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「これまでよりも重症化のスピードが早い」「無力感すら感じる」 止まらない感染爆発、治療最前線の医師が伝えたいこと

「ICUはほぼコロナ専用となっている状態です」千葉大学医学部附属病院で新型コロナ治療にあたる医師の谷口俊文さんはこのように語る。病床が逼迫し、入院できるかどうかは「タイミング次第」だ。

「肺炎が進行し、酸素が必要な状況になったとしても、なかなか入院することができません」

「このまま感染者が増え続ければ、場合によっては自宅やホテルで亡くなる方も出てくるでしょう」

千葉県内で最も重症な新型コロナ患者が搬送されてくる、千葉大学医学部附属病院で新型コロナ治療にあたる医師の谷口俊文さんは現状をこのように説明する。

コロナ治療の最前線で何が起きているのか。そして、感染拡大のピークが見えない中で、現場の医師が何を危惧しているのか。話を聞いた。

※取材は8月12日午前に実施。情報はその時点のものに基づく。

「もうほとんどの病院が手を上げられない」

Yuto Chiba / BuzzFeed

千葉大学医学部附属病院の谷口俊文医師(取材時はマスクを着用し、撮影時のみマスクを外しています)

ーー8月12日朝の段階での、千葉大学医学部附属病院(以後、千葉大病院)のコロナ病床の状況を教えてください。

現在、当院には38人の新型コロナ患者が入院しています。

重症者はICU(集中治療室)に入院していますが、現在は8人が人工呼吸器を使用し、1人がECMO(体外式膜型人工肺)を使用して懸命の治療を行なっている状況です。

また、通常の病棟よりも看護体制などを手厚く整備しているHCU(高度治療室)には中等症の患者が12人入院しています。

この12人は高流量酸素を鼻から吸入する「ネーザルハイフロー」や高濃度酸素が充満した袋から酸素を吸入する「リザーバーマスク」といった処置を必要とする人々です。

そして、別のエリアにも主に中等症の患者さんが17人入院しています。

入院患者の中心はやはり40代、50代です。糖尿病や肥満の方、具体的にはBMIが30以上の方が多い傾向にあります。

千葉大学病院提供

ーーすでに病床はかなり逼迫しつつあるかと思いますが、感染拡大のピークはまだ見えません。感染者数が増えれば一定の割合で中等症・重症の患者が増加します。この現状に何を思いますか?

千葉県では先週までは酸素を必要とするような重症患者は、何とかして入院することができていました。

県の調整本部や保健所・救急隊との連絡と合わせて、第3波以降、私たちは県内でコロナ対応に当たっている医師たちが集まるSlackのチャンネル活用してきました。

そこでは日々、患者の入院に関する情報交換をしています。

例えば、「〇〇で重症の患者が発生しているけど、搬送先がありません。千葉県内で収容可能な病院はありませんか?」といった呼びかけをして、オール千葉で受け入れる努力をする。

あるいは、受け入れ可能な病院が限られる妊婦や小児のコロナ患者の搬送に関して情報をシェアし、搬送先を探すといったことも行われています。

もちろん、医師たちの努力と合わせて県の調整本部や保健所、救急隊の方々も調整を続けています。

こうした取り組みを続けることで、これまでは県全域で何とか病床を譲り合って、できる限りの患者を受け入れる体制を作ってきました。

しかし、8月7日〜9日の3連休にかけて急速にベッドが埋まり始め、現在はなかなか空きが見つからない状況です。

医師たちのSlackでも、3連休の半ばから「もう、どこも満杯です」といった声が聞こえてきました。

申し訳ないけれども、もうほとんどの病院が手を上げられない。

今では自宅やホテルで療養している方の肺炎が進行し、酸素が必要な状況になったとしても、なかなか入院することができません。

多くの患者が本当にギリギリの状態まで、自宅や宿泊療養で過ごしている。

重症患者の中でも重症度をさらに細分化し、その中でも最も重い症状の人を何とかどこかで受け入れるといった取り組みを進めている状況です。

このまま感染者が増え続ければ、場合によっては自宅やホテルで亡くなる方も出てくるでしょう。

入院できるかどうかは「タイミング次第」

千葉大学病院提供

ーー東京では「酸素飽和度が90%を切っていても搬送先が見つからない」といった声も聞こえてきます。千葉県でも同様のことが起こっているのでしょうか?

はい、同じ状況にあると思います。

県の調整本部などからも発信がありましたが、酸素飽和度が90%を切るまでは何とか自宅やホテルで療養をしていただきたい、といった方針で現場は動いています。

(*酸素飽和度は96〜99%が正常値とされ、93%以下となると注意が必要とされている)

宿泊療養に関しては、本当にわずかな台数ではありますが、酸素濃縮機が準備されています。そのため、症状が悪化した場合にまずはホテルで酸素を投与し、それでも改善が見られない場合には入院する、という形です。

ーー先日、「入院依頼の電話を保健所や県から受ける時に思うのは、ショッピングモールで満車の時に駐車スペースを探しているのに似てる」「でも入院は命がかかっているから、意味合いや重みは全然違うとTwiterに投稿していましたね。

本当に、現在の状況はショッピングモールで「満車」のサインが表示される中、駐車スペースを探しているようなものです。

患者の回復や死亡などで、たまたまベッドに空きが出た。その瞬間に搬送依頼の電話が届かなければ、入院することはできません。空きが生まれたと思ったら、すぐにまた満床になってしまいます。

残念ながら、入院できるかどうかはタイミング次第です。

本来は、重症度などから順番をつけて、より重症な患者を空きベッドが生まれ次第、すぐに搬送できるとベストでしょう。

ですが、県の調整本部、保健所、救急隊と様々な搬送依頼のルートが入り乱れている中では、列を整理することは難しい。

千葉県には東京都や神奈川県のように入院待機中に酸素を必要とする人が利用できる「酸素ステーション」も検討はされているものの、まだ整備されていないので、入院待機中の患者の中で誰が最も重症かを見極めることが困難になってしまっています。

ーー中等症や重症の患者への治療の介入が遅れれば、その後の経過も当然変わってくるのでしょうか?

治療を始めるタイミングが遅れてしまうことによる影響は、間違いなくあります。

これまでは中等症1の患者に対して、当院では早めに抗ウイルス薬のベクルリーを投与し、それなりの手応えを感じてきました。しかし、いま搬送されてくる患者は中等症1を通り越し、中等症2が重くなった方ばかりです。

もっと早いタイミングで抗ウイルス薬を投与していれば経過は違っただろうなと思われるケースはたくさんあります。

千葉大学病院提供

抗体カクテル療法に使用するロナプリーブ

ーー最近では、軽症の患者に投与し、重症化を防ぐ抗体カクテル療法も新たに承認されました。菅首相も期待を示す治療法ですが、軽症や中等症1で入院が難しい状況では活用することは難しいのではないでしょうか?

現在のような状況では、抗体カクテル療法を本当に必要としている人に対してなかなか届けられません。

実際に、これまで5人の患者に抗体カクテル療法を使用してきましたが、対象となったのは大学病院の外来でコロナ陽性が判明した高齢者、人工透析中や免疫不全の患者さんなどです。

ーー効果はどの程度あるのでしょうか?

おそらく効果はあると思います。当院で抗体カクテル療法を処方した患者は全員、その後重症化していません。

ですが、基本的に熱が出ている、軽度の咳や鼻詰まりがあるといった軽症の方へと投与する薬なので、その後の経過が、どの程度この治療法によるものなのかははっきりとはわかりません。

「重症化のスピードが早くなっている」

千葉大学病院提供

ICUに入院する患者をケアする様子

ーーこれまでの4回の感染拡大と比較して、何か変化はありますか?

千葉県においては幸い第4波は限定的なものでした。そのため、2020年の年末年始の第3波と比較してお話します。

第3波では、当院にも多くの患者が搬送され、病床が逼迫しました。

様々な医師が同じことをすでに発信していると思いますが、第3波で重症化する人の多くは高齢者でした。しかし、現在では40代、50代の人々が次々に重症化しています。

これが最も大きな変化です。

40代、50代の方が重症化するということが何を意味するのか。それは、どの患者に対しても、重症化すれば命をつなぐために人工呼吸器を使用した治療を行うことが前提となるということです。

我々、医療従事者は何とか命を救いたいと思い、治療に当たっています。

しかし、中にはあらゆる手を尽くしたとしても、残念ながら命を落とす方もいます。

一家の大黒柱で、まさに働き盛り、そんな人が突然コロナで命を落とす。小さなお子さんがいる患者も少なくありません。

つい私たちも、もっと何かできたのではないかと考えてしまうこともあります。時には医師としての使命を果たせなかった自分に対し、無力感すら感じます。現場で働く人々への心理的な負担はかなり大きいです。

また、現場で治療に当たる中では、同じ40代、50代であっても一度重症化した場合、回復までにこれまでよりも長い時間を要する印象です。これはもしかすると、デルタ株による影響かもしれません。

第5波へ突入した当初は重症化する患者の年齢が下がることで、回復に要する時間は短くなると考えていました。しかし、思いのほか、重症者用のベッドの回転率が良くありません。

ーーデルタ株への置き換わりが進む中、必要となる治療も変化しているのでしょうか?

デルタ株の患者が増えてくる中で、これまでよりも重症化のスピードが早くなっている。現場で働く医師は脅威を感じています。

今までやっていた治療法では無理かもしれない。

ですから、今はベクルリーだけでなくデキサメタゾンとバリシチニブという薬も併用し、手応えを確認しています。

ただし、病床が逼迫している影響で、搬送される患者さんの多くはすでに重症の肺炎を発症しています。そうした方にはアクテムラという薬をべクルリーとあわせて使い、治療にあたっています。

状況がこれだけ変化すれば、治療法も変えざるを得ないというのが実状です。

ICUは、ほぼコロナ専用に

千葉大学病院提供

ついたてを隔てたむこう側がICUの病床

ーー懸命の治療の末に新型コロナの致死率は諸外国に比べれば低い水準に抑え込まれています。しかし、一部にはこうした数字だけを見て、「死亡者は少ない」「コロナは風邪」といった主張をする人々もいます。こうした声には何を思いますか?

新型コロナを生きるか死ぬか、という二元論で考える方がいます。

たしかに、数字だけを見れば、亡くなった方の数は少ないと感じるかもしれません。ですが、その裏には医療従事者たちの懸命の治療があります。

現在の致死率はこうした懸命の治療の結果です。かなり症状が悪化したけれども、治療によって死なずに済んだ、という方もかなり多くいる。

この方々は適切な医療が提供されていなければ、命を落としていた人々です。

もしも、私たちがギブアップしてしまえば、何が起きるか。恐らく新型コロナの致死率は跳ね上がります。肌感覚では、治療をしなければ10%ぐらいの人が亡くなるのではないでしょうか。

ーー5類感染症に引き下げれば、病床が逼迫することはないといった意見もありますが、どのように感じますか?

5類感染症にすれば、病床数が増えて、医療現場はもっと楽になるという指摘は度々目にします。しかし、5類であるかどうかは現場の状況には全く関係ありません。

入院している患者、そして現場の医療スタッフを守るためには、陰圧室が必要であったり、専用の病床を作ったりそれなりの環境整備が必要です。

病床をポンポン作って、そこに次々に入院させていく、といったことはウイルス感染症の特徴を踏まえるとできません。

感染力の高さ、そして重篤な肺炎を発症した場合の致死率の高さ、これらへの対応が不可欠です。

なぜ、これほど日本で病床が増えないのか、といった疑問をお持ちの方もいると思います。

しかし、病院が対応しなければいけないのはコロナ患者だけではありません。様々な疾患やケガの治療が行われています。

また、コロナ対応に必要な陰圧室もすべての病院にたくさん確保されているわけではありません。

患者とスタッフの安全に配慮しながら治療を行う上で、そう簡単に病床は増やせません。

千葉大学病院提供

陰圧室を増やすため、空調を調整する様子

ーー千葉大病院はコロナ病床を増やすため、緊急ではない入院や手術を制限する方針を示しました。これによって、どの程度キャパシティーが増えたのでしょうか?

千葉大学病院は救命救急センターとして、通常時であれば幅広く千葉市のみならず、県内全域から重篤な患者を受け入れています。

しかし、現在、全10床のICUのうち9床をコロナ患者に使用しています。ICUはほぼコロナ専用となっている状態です。

これが何を意味するのか。病院の外で発生した重篤な患者さんの受け入れを、千葉大学病院では停止しているということです。

生活している中で突然、心筋梗塞を起こすなど何かしらの病気になることがあると思います。また、交通事故に巻き込まれることもあるかもしれません。

しかし、当院では現在、こうした重篤な患者に対応するための医療が十分に提供できない状態です。

地域の医療を支える機能が低下しています。

「ワクチン接種を」医師の願い

千葉大学病院提供

ーー治療にあたる中で、ワクチンの効果は実感しますか?

ワクチン接種が高齢者に進んだことで、コロナ病棟で見える景色は大きく変わりました。

このまま40代、50代への接種が進めば間違いなく医療現場を取り巻く状況は変わると思います。

高齢者の接種を終えたら次は基礎疾患をお持ちの方、そして65歳以下の方と順番通りで接種が進んでいたら、もしかすると今よりも重症化する人は減っていたかもしれません。

このことだけが悔やまれます。

ーーこの夏の感染拡大を何とか乗り越えれば、その先に希望は見えてくるのでしょうか?

この先に見える景色は、ワクチンの接種率によって大きく変化すると思います。

国民の大多数への接種が終われば、感染が一部で広がっても波はかなり低いものとなるでしょう。

もちろんワクチン接種を終えていても感染する、いわゆる「ブレークスルー感染」なども起こるとは思います。しかし、相対的な感染者数が減るので、医療現場への負荷もかなり減ることが予想されます。

コロナを収束させるためには、私はなるべく多くの人が、子どもを含め、ワクチンを接種するしかないと考えています。

新型コロナの特効薬は現時点では存在しません。現在のコロナ治療は症状を改善するためではなく、死なないことを目標に行うものです。

治療薬が「効く」ということと、ワクチンが「効く」ということでは、大きく意味が異なる。

ワクチン接種をすれば、かなり高い確率で感染や発症、重症化を防ぐことが可能です。だからこそ、多くの人に接種をおすすめしています。

ーー治療の最前線から、いま人々に伝えたいことがあれば教えてください。

現在、緊急事態宣言が発出されているにもかかわらず、感染拡大が続いています。

すでに食事の場だけでなく、家庭内での感染も増えています。また、感染経路不明という方も増加しています。

このような状況では、誰でも感染する可能性がある。

コロナに感染しても死なない、といったイメージを持っているかもしれません。医療従事者の治療によって死ぬことはないかもしれませんが、重症化すれば、かなり辛い症状を経験することになります。後遺症のリスクも無視できません。

いまは外出は極力控え、そして順番が回ってきたらなるべく多くの人にワクチンを接種していただきたいです。

Contact Yuto Chiba at yuto.chiba@buzzfeed.com.

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