明らかにシュリンクしている業界を横目に、気づかない様に振る舞っている人の多いこと。自分たちにとって重要な問題について寄り添って考えてくれる人は多くない。
こう綴るのは、アーティストtofubeatsだ。森高千里や藤井隆といったゲストボーカルをひっさげてデビューしてから4年、10月3日にはメジャー4枚目のアルバム『RUN』をリリースする。
現在、27歳。ネット世代の音楽家として注目を集めてきた彼は、マーケットに対してシビアな視点を持っている。

音楽ジャーナリストでもあり、『WIRED』の元編集長・若林恵との対談の場で語ったのは、音楽業界にとどまらない、コンテンツにおける「拡がり」の変動だった。
「人は50分も音楽、聴かないでしょ」という流れ
若林:今、良質なポップアルバムを聴くってどういう意味なんだろう?
僕の見立てだと「音楽は楽しい気持ちになれる」っていう機能はどんどん失われて、少しポリティカルなステートメントを表明するものになって来てるように見えるんですよ。
tofuくんの前作『FANTASY CLUB』はポスト・トゥルースを題材にしていて、世間に対する疑問が込められていたと思う。でも、今回はいいラブソングが入っていたりする。
時流的に、「ラブソングを聴くってなんだっけ?」って思ってしまって。

tofubeats:思い切って問題意識を投げるのは『FANTASY CLUB』を作ってみて、効果的じゃないって思ったんです。うまく伝わりきらないというか。
だから今回は歌詞にも気をつけて、スパッと軽やかに。ラブソングも入っているけれど、言いたいこと自体はあまり変わってません。
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アルバム表題曲『RUN』
若林:『RUN(走る)』って言ってるけれど、爽快感がない。空虚感と言うか……僕、砂の上を走る夢をよく見るんです。校了の前とかに。そんな感じ
tofubeats:ベタな夢見るんですね(笑)。僕は、J-Pop聴いて育ってきたので、「本格的」っていうのがよくわからないんですよ。「ちゃんとした音楽ってどういうことや?」って思っていて。
若林:その感じはtofuくんの曲に出ているね。疑問を常に感じながら……例えばアルバムっていうフォーマット自体に対して。
今年はカニエ・ウェストが5週連続で7曲入りのアルバムをリリースしたのが話題になった。これは「人は50分も聴かないだろう」という考えや制作スピードを担保するために曲数を減らしたってことだと思う。つまり、アルバムというフォーマット自体がかなり揺らいでいるんです、今。
tofubeats:そうですね、揺らいでる。
作って終わりじゃない。YouTube、Instagram……プラットフォームによって「出し方」は変わる

若林:変動の中でtofuくんはいろんな理由があってアルバムを作っているんだろうけれど、そうでなければいけない必然性は、今あるのかな?
tofubeats:必然性は、そんなにないですね。
若林:例えば、『万引き家族』の細野晴臣さんが作ったサウンドトラックがすごくいい。全部1分程度で終わって14曲入っている。トータルで聴いても15分ぐらいで収まっていて、それがいい。
聴いていて気持ちよくなってきた時に終わってしまう。曲の予測ができたぐらいに次の曲が始まる。連鎖的なものそれ自体が音楽的だなと思ったんですよ。
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tofubeats:自分が劇伴を担当した映画『寝ても覚めても』のサウンドトラックも全部で10分弱です。
『万引き家族』を見て、こんなすごい楽曲とカンヌ映画祭で並んでいたのかと思って震えましたけれど(笑)。でも、これまでの自分とは全然違う音楽だったから、良かったと思ってます。
若林:そうだね、曲も3分ぐらいの尺で作るフォーマットがあるけれど、違うものが生まれてきたら面白いと思う。
tofubeats:新曲『RUN』は1分54秒ですが、本当は1分20秒にしたかったんです。そうしたら「試聴用に長さが足りないから、伸ばせない?」と言われて(笑)。
若林:ティエラ・ワックの『Whack World』は好例。彼女は当初、アルバムを作るときにアイディアがとっちらかってしまって、まとめられなかった。そこでコンセプトを「インスタのストーリーでやれる範囲」に限定したんです。ストーリーに投稿できる動画は1分。だから全曲を1分で仕上げた。それが上手く機能してるんですよね。
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tofubeats:そう思います。実は、『RUN』で声が入っているのは、50秒くらいしかないんです。その尺で2コール……1番、2番って作れる。
ただ、YouTubeとかInstagramとかSNSによって最適なフォーマットが違う。iTunesの視聴は30秒、90秒の2パターンがあって、そういうところで難しさはあります。
例えば『RUN』は短いからInstagramに動画をあげられるし、YouTubeでの満足度が高い。でも逆にサブスクリプションではあまり聴かれない。
手間暇かかったコンテンツは良いものなのか? 短くちゃ、ダメなの?
若林:フォーマットの挑戦って日本ではあまり見ないね。
tofubeats:そうですね。確か、長さや曲数でアルバム1枚という定義が一応あるはず。
若林:それを捨てないと……シュリンクしていく気がするな。
tofubeats:逆に僕はシングルCDに40分ぐらいで8曲いれたりしていたぐらいで。実質アルバムなんですけれど、お得感みたいなものを謎に信奉している時期が長かったです。

若林:雑誌ってだいたい200ページぐらい作らなきゃ成立しなかったりするんですよ。でも、200ページもあると緩急とか起承転結を想定せざるを得ないので、「一応入れておくか」というページが必要になってくる。
捨て曲という概念があるかはわからないけれど、それに近い。一応そのページにも労力はかかるわけで、「これって意味あるんだっけ? 40ページしかなくても凝縮した取材一発モノで、雑誌は出せないのか?」とも考える。

WEBだとそういうことができると思ったものの、違かった。実際、インタビュー記事をライターさんが提出してくるまでって2週間くらいの時間がいるんです。全然いいんだけど、重い。取材の現場でみんなでバーっと作るとか、違う表現を作れないかなって思ったりしますね。
tofubeats:全部「剛速球で作った3曲」みたいな制作もやってみたい。でも、自分は「長く聴いてもらえる」のが一番の価値だから悩ましいところ。カニエの「5週連続でリリース」も、真似したいと思いました。でも一方で「5年後それを聴くか?」とも考える。
速度が出ればいいという話もわかるのですが、スピード感にチューンアップされすぎているような気がして。

自分の曲の中で気に入ってるものって多く再生されないことが多いんです。評価を見つつも、違って当たり前というか。自分が嬉しい曲と人が嬉しい曲は違うんだなぁと思っていて。
DJをやっていると体感するのが、今のお客さんって5〜7分の曲だと暇になっちゃうんですよ。でもあえてアルバムには7分ある曲を入れました。「アルバムだから入れられる曲」も好きだから。長い曲やインストの楽曲も、機会があるなら愛好してもらいたい。売れるとは思っていないけど。
こういうテーマはずっと変わっていないです。

インターネットがあるから、僕は神戸にいながら音楽をやって良いんだって思えているんですけれど、DJもやっているから東京にいた方が便利。でも「みんなが東京に行ったら地方の人はどうなっちゃうの?」とも思っていて。
「J-Popをツタヤで借りて育ってきた奴に音楽できるの?」とか「地元にはクラブが少ないけれどDJできるの?」とか。でも、「そうじゃなくていい」ってことをインターネットを見て感じていたので、「そうじゃない」って思われるのが悔しい。
これが音楽活動のテーマで。着実にやり続けていたら映画のタイアップもできるようになったし、コツコツと音楽を続けていけたらいい。音楽業界も、今より少しは存在感が出るようになるといいなと思います。