テストの最終日、とんでもなくバズってしまった僕は、気がつけばサマソニのステージに立っていた

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テストの最終日、とんでもなくバズってしまった僕は、気がつけばサマソニのステージに立っていた


朝、起きたらTwitterのフォロワー数が5000人以上増えていた。しかも、まだ増え続けて「桁」が変わりそうだ。目立つツイートをしたわけではない。思わずスマホの故障を疑った。

調子のおかしいスマホを持って登校した中間テストの最終日。コンビニで昼食を買い、中学の時からの友だちと公園で食べていた。友だちが豚しゃぶうどんを食べる姿を眺めて「渋いね〜」と、気の抜けた会話をしているときだった。震えたスマホにLINEが届く。

「すごいことになってるよ!! あの川谷絵音さんがプロデュースさせてだって!」

えっ......何!?

「これ好き。」というシンプルな文言に、ギターを鳴らしながら歌う自分の姿。何気ないツイートは3万回以上リツイートされ、動画は300万回以上再生されていた。

そして、ゲスの極み乙女。の川谷絵音が「超良いな。プロデュースさせて〜」とコメントしている。

超良いな。プロデュースさせて〜 https://t.co/HJh40D7vLJ

それだけではない。岸田繁、坂本美雨、スガシカオ......多くの音楽家たちが自分の歌に舌を巻いていた。

「天才」「存在が『うた』のかたまりだ。 」「最高」

こんなツイートが星のように駆け巡っている。スマホの調子がおかしかったのは、この"せい"だったのだ――。

「うわぁ、嬉しいな。なんでだろう? うわぁ......やばいなぁ」

よく晴れた日だった。隣で豚しゃぶを食べていた友だちの箸は止まっていた。

崎山蒼志、シンガーソングライター。取材現場に現れた姿は、動画で見たときより精悍な顔立ちになっていた。変化のスピードは、彼がまだ少年である証だ。

一夜にして、注目をかっさらった学生。すでに300曲以上の楽曲を作ってきたという崎山は、まだ16歳の高校1年生なのだから。

ひとつのツイートで人生が変わった

崎山がインターネット上で「発見」されたのは、ひとつのツイートがきっかけだった。ネット放送局のAbemaTVの『日村が行く!』のコーナー「高校生フォークソングGP」に出演したときの動画が「バズった」のだ。

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はじめての収録、はじめて会う芸能人。13歳の時に作った『五月雨』を披露すると、テレビで見てきたスターたちに絶賛された。

バンドコンテストで優勝したこともあったし、ライブだって何度もしてきた。でも、今回は違った。

胸の底がワクワクするように嬉しかった。この興奮を誰かに言ってしまいたい。でも、そこには「情報解禁前」という大人の約束もあった。痒くなる高揚を抑えるのが、なんだかもったいない。言いたいけど言えない状況に、はじめて学校に行きたくないと思った。

その後、収録から半年もしないうちに、日本で最も有名なフェスのひとつ「サマーソニック」の舞台に立つことになる。

トップアーティストたちが名前をつらねる場所で、自分が歌っている実感はなかった。観客の向こうに、一番大きなステージが見える。

「うわぁ、サマソニだ......」

夢なのか現実なのか、よくわからない。中間テストの最終日から、ずっとフワフワした感覚が続いていた。

4歳の時、ヴィジュアル系バンドに出会って

2002年生まれの崎山の音楽は、どこにルーツがあるのだろうか。

「根底にあるのは、母」だと言う。

BUCK-TICKやヴィジュアル系、UK ロックが好きな母は、いつも息子に音楽を聴かせた。その中で、当時4歳の崎山少年の心を掴んだバンドがあった。ヴィジュアル系バンドのthe GazettEだ。

「PVがすごくかっこよくて、母も好きだったから初回特典がついているライブDVDもよく見ていて。それで僕もギターをやりたくなって、教室に通わせてもらいました」

家で流れる音楽は、母好みのものが多かった。ナイトメア、マリリン・マンソン、ナイン・インチ・ネイルズ、YMOまでよく聴いた。

「赤盤(『UC YMO』)っていう、坂本龍一さんがセレクトしたアルバムがあって。お母さんが好きだったみたいで。坂本龍一さんが美しいから。美しいものが好きなんです。こういう音楽を聴くと、ワッと体が反応します。原点というか血肉になってる気がする」

同級生が聴いている音楽とはまるで違う。大衆の香りがするような音楽は抵抗があった。

「小学校低学年くらいまでは、音楽に対していいと思ったものしか受け入れないタイプでした」

変化があったのは、父の影響だ。飲食系の仕事に就く父は、ほとんど家にいなかった。たまの休みには、車を走らせて温泉に行く。車中で流れるのは父好みの音楽だった。リンキン・パーク、マイケル・ジャクソン、プリンスからスガシカオ。母が聴いていたものとは少し違った。

「その時は好みではなかったけれど、ずっとひっかかっていた。かっこいいなぁって思っていて」

小学3年生の時、父がタワーレコードでCDを買ってくる。

「お父さんが、SEKAI NO OWARIのCDをタワレコで買ってきて。ヴィジュアル系一辺倒だったので、そういう音楽は聴いたことがなかったんですけれど、良いなぁって思った」

SEKAI NO OWARIを皮切りに、邦ロックにも興味が出た。KANA-BOON、きのこ帝国、NUMBER GIRL。音楽番組で歌うミュージシャンたちは何よりも輝いて見えた。

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12月5日に発売されたアルバム『いつかみた国』挿入曲『国』 / Via youtube.com

「小学5年生のときに、カウントダウンTVでクリープハイプを見て衝撃的で。女の子が泣いてて、高い声の男の人が歌ってて。コピーバンドもやるくらい好き。歌い方にもすごく影響を受けてると思います」

ギター教室のメンバーと一緒にバンド「KIDS A」を組む。作曲に目覚めたのは小学6年生の時だった。

明るい男の子の隣にいるヤツ

駅前で路上ライブをしたり、YouTubeに歌う姿を投稿すると、少しずつ「コンテストに出ないか」と、声がかかるようになる。

「バンドメンバーはサッカー部とかで忙しい。僕は美術部なので時間はあって。そうすると一人でやっていくことが多くなって、バンド活動は年に3回くらい。今は休止中です」

一人で人前に出ることは怖くないのだろうか? それも自分が作った曲だ。

「ギターを持っていると大丈夫。一人で立ってるって意識もないです。歌ってるときは人の目は気にならない。でも、歌ってない時はやばい(笑)」

「曲作りをしてる時も、自分をさらけ出してるって意識はなくて、ぼーっとしてます。いろんなものから影響をうけて作ってるので」

スガシカオのコードを「複雑で面白い」と分析し、自分なりにカスタマイズして音の流れを作ることもある。歌詞の作り方も同じだ。中村文則や吉田修一の小説を読みながら、ひっかかった言葉が頭に溜まっていく。

例えば『五月雨』は、「あなたが針に見えてしまって」という歌詞から、サビに続く。

すばらしき日々の途中
こびりつく不安定な蒼に全ての声の針を
静かに宇宙でぬらすようにすばらしき日々の途中
こびりつく不安定な意味で美しい声の針を
静かに泪でぬらして

「針」のメタファーは、「昔、どこかの歌詞で見た『棘』を自分流にした感じ」と答える。

「中1の時、あんまり学校が楽しくなくて、そういう気持ちが入っているんだと思う」と、他人事のように話す。リスナーから褒められて、はじめて歌詞の意味に気がつくこともある。

学校では音楽の話は、ほとんどしない。取材日は8月末だったが、芥川龍之介の『羅生門』を書き写す夏休みの宿題だけ、まだ終わっていなかった。

「同じ中学の友だちがいて、音楽の話はしないけど仲がいい。その子は明るいから、自分は"その人の横にいるヤツ"っていう存在だと思います」

だからこそ、音楽フェスやライブに呼んでもらえると「ありがたいなぁ」と思う。生活に不満があるわけではない。でも、なんとなく「ここから抜け出したい」気持ちが、解消される。

インターネットは「怖い」と思ってた

音楽の方向性にこだわりはない。「自分っぽくない音楽も作ってみたい」と話す。中古楽器店でマリンバを手にとってみたり、iPadに入ったGarageBandで打ち込みを試してみたり。

音楽を作っていると友だちもできる。駅前でライブをしていた時に出会った地元のアーティスト仲間とは、のびのびと音楽の話ができる。

生まれたときからそこにあったインターネットだが、「好き勝手に言えちゃうツールなので、怖いと思ってた。ゲームも弱いからあまり使ってこなかった」。しかし最近は、ネットで音楽仲間を見つけたり、新しいコードを探すようにもなった。

「去年は受験勉強があったから、ライブもあまりしてなくて。YouTubeとかSoundCloudとか、ネットで音楽を探すようになりました。好きなアーティストを見つけたら、その人がフォローしてる人の音楽を聴いてみたり」

「ちょうど、『日村がゆく!』の収録の日も、待ち時間が長かったからSoundCloudを漁っていて。君島大空さんっていうアーティストが『おすすめ』に出てきたから、聴いてみたら、すごくて」

思わず、顔がほころぶ。

「本当に好きで、それからずっと聴いてて、僕がそれをつぶやいたら、君島さんから『崎山くんが作ったKIDS Aの"潜水"、聴いてるよ』って返信が来たんです。やばいなぁって。今もたまに連絡とってます」

ネットには日々、音楽がアップされていく。「今は、音楽もどんどん細分化してきている」と崎山は言う。これまで300曲以上作ってきたが、不安は覚えないのだろうか。溢れる音楽の中に埋もれてしまったり、自分のアイディアが枯渇してしまったり。

「昔は......思ってました。自分は何者なんだろう?って。中1ぐらいの時。今でもちょっとあるんですけれど、音楽はすごい好きだから。作ってるうちに消化しちゃったのかもしれない」

「枯渇っていうのも、最近まで思ってました。でも、星野源さんとか三浦大知さんとか、メジャーな人たちが実験的で楽しいことをやっていて。君島さんみたいにネットで出会った音楽にも、新しいコード進行が見える。音楽は無限にあるって思う」

少年は、こうして「発見」された。すばらしき日々の途中に。

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〈崎山蒼志〉シンガーソングライター。2002年生まれ静岡県浜松市在住。2018年、5月9日にAbemaTV『日村がゆく!』の高校生フォークソングGPに出演し、SNSで話題になる。7月18日に『夏至』と『五月雨』を急きょ配信リリース。普通の高校生ながらYouTubeで合計再生回数1000万回超を記録する。初のアルバム『いつかみた国』が12月5日に発売された。

※この記事は、Yahoo! JAPAN限定先行配信記事を再編集したものです。