして、シフトに入る日数をこの春から増やそうと相談していた人もいた。

「辛いですよ、本当に」、彼女はつぶやく。こうした形でまずはバイトのシフトを減らす店はここだけではないという。ある店舗は3月末をもって、一旦バイトを全員解雇した。

自粛要請による影響はたしかに広がりつつある。突然の自粛呼びかけは、新型コロナウイルス感染の拡大を防ぎ、感染爆発を避けるためには必要なものだった。

時事通信

だが、具体的な補償策が示されぬままの自粛の呼びかけは、そこで働く人たちに大きな犠牲を強いている。

「イベントやエンタメもそうですし、私たち飲食業も『娯楽』のひとつとして見られていますよね。まぁ、実際に消費者の目線から見れば必要最低限なものではないかもしれません。でも、そこで働いて生計を立てている人にとっては『娯楽』じゃないんです。生活なんです」

夜の街で働く「私たちのことは無視した発言」。そんな印象が否めない。

「飲食店で働く人たちの辛い思いはSNSにも溢れています。溢れているのに、政府や都知事には伝わっているのか疑問です。伝わった上であの状態なんですかね‥」

彼女が抱く憤りは、飲食店で働く多くの人が抱いているものだ。

「こんな状況でも、申し訳なさそうにしながら足を運んでくれるお客さんがいる。飲みに来てもらった人たちには楽しい気持ちになってもらえたらと思ってるんです。だから、なるべくコロナの話はしない。だって、ゴールデン街はみんなに楽しく過ごしてもらうための場所なので」

この店では4月6日〜4月10日は営業を終電の時間で切り上げ、深夜は店を閉めることを決めた。それ以降の対応については、東京都や政府の発表を見て、考えるとのことだ。

営業を続けることは決めたものの、SNSでの発信は控える方針だという。彼女は「なぜ、こんな中で営業するのか?」といった声がオーナーのもとに寄せられていると語った。

補償がないからこそ店を開かざるを得ない。しかし、自粛ムードの中ではそうした実態が理解されづらい。

収入は4分の1に

時事通信

こうした影響が出ているのは首都圏だけではない。

2月28日に緊急事態宣言を出した北海道のスナックでアルバイトをして生活している25歳の女性は、「私のような接待飲食業の従業員はこのまま職を失うしかないのでしょうか。正直、自殺も考えています」と打ち明ける。

店は営業をしているが、シフトを減らされているという。収入は以前の4分の1まで落ち込んだ。

「同じ職種の人たちはほとんど同じく収入源を失っています」

いつ収束するかもわからない、お店が潰れるのではないか・クビになるのではないか、来店者の中に感染者がいるのでは、自分もすでに感染しているのではないか。不安の声を挙げればキリがない。

「1世帯30万円の給付で合意したとニュースになっていますが、収入の減少があった世帯に限られており、自己申告制であることもあり、時間がかかることや自分が当てはまるのかどうか不安です」

「国民の命を守るために、自ら命を断つという選択肢を選ばざるを得ない人が減るように、どうかしっかり国を引っ張っていってほしいです」

組合には不安の声が

時事通信

新型コロナウイルスの影響による、週末の外出自粛を前に閑散とした銀座

カフェ、バー、キャバレーやスナックなど社交飲食業の組合・東京都社交飲食業生活衛生同業組合の担当者は夜の街での飲食自粛が呼びかけられて以降、「90%以上が店を閉めている」と語る。特に30日の都知事会見以降、風向きはより厳しくなっており、「全然ダメ」とつぶやく。

現在、組合では政策金融公庫の貸付金をアナウンスしているため、1日に数件問い合わせがあると明かす。やはり1番多いのは家賃や人件費の支払いに悩む事業者からの相談だ。

「貸付金を借りるにしても、どれだけこの状況が続くのかわからない。返せるのかどうか不安。そんな中でみなさん悩まれています」

必要なものは早期の補償だと担当者は何度も強調した。

キャバ&アルバイトユニオンの担当者も東京都の自粛要請以降、「お客さんも会社から夜は飲みに行かないように言われているようで、来店予定もなくなりました」と語る。

「店の前に立つことがあるのですが、人が本当に歩いていない。お店側も営業自粛をして、閉じているところも多いようです」

「店の経営も厳しいので、お客さんが来店する予定がない子は出勤できない。シフトカットや早閉めが増えています」

キャバ&アルバイトユニオンが把握している限りでは、現在まで解雇されたキャバクラ嬢はいないと語る。だが、「店が閉まって解雇になる可能性はどこにでもある」と口にした。

補償が示されない中で大きくなるのは、家賃や携帯料金が支払えなくなることへの不安だ。

休業する店も増加

Yuto Chiba / BuzzFeed

4月3日、金曜日のゴールデン街を歩くと、いつにも増して街が暗い。多くの店舗が休業することを余儀なくされていた。

店先に張り紙をして、休業を知らせていた店舗は歩いて回っただけでも8店舗。

31日の段階よりも人の数自体はわずかに増えていたように見えるが、それでもいつもの賑やかさはない。

3日前に訪れた店を再び尋ねると、席は8割埋まっていた。窓は開けられ、換気には十分注意がされている。だが、午後11時を回ると人の波が引いた。いつもの金曜日とは、やはりどこか違う光景だ。

話を聞くため立ち寄った全ての店で話題に上がるのは新型コロナウイルスの影響だ。「いつまで続くと思う?」、「夏までには収まってくれないと大変だよ」。そんなやりとりを耳にした。

「問題は家賃だよ。どうしていこうかな」

そう口にするのは1人や2人ではない。

「東京都、営業縮小のバー・クラブなどに支援金給付へ」と4月3日に日経新聞が報じたが、都の産業労働局の担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、「都として具体的な対策は公表してない段階」と回答している。

自粛要請でダメージが日に日に大きくなる夜の街。だが、いつになれば具体的な補償が受けられるのか。方針以上の何かを政府をはじめ、行政は提示していない。

3月31日、厚生労働省は新型コロナウイルスによる業績悪化などで、解雇や雇い止めされる見込みの人の数が30日時点で1021人に上ったことを発表している

今後、職を失う人の数はますます増えることが予想される。

Contact Yuto Chiba at yuto.chiba@buzzfeed.com.

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