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菅首相の「アピール」の陰で。専門家が懸念する、あるリスク

失業者数そのものは12ヶ月連続で増加。また、自殺者数も11年ぶりに増加した。

菅義偉首相は3月18日、21日で1都3県に発していた緊急事態宣言を解除することを発表した。

菅首相は会見で「失業率、コロナの中で日本は先進国の中で最も低い部類の2.9%でなんとかしのいでいる」と述べた。

しかし、失業率だけでは見えないリスクが社会に広がっている。経済の専門家は、新型コロナ収束「後」に起こりうる事態を懸念している。

会見でアピールされた日本の失業率の低さ

「飲食店の時間短縮を中心にピンポイントで行った対策は、大きな成果を上げ、1都3県の感染者数は1月7日の4277人から、昨日の725人まで8割以上減少しています」

菅首相は緊急事態宣言解除の方針を正式に発表した上で、このように政府の対策が感染者数減少に効果を上げたと語った。

記者からは欧米では経済対策の財源として大企業や富裕層へ増税をする動きがある中で、日本でも同様の取り組みを行う考えがあるのか問う声が上がった。

菅首相はコロナ対策のため、第3次補正予算が成立したことをアピールした上で、「大事なのはコロナ対策」「そこにはしっかり財政をつけていく」とコメント。

生活が困窮する家庭や非正規雇用の人々などコロナ禍でダメージを受けている人々への「支援策を行っている」とした上で、日本の失業率が下げ止まっていることを強調した。

「経済あっての財政ということで、コロナ対策を全力をあげて、なんとかしのいできたい。効果があって失業率、コロナの中で日本は先進国の中で最も低い部類の2.9%でなんとかしのいでいることもある。こうしたことの結果ではないかなと思っています」

失業者に含まれない244万人

2020年の世界各国の失業率を確認すると、アメリカは8.1%、イギリスは4.5%、カナダは9.5%といった数字が並ぶ中、日本は2.8%となっている。

また、総務省が毎月発表している労働力調査によると、最新の2021年1月の失業率はたしかに2.9%だ。

しかし、この数字には「休業者」が含まれていないことに注意が必要だ。

独立行政法人労働政策研究・研修機構のデータベースによれば、1月の休業者数は244万人。

1度目の緊急事態宣言が発出された昨年4月に597万人に急増して以降、10月まで減少を続け、一時は170万人まで減った。

だが、11月から現在に至るまで再び増加の一途をたどっている。

一方、失業者数そのものは12ヶ月連続で増加を続けており、2021年1月は前年同月に比べ38万人多い。

厚生労働省によると昨年12月の生活保護申請者数は1万7308件で、4ヶ月連続の増加。

生活困窮者の支援現場からは「これまで生活に困窮したことがなかった人にまで貧困が広がっている」といった声があがっている。

また、2020年の自殺者数は2万919人(警察庁調べ)。前年に比べ750人多く、11年ぶりに増加した。

雇用の状況を正確に把握するためには、失業率だけではなく休業者数や失業者数、生活保護の申請件数など複数の指標を確認する必要がある。

失業率が低い水準で維持されているのは事実だが…専門家が示す懸念

BuzzFeed Newsの取材に対し、第一生命経済研究所の副主任エコノミスト・星野卓也さんは「雇用調整助成金や企業への資金繰り支援など、政策の効果もあり失業率が2.9%にとどまっているのは事実」としつつ、近い将来に予想される経済的なダメージをこう懸念する。

「感染状況と経済状況はリンクしています。去年に比べれば、社会全体に『コロナ慣れ』は広がっていますが、今後も旅行や飲食店など一部の業種に対して、より大きなダメージが広がるという状況が続くことが予想されます」

「新型コロナが収束へと向かうにつれて、政府による支援策は減っていく。そうした支援策がなくなった時に何が起きるかについては懸念が残ります」

2020年の倒産件数はコロナ禍の経済状況悪化にもかかわらず減少した。だが、その揺り戻しが起きるおそれがあるという。

「企業への資金繰り支援は融資です。つまり、新型コロナが収束すれば企業が返済するフェーズへと移ります。コロナ禍で負債は積み上がっており、経済活動もすぐにはコロナ以前の状況に戻りません。遅れて雇用への影響が出ることも起こり得ます」

星野さんは2020年4月30日の段階で「経済環境悪化を過小評価する失業率」と題したレポートを発表。

1度目の緊急事態宣言下で休業を余儀なくされた「失業予備軍」が増加していると分析し、家計の所得環境の悪化は必ずしも失業率には現れないと指摘した。

「新型コロナは非正規労働者など、低所得者に大きな影響を及ぼしているとも言われており、失業率だけを見ていても全体像はよく見えません」

「経済統計から生活困窮者の実態が見えにくくなっている。しっかりと実態を把握するための調査が必要だと思います」

昨年11月以降、休業者が増加している。こうした「失業予備軍」は今後どうなっていくのだろうか?

「1月に発出された緊急事態宣言の影響が大きい。今回は飲食店などに協力金を支給しているため、休業していた人々が2月、3月にすぐに失業するということはないと考えられます」

「緊急事態宣言の直後だけでなく、もう少し長いスパンでの影響に注意を払っていくことが必要です」


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