【全文】痛恨の極み、断腸の思い… 辞意を表明した安倍首相が会見で語ったこと

    コロナ対策、安全保障の課題について説明をした上で切り出されたのは、内閣総理大臣を辞する意向だった。

    安倍晋三首相は8月28日、会見で内閣総理大臣を辞任する意向を表明した。

    2020年8月24日には2012年の政権復帰からの在任期間が2799日となり、佐藤栄作氏が持っていた歴代最長在任期間を超えたばかり。

    歴代最長在任期間を更新してから、わずか4日での辞任の決断は多くの人に衝撃を与えた。

    会見で語られた首相からのメッセージ全文は以下の通りだ。


    猛暑が続く中、コロナウイルス対策、熱中症対策と国民の皆様にはダブルの対策に万全を期していただいておりますこと、国や地方自治体から様々な要請に対して、ご協力をいただいておりますことに感謝申し上げます。

    コロナウイルス対策につきましては、今年1月から正体不明の敵と悪戦苦闘する中、少しでも感染を抑え、極力重症化を防ぎ、そして国民の命を守るため、その時々の危険の中で最大の努力を重ねてきたつもりであります。

    そのような中、多くの方々が新型コロナウイルスにより命を落とされました。お亡くなりになられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

    今この瞬間も患者の治療に全力を尽くしてくださっている医療従事者の皆様にも重ねて御礼申し上げます。

    本日、夏から秋、それから冬の到来を見据えた今後のコロナ対策を決定いたしました。この半年で多くのことがわかってきました。3密を徹底的に回避するといった予防策により、社会経済活動との両立は十分に可能であります。

    レムデシビルなど症状に応じた治療法も進歩し、今40代以下の若い世代の致死率は0.1%を下回ります。他方、お亡くなりになった方の半分以上は80代以上の世代です。 重症化リスクが高いのは高齢者や基礎疾患のある方であり、一人でも多くの命を守るためには、こうした皆さんへの対策が最大の鍵となります。

    冬に向けてはコロナに加え、インフルエンザなどの流行で発熱患者の増加が予想されます。医療の負担軽減のため、重症化リスクの高い方々に重点をおいた対策へ今から転換する必要があります。

    まずは検査能力を抜本的に拡充することです。冬までにインフルエンザとの同時検査が可能となるよう、1日20万件の検査体制を目指します。特に重症化リスクの高い方がおられる高齢者施設などでは、地域の感染状況を考慮し、職員の皆さんに対して定期的に一斉検査を行うようにし、高齢者や基礎疾患のある方々への集団感染を防止します。

    医療支援も高齢者の方々など重症化リスクが高い皆さんに重点化する方針です。新型コロナウイルス感染症については、感染症法上、結核やSARS、MERSといった2類感染症以上の扱いをして参りました。

    これまでの知見を踏まえ、今後は政令改正を含め、運用を見直します。軽症者や無症状者は宿泊施設や自宅での療養を徹底し、保健所や医療機関の負担軽減を図ってまいります。

    コロナ患者を受け入れている医療機関、大学病院などでは大幅な減収となっており、国民のために日夜ご尽力いただいているにも関わらず、大変な経営上のご苦労をおかけしております。経営上の懸念を払拭する万全な支援を行います。

    インフルエンザ流行期にも十分な医療提供体制を必ず確保いたします。以上の対策について、順次予備費によって措置を行い、直ちに実行に移してまいります。

    コロナ対策と並んで、一時の空白も許されないのが我が国を取り巻く厳しい安全保障環境への対応であります。北朝鮮は弾道ミサイル能力を大きく向上させています。これに対し、迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命、平和な暮らしを守り抜くことができるのか。一昨日の国家安全保障会議では、現下の厳しい安全保障環境を踏まえ、ミサイル措置に関する安全保障生活困窮の新たな方針を協議いたしました。今後速やかに与党調整に入り、その具体化を進みます。

    志半ばで職を去ることは断腸の思い

    以上、2つのことを国民の皆様にご報告させていただいた上で、私自身の健康上の問題についてお話しさせていただきたいと思います。13年前、私の持病である、潰瘍性大腸炎が悪化をし、わずか1年で総理の職を辞することとなり、国民の皆様には大変なご迷惑をおかけいたしました。

    その後、幸い、新しい薬が効いて、体調が万全となり、そして国民の皆様からご支持をいただき、再び総理大臣の重責を担うこととなりました。

    この8年近くの間、しっかりと持病をコントロールしながら、何ら支障なく総理大臣の仕事に毎日、日々全力投球することができました。

    しかし、本年、6月の定期検診で再発の兆候が見られると指摘を受けました。その後も薬を使いながら、全力で職務に当たってまいりましたが、先月中頃から体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状況となりました。

    そして、8月上旬には潰瘍性大腸炎の再発が確認されました。今後の治療として現在の薬に加えまして、さらに新しい薬の投与を行うことといたしました。今週初めの再検診においては、投薬効果があると確認されたものの、この投薬はある程度継続的な投薬が必要であり、予断は許しません。

    政治においては最も重要なことは結果を出すことである。私は政権発足以来、そう申し上げ、この7年8ヶ月、結果を出すために全身全霊を傾けてまいりました。

    病気と治療を抱え、体力が万全でないという中、大切な政治判断をあやまること、結果を出さないことがあってはなりません。国民の皆様の負託に自信を持って応えられる状態でなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきでないと判断いたしました。

    総理大臣の職を辞することといたします。

    現下の最大の課題であるコロナ対応に障害が生じるようなことはできる限り避けなければならない。この1ヶ月程度、その一心でありました。悩みに悩みましたが、この足元において、7月以降の感染拡大が減少傾向に転じたこと、そして冬を見据えて実施すべき対応策を取りまとめることができたことから、新体制に移行するとすれば、このタイミングしかないと判断いたしました。

    この7年8ヶ月、 様々な課題にチャレンジしてまいりました。残された課題も、残念ながら多々ありますが、同時に様々な課題に挑戦する中で達成できたこと、実践できたこともあります。

    全ては国政選挙のたびに、力強い信任を与えてくださった、背中を押していただいた国民の皆様のおかげであります。本当にありがとうございました。

    そうしたご支援をいただいたにもかかわらず、任期をあと1年残し、他の様々な政策が実現途上にある中、コロナ禍の中、職を辞することとなったことについて、国民の皆様に心よりお詫び申し上げます。

    拉致問題をこの手で解決できなかったことは痛恨の極みであります。ロシアとの平和条約、また憲法改正、志半ばで職を去ることは断腸の思いであります。

    しかし、いずれも自民党として国民の皆様にお約束をした政策であり、新たな強力な体制のもと、さらなる政策推進力を得て、実現に向けて進んでいくものと確信しております。

    もとより次の総理が任命されるまでの間、最後まで、しっかりとその責任を果たしてまいります。そして治療によって、なんとか体調を万全にし、新体制を一議員として支えてまいりたいと考えております。

    国民の皆様、8年近くに渡りまして、本当にありがとうございました。