AV女優は道具ではなく生き方だった――伝説の監督、村西とおるが「全裸監督」で描かれること

    8月8日(木)から配信されたNetflixオリジナルシリーズ『全裸監督』は、放送禁止のパイオニア、村西とおるを山田孝之が演じる。バブル期の日本を舞台に、元営業マンの村西が規制と戦いながらアダルトビデオ業界でのし上がっていくストーリー。限界ギリギリの本作はどうやって作られたのか? 武正晴総監督に話を聞いた。

    アダルトビデオ、村西とおる、女子大学生、歌舞伎町、SMぽいの好き。

    そんな文字が並ぶ企画書を見た瞬間、「正気か……?」と思った。

    8月8日(木)から配信されたNetflixオリジナルシリーズ『全裸監督』は、放送禁止のパイオニア、村西とおるを山田孝之が演じる。バブル期の日本を舞台に、元営業マンの村西が規制と戦いながらアダルトビデオ業界でのし上がっていくストーリーだ。

    Netflix

    カメラを背負い、自ら男優を務めながら撮影するスタイルは世間を驚かせた。相手をするのは、彼に見いだされた大学生だった。

    佐原恵美のちの黒木香。

    現役大学生が、村西と共に生み出した『SMぽいの好き』は、異色のアダルトビデオとして一世を風靡した。『全裸監督』ではこの撮影現場も描く。

    BuzzFeed / Yui Kashima

    総監督を務めた武正晴は「よくこんな企画が通ったと驚愕した」と語る。日本のアダルトビデオ業界の物語を世界190カ国に向けて発信するのだから――。

    これまでの100年、映画は男の目線で作られてきた

    前科7犯、借金50億円、アダルトビデオの帝王。これらは村西とおるの枕詞だ。さらに、49番目の体位「駅弁」を発明した男優と異名が続く。

    強烈な興味を引くものの、単語を並べただけで炎上しそうなワードでもある。

    「今、不道徳的なことは絶対に許されない風潮があるでしょう? それで良い世の中になればいいんですけれど……。悪気がなくとも、矯正されていく。これを言っちゃだめ、ああいう表現はしちゃダメ、と」

    「『全裸監督』は誤解を受けるリスクがある。でも、あえてそれを選び、チャレンジしていくのは良いことだと思うんです。ただ、今まで通りの捉え方で制作しては駄目」

    村西はハワイでFBIに拘束される。日本でも警察に追われていた。

    今まで通りとは、どういうことだろうか? 『パッチギ!』や『サトラレ』などで助監督を務め、『百円の恋』では日本アカデミー賞では優秀監督賞を受賞した武は言う。

    「この100年ほど、映画をはじめとするドラマツルギーの多くが『男の目線』で作られてきたんですよね。例外もありますが、基本的に男の人が主役で物語が展開する。でも、これからの時代、それだけでは通用しない」

    「男だ、女だというセグメントではなく、トランスジェンダーの方だっている。性別や人種、宗教の違いを頭に入れて制作しないと、観る人は納得してくれない。世界に向けて発信していくならば、特に」

    黒木香が、村西とおるを「飲み込んだ」

    物語の構成に新味を足した。村西とおるの視点だけでなく、同じ分だけ黒木香の視点も描く。男の視線、女の視線。2つの眼差しで世界を見る。

    森田望智演じる恵美(黒木香)。物語の序盤は、物静かな雰囲気。

    黒木は、厳格に育てられ、抑圧される日々を虚しく過ごす。性的快楽に興味がありながらも、自分を肯定できずにいた。一方、村西は妻の浮気によって一家が離散し、一念発起して性欲を売る世界へ飛び込む。

    「村西さんと黒木さんの物語を並列させて動かしました。その2つの物語が5話で交差する。かたや社会的にも性的にも自立したい女性、かたやアダルトコンテンツ業界でのし上がっていこうとする男性。この2人がぶつかった瞬間、何かが生まれる」

    大学生の黒木が村西の前に現れたとき、こう宣言する。

    本当の自分でいたくなったから。自由で、奔放で、もしかすると汚らしい自分です。ありのままを生きたいんです。

    彼女は自由を手に入れるためにアダルトビデオ業界の扉を叩き、村西はそれを尊重した。この時初めて黒木は自分を肯定し、アダルトビデオ女優として開花した。

    自慰に興じながら挑発し、性行為へと誘う。黒木は絶叫しながらのたうちまわり、疲れ果てた村西を飲み込んでいく。女性がこんなことをやってもいい、奔放でいい、という強烈な瞬間を画面いっぱいに映し出した。

    「撮影中、村西さんが負けちゃう瞬間がある。この描写は本家の『SMぽいの好き』でもあったんですよ。僕は、女の人のパワーは男を取り込むほど力強いと思っているんですね。それをどうにかして描きたかった」

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    事実、『SMぽいの好き』は性文化に革命を起こしたという。村西とおる自身が「女性と一対一で相まぐわう、はたし合う、拮抗するという、そういう世界で世の中に送り出したその嚆矢となった」と自負するぐらいだ。

    1986年。男女雇用機会均等法が施行された年に発売された『SMぽいの好き』は、黒木だけでなく、世の中に新しい女性像を放った。

    描きたかったのは、女性の自立

    「自由を手にして主張するヴァキナになったんです」

    黒木は堂々と宣言する。

    物議を醸したデビュー作を引っさげ、「わたくし」「〜でございます」という古風な言葉遣いで理路整然と語る彼女は、時代の寵児となった。テレビ番組で論壇と肩を並べ、隙のない応酬をする。雑誌の連載では、村上龍や中上健次といった知識人を驚愕させる完璧な対談をこなした。

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    「当時、AV女優という仕事に対して差別的な眼差しがあって、この仕事に就いた人たちは非常に苦しい経験もたくさん思う」と武は言う。

    劇中でも、AVに出演したことが公になり、勤め先でいじめに遭う女性も登場する。偏見は確かにあった。そんな世の中を変えていこうと、一歩踏み出したのが黒木香だった。

    「黒木さんはAV女優の印象を変えた。言葉を武器に、テレビで文化人と対等に話すことで、AV女優は道具ではなく、生き方のひとつであって”職業”なのだと世の中に発信した。エポックメイキングという言葉がよく似合う」

    Mio Hirota

    『全裸監督』には、現役のAV女優も出演している。現場での立ち振舞いはプロフェッショナルそのもので、武は胸を動かされたという。

    「彼女たちは、芝居もできますし、発想もちゃんとしている。自分たちの女優業に誇りを持っていて、何ひとつ後ろ向きになるものがない。彼女たちのプロとしての立ち振る舞いは、現場でとても助けられました」

    「躊躇してしまうようなアダルトなシーンに対しても、照れを一切見せずに、仕事として的確にきっちり芝居をする。画面写りもしっかり考慮して動くから見せ方が上手い。見事なものですよ」

    森田に演技指導をする様子。森田曰く「監督が体を張ってポーズを指導してくださるので、恥ずかしがっている自分がアホらしく感じてしまった」そうだ。

    黒木香を演じた森田も、共演した現役AV女優たちに影響を受けた一人だった。彼女は、強烈な役を演じるにあたって気後れがあった。人前で裸になり、快楽の表情を見せることに躊躇するのは当然だろう。しかし、現場で的確に動く現役AV女優たちの仕事ぶりを見て、「私は何を尻込みしていたのか」と肝を据えた。

    プロ意識が、ひとりの若手女優の背中を押したのだ。

    「現場でAV女優さんたちの仕事ぶりを見ると、AVに出ていることを『隠さなくてはいけない時代』から、『公言できる時代』になったんだと実感しましたね。世に求められている職業として成り立つようになった」

    Netflix

    武正晴は、これまでも「地球上で一番強いのは女性なのではないか」と語ってきた。不器用ながら強かに生きる女性は、王道な生き方とは異なるかもしれない。それこそが、物語の役割だとも言う。

    「僕が監督を始めた頃は、イケメン作品っていうのかな……青年群像劇がブームで、そういう作品もたくさん作ってきました。でも、個人としては、女の人の強さをいろんな作品で出したいと常に思っていて。この作品でも、女性の自立を描きたかった。誰かと恋に落ちて、困難を乗り越え、結婚して……というハッピーエンドもあるけれど、そうじゃない生き方だってある。欠陥があったり、不条理な人生に立ち向かう強い女性……そこに主人公を見出したい」

    「ずっと強い女性を描きたいと話をしていたら、はからずも時代がそうなったと思うんです。だって、女性が007になる時代ですからね。きっと、みんな同じことを思っているんだろうなと。繰り返しになりますが、これまでの100年は男の人の視点で作られてきた。でもこれからの100年はそうはいかない。その着地点のひとつが『全裸監督』でもあります」

    漂白される世の中で

    表現と道徳のバランスは難しい。冒頭で武自身が述べているように過度な正しさを求める視線も存在するからだ。聞こえてくる声すべてにアジャストしようとすれば、不道徳な物語は描けない。そこに心震わされるドラマはあるのだろうか。

    「世間的な道徳心の流れはある。でも、何かを創る仕事をしている人たちは、個人の持っている道徳心を大事にする方が良いと思うんですよね。誰かが言っているからこう、ではなくて。自分の中にある考え。その中で、ひどい人生やどうしようもない物語を表現していかないといけない」

    Netflix

    「僕は今でも毎日ケンカばかりしています。この台詞は過激すぎるので削ってくださいって。確かにひどい言葉回しかもしれない。でも、言葉を変えただけで何ひとつ変わらないんですよ」

    「”アダルトビデオ”という言葉をなかったことにするのは間違い。今は、セクシー女優と呼ばなくてはいけないそうですが。かつてこういうことがあった。その評伝や言葉を隠すのは違う」

    隠す。

    「壁……というのかな。現場レベルではなくて、いろいろなところでありますよね。観た人は個人としていろいろな意見を持つだろうし、発言するでしょう。でも、構わないです。万人を幸せにできる作品なんてないと思うから」

    劇中に、こんなやりとりがある。

    「隠すんですか? モザイクみたいに」と黒木が聞く。すると村西はこう返す。「俺がどれだけモザイクが嫌いか知っているか?」

    隠す。

    それは、村西や黒木も忌避した行為だった。


    STORY:
    会社は倒産、妻に浮気され絶望のどん底にいた村西(山田孝之)はアダルトビデオに勝機を見出し仲間のトシ(満島真之介)、川田(玉山鉄二)らとともに殴り込む。一躍業界の風雲児となるが、商売敵の妨害で絶体絶命の窮地に立たされる村西たち。そこへ。厳格な母の元で本来の自分を押し込めていた女子大生の恵美(森田望智)が現れる。ふたりの運命的な出会いは、社会の常識を根底からひっくり返していくのだった―。

    Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』

    総監督:武正晴

    監督:河合勇人、内田英治

    出演:

    山田孝之 満島真之介 森田望智 柄本時生 伊藤沙莉 冨手麻妙 後藤剛範 ・

    吉田鋼太郎 板尾創路 余 貴美子 / 小雪 國村隼 /

    玉山鉄二 リリー・フランキー 石橋凌

    原作:本橋信宏「全裸監督 村西とおる伝」(太田出版)

    脚本:山田能龍、内田英治、仁志光佑、山田佳奈

    美術監督:中西梨花 音楽:岩崎太整

    撮影:山本英夫 美術:清水剛 照明:小野晃

    録音:竹内久史 衣装デザイナー:小川久美子

    配信:2019年8月8日(木)、Netflixにて全世界独占配信

    【Netflix作品ページ】https://www.netflix.com/全裸監督

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    バズフィード・ジャパン スタッフライター

    Contact Yui Kashima at yuuuuuiiiiikashima@gmail.com.

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