新型コロナウイルスが女性の雇用や生活に与えた影響について分析する内閣府の「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」は4月28日、11回に渡る議論をまとめた報告書をとりまとめた。
報告書では女性の影響について「根底には、平時においてジェンダー平等・男女共同参画が進んでいなかったこと」があるとし、それらが新型コロナによって顕在化したと総括した。
研究会は⼥性に焦点を当てて課題を明らかにし、制度などを見直す必要があるとしている。
「新しい日常」と合わせて「無意識の偏見」の見直しを
「コロナ下のいま、家庭内の役割分担を超えて、社会の諸制度の前提ともなっているジェンダー格差を所与とする規範や慣行にメスを入れない限り、ポストコロナのニューノーマルな世界において我が国は一歩も二歩も大きく後れをとることになる」
報告書では、このように依然として変わらぬ日本社会の問題が指摘されている。
研究会はコロナ禍における女性への影響を、(1)女性に対する暴力、(2)経済、(3)健康、(4)家事・育児・介護の4つの領域で分析した。
データによって、
・DV相談件数が2020年に比べ1.5倍となったこと
・女性がより多く従事する産業が新型コロナによって打撃を受けたこと
・シングルマザーの失業率が上昇したこと
・女性の自殺率が増加したこと
・コロナ下で女性の家事・育児・介護の負担感が増していること
ーーなどが可視化された。
また、国立感染症研究所の感染状況の分析に基づき、「流行の早期に一部の年齢層で男性の感染者数が先に増加し、その後、女性の感染者数の増加が見られたことが報告されている」ことも紹介。
流行早期の感染メカニズムに、男女の行動様式の違いが関係している可能性を示唆した。
その上で、研究会は「誰一人取り残さない社会」にするために、以下の4つの取り組みが必要だと指摘している。
・ジェンダー統計 / 分析
・ジェンダー平等 / 男女共同参画の取り組み
・女性の参画
・制度 / 慣行の見直し
「人々がコロナを契機に『新しい日常』への適応を迫られていることは、戦後日本の社会の根底を支えてきた家族像や、固定的な性別役割分担モデルとそれに立脚した様々な制度の見直し、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)を早急に見直す良い機会でもある」
研究会は報告書の末尾で、ジェンダー格差の問題の背景にある日本社会の既存の価値観、それに伴う仕組みそのものを見直す必要性を訴えた。
丸川珠代男女共同参画相は28日、研究会メンバーから報告書を受け取り、「各分野、横断的にデータに基づき議論していただいた。これを反映させるのが私の役割」とコメント。
今後の政策決定を行う上でも、提示されたエビデンスを伴ったデータを取り入れたいとの姿勢を示した。
コロナで浮き彫りになった「女性不況」
「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」で座長を務めた東京大学の白波瀬佐和子教授は、BuzzFeed Newsの取材に対し「ジェンダー格差を踏まえ、女性や女子が抱える問題に優先的に対処する政策が必要」と強調する。
コロナ禍で大きなダメージを受けた対面サービス業では多くの女性が働いていた。また、感染リスクの高い医療現場や介護施設などで働く人のうち、女性が占める割合は高い。
コロナによるしわ寄せが、構造的に女性へいきやすいと言える。研究会は11月に「『女性不況(シーセッション)』の様相が確認される」として緊急提言も行った。
「日本社会は戦後、性別役割分業体制という仕組みによって奇跡的なまでの経済発展を果たしました。短期的な目で見れば、この性別役割分業体制は非常に効果的だった。しかし、その後、ある種の既得権益をはじめ様々な歪みが社会に残ることとなりました」
「このような積み重ねの上で、女性であるために『いい目を見なかった』人たちがいます。私たちの社会は、これまで人口の半分に相当する女性のポテンシャルを十分に活かしきることができていません。そして今回、DVの相談件数の増加や自殺者数の増加など問題が顕在化している。ジェンダーに偏りがあるという事実を踏まえて、女性や女子への支援策を強化することが必要だと考えています」
緊急対応だけでは足りない。「投資」としての対策を
コロナ禍でDVに関する相談件数や女性の自殺者数が増加した。
特に女性の自殺者については誰かと同居している人の割合が高く、最も増加したのは主婦として暮らす女性の自殺者だった。
「家庭や家族から逃げられない、逃げ場がないという状況が多くの女性たちを苦しい状況に追い込んでいます。中には助けを求めることのできない人もいるはずです。『なぜ逃げないのか』と疑問に思う人がいるかもしれませんが、逃げられない。家族と一緒に暮らす中では、相談窓口へ連絡することも難しいといった実態があります」
「日本では家の中は『親密圏』であり、そこでの出来事についてはなかなか家庭の外へオープンにすることができなかった。でも、私たちはもう少し窓を開けて、お互いのことを共有しても良いのではないでしょうか」
目の前のSOSをしっかりとキャッチするためにも、支援の拡充が必要不可欠だ。
一方、報告書には緊急対応の必要性と合わせて、中長期的視点に立った「投資」としての対応を充実させることの重要性も盛り込んだ。
「今回の報告書のどこにポイントがあるのか?と聞かれれば、それは次の世代への投資だと答えます。将来に向けた投資としても女性が抱える課題に取り組むことが重要であるということを強調したい」
「コロナ禍で高校生の女子の自殺者が増加しました。これからの社会を生きるはずだった子どもが自ら命を絶ってしまう。子どもの自殺については、人数の大小に関わらず我々大人世代が責任を感じなければいけません」
「未来を生きる子どもたちが、自分たちの属性や国籍、障害の有無に関わらず自分の才能を生かせる社会を作るため、コロナを機に様々な課題に中長期的な視点で取り組むべきです」
社会を揺るがしたパンデミックをきっかけに、社会の仕組みを点検することを白波瀬さんは呼びかける。
就業率の変化に圧倒的な男女の差
東京大学経済学部の山口慎太郎教授らのグループは、総務省の労働力調査の個票データを利用する承認を得たうえで「コロナ下の子育て女性の就業状況」の分析にあたった。
山口さんは、雇用を取り巻く変化の背景に、新型コロナの感染拡大で対面サービス業が大きく打撃を受けたことがあると指摘。
加えて、日本の女性が子育てや介護といった無償ケア労働を担う傾向に課題があるとみる。
「サービス業への影響から仕事を失う女性が増えました。同時に仕事にプラスして担ってきた無償ケア労働の負荷が高まり、仕事を辞めてしまう女性も増えたことがわかっています」
「子どもがいる有配偶の男性と、子どもがいる有配偶の女性の就業率のデータを比較すると、その違いは一目瞭然です。男性の側の就業率はほとんど影響を受けていない。一方で、女性の就業率は下がったまま回復していません。私自身、男女の差がこれほど大きいものであることに驚きました」
データからは昨年3月、政府が決定した休校や休園による影響の大きさも見えてくる。
「休校や休園措置は子どものいる女性の就業に関してかなりの悪影響がある」とし、これらの措置がより多くの女性の非労働力化(就業を望まず、就職活動も行っていない状態)につながったという。
再び感染拡大すれば学校が休みとなり仕事を休まざるを得ないという不安や、経済状況の悪化で職探しが難しくなったといった要因が、こうした非労働力化を後押ししたとみられる。
「休校や休園は絶対にやってはいけないというわけではありません。ですが、女性への影響や、低所得層の子どもの学びの機会の減少など副作用も非常に大きい。決断する際にはこのような潜在的な問題を理解した上で、意思決定すべきでしょう」
統計や調査が助けを必要としている人の支援には不十分?
シングルマザーの場合、非正規雇用や短時間労働であることも少なくないため、経済状況が悪化した際に解雇されやすい。
今回の分析では、2020年7月から9月にかけてシングルマザーの失業率が急上昇。10月以降に上昇傾向が緩やかになった。
「分析をする中で、特に女性に関する調査やデータが不足していることがわかりました。例えばシングルマザーは社会においては少数派かもしれませんが、特に手厚く支援しなければいけないはずです」
「ですが、今はその人々がどのような状況にあるのかが統計や調査では見えにくくなっています。世の中の統計や調査は多くの場合、助けを求める人を支援するために必要な形でつくられていない。ここに根本的な課題があると私は考えます」