高校生、園子温にメールを送る。それから12年後に起きたこと

    Netflixで独占配信される『愛なき森で叫べ』。園子温監督がメガホンをとり、椎名桔平、満島真之介、でんでんらが出演する。実際にあった事件をモチーフにしつつ、園作品の『HAZARD』『自殺サークル』『冷たい熱帯魚』など過去作品の要素を多く散りばめる。その中で重要な役「シン」を演じる満島真之介には園子温監督と不思議な縁がある。

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    「こいつはもともと助監督だったんですよ」と、鬼才・園子温は舞台上で目を細める。こいつとは、俳優・満島真之介だ。

    Netflixで独占配信される『愛なき森で叫べ』で重要な役である「シン」を演じた満島は、かつて園と寝食を共にした弟子だった。

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    椎名桔平演じる詐欺師・村田によってある一家、そして若者たちが崩壊していく様が描かれる『愛なき森で叫べ』。 / Via youtube.com

    シンは愛知県から上京して映画監督を目指す若者で、園曰く「自分の若かりし頃」をモデルにしたキャラクターだ。さらに名前は、「子温」から「オ」を取った「シン」であり、 「真之介」の「シン」にも由来する。

    つまり本作における「シン」とは、弟子が師匠を演じ、名前まで縁のある特別な役なのだ。

    Aina Murayama / Buzzfeed

    満島は園からオファーが来た際、「ああ、自分の人生のタームがひとつ終わると思った」と話す。

    園子温と満島真之介とシン。この3者はどうやって結びつくのだろうか。

    高校生、園子温にメールを送る

    沖縄県に住む高校生、満島真之介はレンタル屋で借りた一本の映画で人生を変えられてしまった。

    2006年に公開された『HAZARD』。オダギリジョー演じる主人公「シン」が、眠い国・日本を離れ、危険を求めてニューヨークに飛び込む群像劇だ。

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    youtube.com

    一日がつるつるしてしょうがない
    町のどこかが とがってさえいりゃあ
    そこに服の裾でもひっかけてもがきてえ
    すべるだけの日曜日 どこへ行こうか

    こんな詩とともに、人種のるつぼで仲間と混沌に巻き込まれていく。満島少年はシンを見た瞬間、脳天を撃ち抜かれた。

    「俺のこと描いてる」

    いろんな人種の友達に囲まれ、英語と日本語が飛び交う沖縄。「俺もミックスだし、友だちもいろんな血が混ざっていた」環境で平和に暮らす。危険を求めて飛び出したくなる気持ちも痛いほどわかった。

    『愛なき森で叫べ』劇中より。満島演じる「シン」は、地元を飛び出し上京した。

    「親は体育教師。自分もその道に進むと思っていたのですが、『HAZARD』を見た瞬間、変わってしまった。映画っていうものは誰かの人生にこんなにも影響を及ぼすのか……これを作っている人に会わなければ先に進めない」

    クレジットを見ると、園子温という見慣れない名前があった。検索してメールアドレスを見つけて「会いに行きたいです」と文字を送った。

    『愛なき森で叫べ』劇中より。シンは友人(ジェイと深見)と共に、椎名桔平演じる詐欺師・村田を題材にコンペに出品する映画を作りはじめるが……

    2008年。園の代表作のひとつである『愛のむきだし』の撮影中の出来事だった。主演は、満島ひかり。実姉だった。

    「姉は中学生の頃から芸能活動をしていて東京に住んでいたんです。俺は芸能界には一切興味がないから、姉の活動を細かくは知らなくて……。一年に数回しか会っていなかったので、姉弟っていう感覚すら薄れていた」

    そんな姉から突然電話がかかってきた。

    「園監督に会いたいなら東京に来なよ」

    こうして18歳の満島真之介は園子温のもとへ飛び込んだ。

    園子温が書きなぐる手書きの脚本を、パソコンで打ち込む日々

    『愛なき森で叫べ』劇中より。村田を追いかけるうちに、次第にシンの身の回りは崩壊していく。

    東京につくなり、編集途中の『愛のむきだし』を3回連続で見させられた。1回あたり6時間ほど。つまり18時間程度、いきなり拘束された。しかも姉が主演だ。見たこともない表情で、仕事をしている様を見せつけられた。

    「姉が主演張ってる映画を延々と眺めていて、なんだこの人生はって思いましたね」

    結局、『愛のむきだし』は4時間半という異例の長さで公開された。

    以来、園とひとつ屋根の下、暮らし始めた。現場のアシスタントから家の掃除、苦情対応まで、全部やった。自宅では、二股のコードにつないだヘッドホンで肩を並べてハードロックを爆音で聴いた。

    「監督の所持品は全部わかる。今、何に夢中なのかも全部」

    『愛なき森で叫べ』劇中より。『冷たい熱帯魚』で人々を恐怖に陥れる「村田」を演じたでんでんも出演する。本作では、怯える表情を見せる。

    園が書く乱れきった文字が並ぶ脚本を、弟子である満島がキーボードで打ち込む。

    「いろんな作品の台本原稿は僕が打ち込みました。字が汚くてたまに解読不能になるんですけど、勝手に足しちゃったり……きっと監督ならこうだって」

    沖縄を飛び出した満島にとって、東京とは、社会とは、園子温の世界だった。

    「18歳から20歳までの2年間が濃すぎて、同世代と話や趣味趣向が合わなくなってしまった」と言うほど、影響を受けた。2009年に公開された『ちゃんと伝える』では助監督として満島真之介のクレジットが書かれている。

    人生の岐路には園子温がいる


    Netflixオリジナル作品祭にて『愛なき森で叫べ』のメンバーたちと。左からでんでん、満島真之介、椎名桔平、園子温。(Sayuri Suzuki)

    20歳になる2週間前、満島は、ふと広い世界を見たくなり、自転車で日本一周の旅に出ることにし、園のもとから離れた。

    各地を回りながら、自然の強さと美しさに、魂の叫びが溢れてくる。

    太陽の下、ペダルを漕いでいるうちに身体を使った表現をしたいという強い想いが湧いてきた。チームで何かを作りたい。その中で、たまたま声をかけてくれたのが、俳優事務所だった。

    まだ俳優としては駆け出しの2013年。出演した舞台『祈りと怪物〜ウィルヴィルの三姉妹〜 蜷川バージョン』を園が観劇に来た。この舞台で共演したのは『ヒミズ』でブレイクしたばかりの染谷将太。染谷と満島を見に来たのだという。

    かつては師匠と弟子として共に暮らした2人だが、数年ぶりに再会した園は「いつか一緒に作品を作ろうな」と言い去って行った。「絶対に、ですよ!」と叫んだ。

    『愛なき森で叫べ』の撮影現場。その監督と満島。

    園から俳優として声がかかったのは2017年のドラマ『東京ヴァンパイアホテル』の時だった。久しぶりに現場を共にすると、園からは「しんのすけー!」とよく呼ばれる。

    俳優として現場にいるのに、エキストラに動きの指示を出し、スモークを炊き、裏方のような動きを求められた。衣装も自分で監督に提案すると採用される。

    俳優とスタッフの間にいる存在。自身をそんな風に分析する。

    それにしても偶然がよく重なる人生だ。心酔した映画の監督が、姉の主演映画を作っていた。デビューしてすぐに共演した俳優が園に見いだされた染谷将太だった。

    「自分の意志よりも、もっと大きな力に導かれてきたんだと思います。最初は役者にも興味がなくて、3年でやめると言ってましたからね。物作りは好きですけど、本当にそのまま続けていくべきなのかと」

    『愛なき森で叫べ』には、『HAZARD』『自殺サークル』『冷たい熱帯魚』など園子温作品のオマージュがふんだんに施されている。そして、園が得意とする、実際にあった事件をモチーフにした実録映画だ。その中でシンは若き日の園子温として、映画の脚本に夢中になりながら狂気を宿した存在として描かれる。

    園は本作におけるシンについてこう話している。

    「シンが書く台本の物語 は僕が彼(満島)に昔した話だし、園子温を重ねてはいる」

    18歳の時、胸を打たれた「シン」。園が自分をモデルにしていると語る「シン」。前述の通り、自分の名前にも由来する役名「シン」。何もかもができすぎていた。

    「園監督からオファーをもらったときは、喜びとか驚きはなく。ああ、初めて『HAZARD』を見たあの日からの生活がすべて終わる、いろんな布石があって、ついにその最後が来た。人生の第1タームを終えるんだって思ったんですよね」

    Tomojiro Kamiya

    「見方によっては問題作。その中で、シンはとても重要な役柄なんですけれど、監督を信じて、感じたままに演じました」

    「シンは、園さん自身のオマージュでもあるし、過去作品を繋ぐ役目もあるんです。演じていると『これは園監督が人生を振り返ってるんだ』と感じる瞬間が何度もあった」

    「実は、撮影監督を務めた谷川創平さんは、『愛のむきだし』でカメラを回していて、園監督とタッグをよく組んでいた方なんです。僕のことをはじめて撮影したのは、谷川さん。当時は内トラ(スタッフなど身内をエキストラに使うこと)でしたけど。僕は制服を着ていて……」

    シンという役は満島真之介しか演じられなかった役だろう。園と満島の関係が生み出した特殊なキャラクターとして輝く。

    いみじくも、満島にとって20代最後の役が因縁めいた「シン」になった。

    BuzzFeed / Aina Murayama

    「僕、今年30歳になりました。18歳で人生が変わってから12年。園さんから始まって、園さんで終わる。シンを演じて、ようやく役者と監督として、これから新たな関係性になれるような気がしている。終わりでもあり、第2タームの始まりなんです」

    取材終了後、雑談をしている際、満島は不意に呟いた。

    「だから独立したんです。新しい旅に出る覚悟ができたから」


    ヘアメイク:森 智聖(VRAI)
    スタイリスト:渡辺慎也(Koa Hole inc)


    ■Netflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』

    監督・脚本:園子温
    出演:椎名桔平、満島真之介、日南響子、鎌滝えり、YOUNG DAIS、長谷川大 / 真飛聖、でんでん
    プロデューサー:武藤大司
    撮影:谷川創平 美術:松塚隆史 照明:李家俊理
    配信:2019年10月11日(金)、Netflixにて全世界独占配信

    バズフィード・ジャパン スタッフライター

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