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アクリル板が「感染リスクを高める」「逆効果」?感染対策の専門家に聞きました

アクリル板などパーテーションで仕切る対策は感染リスクを高くするーー。拡散する情報は正確か?感染対策の専門家に聞いた。

アクリル板などパーテーションで仕切る対策は感染リスクを高くするーー。

そのような情報が一部で拡散されている。

飲食店などでもパーテーションは感染対策として使用されているが、リスクを高めるという認識は正確と言えるのか?もしも、使用する場合に注意すべき点は何か?

BuzzFeed Newsは感染対策の専門家、聖路加国際大学QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんに聞いた。

パーテーションで防げる感染経路、防げない感染経路

SNSで広がっているのは、テレビ報道の一部を引用した「パーテーションで仕切るという対策が、かえって感染リスクを高める」「逆効果になる」といった主張だ。

また、米紙・ニューヨークタイムズも同様の内容を報じており、「アクリル板」実は感染対策に逆効果だという衝撃」という翻訳記事もある。

このようなパーテーションは日常生活の様々な場面で活用されている。本当に感染リスクを高める恐れがあるのだろうか?

坂本さんは最初に、「アクリル板などのパーテーションを設置することで、新型コロナを予防できるかどうかについては、まだはっきりとわかっていない」と強調した。

「パーテーションの使用により、人が感染するリスクがどのくらい変化するのか検証した質の高いデータは、調べる限り見当たりません」

こうしたパーテーションに期待されるのは飛沫が目や鼻、口といった粘膜に付着することを防ぐ役割だ。

マスクをしていない人がくしゃみや大声を出して、大きめの飛沫が勢いよく前方に飛び出した場合に、それらを遮断する効果がアクリル板などには期待できる。

「台所で使う油はねガードをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。たしかに、こうした仕切りが間に存在することで一部の直線的に飛んでくる飛沫は遮断できるでしょう」

「しかし、普通の会話の際などに口や鼻から出た細かい飛沫やエアロゾル粒子は、気流に乗ってパーテーションを迂回します。これらの微粒子をパーテーションの反対側にいる人が吸入すれば新型コロナに感染することは起こりえます。残念ながら、パーテーションには吸入による感染経路を遮断する効果はありません」

「リスクを高める」は本当?実際は…

空気の流れを遮り、空気が滞留してしまう形でパーテーションが設置されている場合には、「感染リスクをむしろ高めることにつながる可能性もある」と坂本さんは指摘する。

リスクを高めるかどうかは、あくまで環境の条件次第だ。

「パーテーションは設置しないほうが良い、パーテーションは感染リスクを高める、といったわかりやすい答えが好まれがちです。ですが、現実はそのように単純ではありません」

「どのような大きさのパーテーションが、どこに設置され、その部屋の空気の流れや換気がどうなっているのか。そして、部屋の中に何人の人がいて、どれくらいの発声や動きがあるのか。それら一つひとつの条件次第でその場所の感染リスクは変化します」

具体的にパーテーションが推奨されるのはどのような場面か。坂本さんはマスクを着用できない人が窓口を訪れる可能性がある場所、具体的には病院の受付をひとつの例として示す。

「マスクを着用できない人と近くで話さなければいけない、咳やくしゃみによって飛沫が勢いよく飛んでくるかもしれない場所であれば、パーテーションが必要かもしれません」

「感染対策の面から言えば、お互い会話をする際にマスクを着用しているのであれば、あえてパーテーションを置く必要性は低いでしょう」

「すべての感染をパーテーションで防ぐことはできません。なので、パーテーションを設置している=感染対策を徹底している、とは言えません。飲食店であればパーテーションだけではなく、換気を徹底し、お客さん同士の距離をできる限り開けたほうが良いでしょう」

「なんとなく」の設置はおすすめしない

アクリル板とは別にビニールのカーテンが、スーパーやコンビニのレジや飲食店などで導入されている場合もある。

こうした対策の効果については何が言えるのか。

坂本さんによると、例えば車内でドライバー席と後部座席を完全に分離するためにビニールシートを隙間なく張って使うような場合、それぞれのエリアで換気が問題なく行われるような状況であれば、「仕切っていたとしても感染対策上の問題はほぼない」。

「しかし、店舗などで上からビニールのカーテンを吊るしており、どちらかの空間で空気が入れ替わりにくくなっているのであれば、むしろ感染のリスクを高める恐れがあるので止めたほうが良い」という。

覆われていない鼻や口から直線的に飛んでくる飛沫を避けるために仕切りが必要であれば、遮断が可能な高さと幅がある遮蔽物を、給気から排気への気流を遮らない位置に設置する必要がある。

「なんとなく仕切りを設置するのはおすすめしません。効果も限定的です。気持ちの面で安心するからといった理由で使用しているのであれば、基本的には止めたほうが良いと思います」

白黒つけにくい「感染対策」

効果が限定的であるにも関わらず、感染対策として取り入れられ続けている取り組みはパーテーションだけではない。

スーパーなど店舗で店員が手袋を着用して対応することは感染リスクを下げるばかりか、逆効果にもなり得るため注意が必要だ。

手袋を常にはめていても、何かの拍子にウイルスが付着し、そのまま顔などを触ることで粘膜を通じて感染する可能性がある。

手袋をつけて接客のたびに消毒をするよりも、自分の手を食品などに触れる前には洗うか消毒するといった対応の方が誤った安心感にはつながりにくいという。

しかし、こうした感染対策のポイントを伝え続けても対策に関する誤解がなくなることはない。

感染対策に関する情報をしっかり届けることは容易ではない、と坂本さんは強調する。

「パーテーションは守られているという感覚を得やすい対策ですよね。利用者からしても、感染から守られていると感じるかもしれない。でも、実際には効果は不確実で、状況次第ではリスクを高める場合もあります」

「必要とされる感染対策は、各現場に存在するリスクの種類や程度に依存します。そのため、感染対策にまつわる情報はわかりやすいものばかりではありません。白黒つけにくいものも少なくない。だからこそ、丁寧な情報発信を心がける必要があると思います」


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