• medicaljp badge
  • covid19jp badge
  • Tokyo badge

コロナ禍で五輪は本当に開催できるの? 専門家の指摘する「コントロールしにくいリスク」とは

感染対策を講じた上で大会を開催するということは現実的に可能なのか。「東京オリンピック・パラリンピック競技大会における新型コロナウイルス感染症対策調整会議」に感染症の専門家として参加する、齋藤智也さんに話を聞く。

新型コロナウイルス感染症の第4波を抑え込むための緊急事態宣言が続く中、東京五輪開催に向けた準備が進められている。

五輪を開催した場合、世界各国から変異ウイルスが流入する可能性を指摘する声なども上がるが、そのリスクはどのように評価すべきか。

感染対策を講じた上で大会を開催するということは現実的に可能なのか。

国立感染症研究所感染症危機管理研究センターのセンター長を務め、「東京オリンピック・パラリンピック競技大会における新型コロナウイルス感染症対策調整会議」に感染症の専門家として参加する、齋藤智也さんに話を聞いた。

※取材は5月31日午後にZoomで行われ、その時点の情報に基づいています。

「コントロールしにくいリスク」踏まえた議論を

時事通信

ーー齋藤さんは「東京オリンピック・パラリンピック競技大会における新型コロナウイルス感染症対策調整会議」(以後、調整会議)に委員として参加し、感染対策について助言しています。「リスクを減らす余地はある」とも発信していますが、どのような点について、どのようにリスクを減らすことができると考えているのでしょうか?

あらゆる人と人の接触には感染リスクが伴います。一方で、我々はこの1年で学んできたように様々な感染対策の手法を持ちあわせており、それらを実践することで、ある程度リスクを減らすことは可能です。

ですが、このリスクをゼロにするということはできません。

どれだけの対策を講じたところで、みんなが100%完璧に対策を実行できるわけではない。ゼロリスクはありません。

そのような中で、一つのリスクを減らす方法として人が集まる場を減らす、もしくは集まる人数を減らすという方法があります。この点に関しては、まだリスクを減らす余地があると考えています。

ーー東京大学の仲田泰祐准教授は推計を発表し、海外からの来客よりも国内の人流が増加することによる感染拡大のリスクを指摘しています。そんな中で東京都などではライブビューイングの会場設営も進められています。これは感染リスクを高めるのではないでしょうか?

このライブビューイングをやるべきかどうかについては様々な意見があると思います。

専門家として言えることがあるとすれば、それはリスクにはコントロールしやすいリスクと、コントロールしにくいリスクが存在するということです。

五輪に関して言えば、会場内のリスクはコントロールしやすいリスクに分類されます。

ガイドラインをしっかりと整備し、感染対策への協力をお願いすることで一定程度リスクの低減は可能です。

一方で、会場への往来での行動や、五輪開催に合わせて設定されている連休中の人々の行動などはコントロールしにくいリスクであると言えるでしょう。

連休だから旅行しよう、みんなで集まって応援しようとなれば、人々の接触機会が増し、感染リスクも上がります。

個人的にはコントロールしやすいリスクだけでなく、こうしたコントロールしにくいリスクも踏まえた上で五輪開催に向けた議論をすべきだと考えています。

リーダーはしっかりと説明を尽くすべき

Yuto Chiba / BuzzFeed

国立感染症研究所感染症危機管理研究センターのセンター長を務める齋藤智也さん

ーー「コントロールしやすいリスク」に関して言えば、大会期間中の行動指針を示すプレイブックに記載されている感染対策が不十分であると指摘する論文がアメリカの医学雑誌「The NEWENGLAND JOURNAL Of Medicine」(NEJM)に掲載され、注目を集めています。こうした指摘については、どのように受け止めますか?

これをやった方が良い、この点はこうした方が良いと様々な意見を聞くことは非常に重要です。

みんなが納得し、安心した上で大会を開催できるということが最終ゴールであるとするならば、オープンにそのような指摘をいただけることは良いことだと思います。

ーープレイブックは6月に最終版が発表される予定ですが、その中では論文の指摘などを踏まえた改訂がなされるのでしょうか?

現在、公表されている第二版も様々な自治体や競技団体からの指摘やご意見を聞いているところと聞いています。

当然、今回のNEJMの指摘も取り込まれていくと思います。

国民の皆さんをはじめ様々な方が五輪の開催に不安を抱いていると理解しています。

その一因は、オリンピック・パラリンピックでは感染を拡大させないために、どのような感染対策を講じているのかがはっきりと見えないといったことにあるのではないでしょうか。

どのようにコミュニケーションを図るのか。努力が求められています。

多くの人々が大変な思いをしている中で、こうしたイベントを開催するのであれば、丁寧に説明を尽くすべきでしょう。

感染対策はこのように進め、開催にはこのような意義があると説明するといった、納得感を得る努力が継続して求められます。

時事通信

検疫などを終え、到着ロビーに移動したオーストラリアの女子ソフトボール選手団(6月1日)

ーー昨年7月、当時の専門家会議が解散し内閣府に紐づく専門家分科会へと再編成された際、専門家は改善すべき課題を提示しました。その中にはリスクコミュニケーションに関する課題もありました。あれから1年近くが経過したにもかかわらず、なぜリスクコミュニケーションに関して苦戦し続けているのでしょうか?

これまで、日本にはコミュニケーションという行為そのものに人とお金と時間を費やす意識が足りなかったからだと思います。

スタートラインでかなり出遅れている中で、その遅れを取り戻すことは容易ではありません。

現状は、他の業務の合間に片手間でやっている面もある。ある程度のラインにまで、リスクコミュニケーションのレベルを引き上げるためには、時間がかかると思います。

また、新型コロナに関しては、すでに専門家が国民へ直接語りかけるフェーズは終わっており、どうやって取るべき対策をみんなで納得しながら進めていくのかというフェーズに入っています。

再びの緊急事態宣言を避けるためには何が必要なのか。

しっかりと前へと進めるためには専門家からの発信だけではなく、社会全体で合意形成を図る必要があるのではないでしょうか?そのための対話の場が不足しているように感じます。

リスク認識の共有、「粘り強く続けていく」

Charly Triballeau / AFP=時事

ーー読売新聞は五輪に観客を動員するための案として、政府が入場の際にPCR検査などの陰性証明を求めることも検討していると報じています。この「陰性証明」は検査をした時点の結果のみを示すものであり、偽陰性や偽陽性などのリスクもあるため推奨されていません。

おそらく政府は様々な案を検討しているのでしょう。

観客を入れて開催し、少しでも感染のリスクを減らすために検査をするのであれば、1週間以内に取得した結果ではなく会場に入る直前に簡易検査をするといった方法をとることがより望ましいと思います。

ただし、偽陰性や偽陽性のリスクもありますし、陰性でもなお、会場内ではマスク着用等の基本的な対策は守る必要があります。

ーー選手村で15万個のコンドームが配布されることや、酒類の持ち込みが可能であることに批判の声も上がっています。ハグや握手を禁じる中で避妊具を配布することや、社会では感染対策として酒類の提供自粛が求められている中で持ち込むことを許されていることに矛盾も感じます。

たしかに、矛盾していますよね。

ただし、新型コロナ対策とは別の現実問題として、性感染症のリスク低減は、コロナ対策と並行して取り組まざるを得ません。

「性感染症予防の啓発を目的としている」というのは苦しい言い訳かもしれませんし、矛盾したメッセージであるという指摘もその通りなのですが、現実に目を向ければコンドームを配布する意味はあると思います。

コンドームを配布しなければ濃厚接触をすることはなく、性感染症のリスクは減るのか?そういうわけにはいかないと思います。

お酒に関しても、実際に持ち込みを制限する方法はあるのか?なかなか難しいと思います。

個人的には制限をかけるというよりは、ポジティブな形で選手村の人々に感染対策への協力を呼びかける仕組みを整えることができないものかと思っています

残された時間は多くはありませんが、飛行機に乗った時にユーモアを交えたビデオでシートベルト着用を呼びかけるような工夫ができないか。

ダイニングルームなどの空間を整備する上で検討しても良いのではないかと思います。

ーー毎日新聞は5月31日、五輪開催をめぐっては政府分科会がリスク評価の提言作成を進めたが、出せない状況が続いていると報じています。五輪開催に関する調整会議に参加する中で、現状専門家は科学的な知見を踏まえ言うべきことをしっかりと伝えることができていると感じていますか?

専門家は五輪開催に関するリスクを様々な形で伝えています。

最終的にどのようにリスク管理をするのかは、主催者および政府が下す判断です。

まずは専門家は政府とリスク認識を共有することを粘り強く続けていくしかない。

そして、そのリスクをどのようにしたら減らせるのか、ということをきめ細かに伝えていく、あるいは一緒に考えていく必要があると考えています。

Contact Yuto Chiba at yuto.chiba@buzzfeed.com.

Got a confidential tip? Submit it here