「貧困拡大の第2波も襲来」 関東と関西で200世帯の住居確保へ。生活困窮の難民も対象に

    解雇や雇い止めされた人の数が増え続けている中、路上生活者の自立支援などを行うビッグイシュー基金が、コロナで生活困窮に陥った人々が住居を確保するためのプロジェクトを始めることを発表した。2020年8月から2021年8月末までの間、関東と関西で計200世帯を支援することを目指す。

    新型コロナウイルス感染が再び拡大し、解雇や雇い止めされた人の数が増え続けている。そんな中、路上生活者の自立支援などを行うビッグイシュー基金が、コロナで生活困窮に陥った人々が住居を確保するためのプロジェクトを始めることを発表した。

    生活に困った人が住まいを借りる際の費用などを支援する。各国から保護を求めて日本にきた難民も、支援の対象となる。1年で200世帯の支援を目指す。

    民間の団体による支援事業としては、国内で最大級になるという。

    1年で関東と関西で200世帯の支援を目指す

    ビッグイシュー基金が立ち上げるのは「おうちプロジェクト」。アメリカのコカ・コーラ財団から50万ドル(5357万3500円)の助成を受けた。

    アパートなどを借りるには、敷金や礼金などで大きな初期費用がかかる。一度すみかを失えば、お金を貯めて再び賃貸住宅に入り生活を再建するのが難しいという現実がある。

    そこで、生活に困窮する人が賃貸住宅を借りる初期費用と、生活物資や家具を購入する費用などを、必要に応じて支援するという。

    2020年8月から2021年8月末までの間、関東と関西で計200世帯を支援することを目指す。

    ビッグイシュー基金の共同代表で、一般社団法人つくろい東京ファンドの代表でもある稲葉剛さんは「これまでも公的な支援を利用しづらい生活困窮者の方に対し、敷金や礼金などを支援した例はありますが、このような規模で初期費用を支援するプロジェクトは、私が知る限り日本初ではないかと思います」と語る。

    公的支援がない中で…

    厚生労働省は8月18日、新型コロナに関連する解雇や雇い止めが4万5000人を超えたと発表した(見込み数を含む)。

    コロナの感染拡大が始まった当初から、こうした事態は予想されていた。このため支援団体は厚労省や東京都に対し、コロナで住まいを失った人への支援を拡充することを要望し続けてきた。

    東京都は4月、補正予算12億円を計上して住まいを失った人が一時宿泊できるビジネスホテルを借り上げたが、7月で打ち切った。その後、都による新たな支援策は出ていない。

    住居確保給付金などの支援策はあるが、この給付金には初期費用は含まれていないことや上限額の問題もあり、全ての人にとって使いやすいとは言い難いのが現実だ。

    稲葉さんは「行政に制度の改善を求めていく」としたうえで、「自分たちでできることをやる。生活の拠点である住まいをサポートする取り組みをスタートさせることを決めた」と語る。

    連動するコロナと貧困の波

    「新型コロナの第2波だけでなく、貧困拡大の第2波も襲来しています。コロナ禍でステイホームが呼びかけられていますが、ステイするホームがない方々がたくさんいらっしゃいます。感染拡大の波と貧困拡大の波は、多少タイムラグがありつつも、基本的に連動しています」

    稲葉さんは今の状況を、こう説明する。

    稲葉さんらへの相談件数は、6月には一旦落ち着きを見せたものの、再び感染が広がる7月下旬以降、増えているという。特に1度仕事へ戻った人々が再び困窮しはじめており、過去に相談してきた人からの再相談が増えている。

    なかでも、飲食業や性風俗の仕事などで働く人々は、夜の人通りが再び減ったことで、仕事を失ったり収入が減ったりという影響を受けているという。

    各種の給付金や貸付金などを利用し、今はなんとかしのいでいる人も少なくないが、この状況が続けば困窮する人はさらに増える、と稲葉さんは指摘する。

    「都をはじめ自治体や国は、緊急事態位宣言下での一時的な対応ではなく、コロナによる経済不況が長期化することを見据えた上で、セーフティーネットを整備することが求められています」

    今回の「おうちプロジェクト」で支援できる世帯数には限りがある。あくまでパイロットプロジェクトとして「1つのモデルを示したい」という。

    「これまでも我々はハウジングファースト型の支援が必要だと訴えてきました。災害時と同様に、行政が空き家や空室を借り上げて、住まいを失った人へ提供してほしい」

    「これで合計200世帯の住まいを確保できたとしても、全体の中で見ればごく一部です。住まいを失った人、ステイするホームがない人たちの住居をどう確保していくのか、誰もが安心して暮らせる社会をどうすれば作ることができるのかという議論のきっかけになればと思っています」

    公的支援を受けられない難民、どうなる?

    「おうちプロジェクト」の大きな特徴は、二つある。

    まず、ビッグイシュー基金とつくろい東京ファンドだけでなく、池袋で路上生活者の支援を行うNPO法人TENOHASHIなどと連携し、初期の資金の提供だけでなく、その後の支援も各団体で続けることだ。

    さらに、認定NPO法人 難民支援協会と連携し、難民も支援対象とすることだ。

    日本は難民に温かいとは言えない国だ。

    年間1万人ほどが日本で難民申請しているが、結果が出るまで平均で2〜3年かかるうえ、認定率は0.4%(2019年)。国際的に見て極端に低い。2019年に難民に認定されたのは44人にすぎない。

    コロナ禍で、保護を求めて日本に渡ってきた難民は特に厳しい状況に置かれている。

    正規の在留資格を持つ人では多くの場合、難民申請から8ヶ月が過ぎた時点で就労を認められる。また、政府(外務省)からの支援金(保護費)と住居を提供する仕組みがある。

    今もシェルターが必要な状況

    しかし、保護費を受けられるのは年間300人ほど。原則的に2回目以降の難民申請の場合は対象外となり、生活保護などを利用できないケースも多いため、公的支援の網から漏れる人々が少なくない。

    難民支援協会の伏見和子さんは「所持金を使い果たして路頭に迷ってしまう難民の方がいる中で、難民支援協会が提供しているシェルターが必要な状況が続いています」と語る。

    「保証人も用意できず、初期費用となるまとまったお金も持ち合わせていない難民を含む外国人が住居を見つけることは基本的に難しく、難民の方々が日本で生活することを支える上で、住まいを確保するための資金を支援していただけるのは、非常に大きなことです」

    来日してどれほど経過しているのか、就労資格はあるのか、在留資格はあるのか、周りに頼れる人はいるのか。一人ひとり状況は異なる。難民支援協会はこれまで、個別にカウンセリングを行いながら、支援を提供してきた。

    「コロナ禍のなかで先行きが見えない状況です。この先、コロナが収束したとしても経済のダメージは非常に大きく、状況が悪化することが予想されます。そうした中で、母国を離れ、言語の障壁がある難民の方々は最もコロナによる影響を受けやすい人々に分類されると考えています」

    「難民は最も見えない存在の一つ」

    「お金を渡して終わりではなく、その方が自立できるように、誰が隣にいて伴走するのかが問われている、と日々感じます。法律面での専門的知識、生活支援の知見、そして言語スキル。これらを持ったスタッフが寄り添うことで、初めて解決の糸口が見つかるケースばかりです」

    コロナ禍で多くの人が苦しい状況にある中、「税金を払っていない外国人を支援するのか」といった声も出ている。

    「新型コロナウイルスが拡大する中で感じることは、難民というのは日本社会の中では見えない存在だということです」

    「コロナの影響を免れうる人はひとりもいません。このような困難な時期こそ、支え合うことが重要です。特にも逃されがちな方ほど支援が必要で、難民は最も見えない存在の一つと思います。どのような背景があっても、安心して暮らせることが必要で、難民においても生活の保障がなされるべきと考えています。根本的には安定した立場を作ることが必要です。その観点では、現在の難民認定率0.4%は、あまりに低すぎます」