1年で400杯以上のラーメンを食し、200万円をかける。自分でラーメンを作る際には、30時間をかける。
「ヴィジュアル系バンド、シドのShinjiと申します」

落ち着いた声で挨拶し、Tastyのキッチンに立った。
シドは耽美的な歌詞とメロディで綴る音楽で長年愛されてきたヴィジュアル系バンドだ。8月22日には、結成15周年を記念したミニアルバム『いちばん好きな場所』をリリースしたばかり。

ギタリストを務めるShinjiが好きな場所……それはラーメン屋。そしてキッチンだ。ある時は、ラオタ(ラーメンオタク)と共に連食の旅に出かけ、またある時は家でひっそりと麺をこねる。
Tastyでは、特製レシピと共にShinjiの異常なラーメン愛を探る――。
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Twitterで繋がるラーメン仲間
――ラーメンが好きになったきっかけは?
本格的に夢中になったのは、シドのファンクラブの会報がきっかけです。ラーメン屋さんに取材する企画があって、中途半端な気持ちで厨房に立ちたくないという思いから研究するようになったんです。食べ歩いて、味をしっかり理解できるようにして、自分でも作れるようになってから取材したいって。8年くらい前でしょうか。
もともと、中学生ぐらいのときからよく食べていたんです。幼い頃、ネギが嫌いだったんですけれど、近所のラーメン屋のネギラーメンがすごく美味しくて。そこからネギ好きになったくらいなんですよ。

――今では年間、400杯食べ歩くそうで。
定期的に連食もします。優しいラーメン屋さんから組み立てていって、最後の方に濃いとんこつラーメンを食べる流れですね。
僕の場合は、多い時で1日4軒。最初に2軒はしごをして喫茶店を挟む。そこでラーメン仲間と意見交換をして後半2軒を回ります。僕の周りのラーメンオタクは1日に6〜7軒回ったりするので。
よく行くのは、少し郊外の方です。自分で作る時は無添加にこだわっているので、化学調味料を使っているとわかるんですよ。主要都市にあるラーメン屋さんは資本系(チェーン店)が多いのであまり行かないです。
――良いラーメン屋さんの見極め方はありますか?
なんとなくですが……麺を寸胴の近くにおいているのは良くないですね。麺が乾いてしまうので。出しっぱなしはダメです。
あと、製麺屋の老舗、三河屋製麺さんの麺を使っているラーメン屋さんは美味しいです。だいたい冷蔵庫の上にラベルみたいなものが貼ってあるんですよ。僕は、取り寄せがしたくて三河屋製麺さんに問い合わせをしたことがあるのですが「一般の方には出してないんですよ」と言われてしまって。こうなったら作るしかないなと……今に至るわけですが(笑)。

――ラーメン仲間はどうやって見つけたのですか?
自然と……。Twitterですかね。「ラーメン官僚」の田中一明さんが好きで、Twitterで話しているうちに、一緒に連食する仲になりました。
ラーメン屋さんで座るのは、カウンター席一択です。テーブル席を案内されたら「後ろに並んでいる人でいいので」って言って断りますね。オペレーションが見える位置にいたいので。
材料費2万円。化学調味料は絶対に使わない。
――30時間かけるラーメン作りで、大事な点はありますか?
今回は、動物系と魚介系のダブルのスープを使いました。鶏の清湯(チンタン)スープを作るときは、あまりかき混ぜないのがポイントです。鶏は血合いなど不純物を取り除いた後に昆布などと一緒に煮るのですが、かき混ぜると濁ったスープになってしまうんです。5〜6時間ほど煮込んでいきます。

魚貝は、誰でも簡単に出汁をとれますよ。強いて言うなら、砂抜きがポイントです。冷蔵庫で抜かせて砂をしっかり吐き出させる。時間をかければ貝エキスがたっぷり入ったスープができますが、僕は、貝自体をトッピングにも使っているので、出汁をとりすぎないようにしています。
乾物の貝柱ってスーパーで取り扱いが少ないんですよね。もしかすると、食材の中で一番お金がかかっているかもしれません。僕が作る時は、2万円くらいかかってしまう。できるのは5杯くらいなんですけれど……。
祖母から譲り受けた製麺機を持参。廉価なものだとすぐに壊れる

――麺作りではどんなこだわりがあるのでしょうか?
麺は加水率が本当に難しい。季節によってベストな塩梅が全然違うし、ひどいときは麺が切れてしまうんです。最初の水回しは本当にじっくりゆっくり。何度も失敗しながら突き詰めていくのが良いと思います。
水分量は多くない方がいいのですが、少しでも足りないとボロボロになって麺が切れやすくなるので難しいですね。伸ばして、重ねて、伸ばして……会話をするように製麺します。

愛用している製麺機は、祖母のものです。僕の出身地は埼玉県なのですが、香川県に次ぐうどんの生産地らしくて。ちょっと田舎の方に行くと、みんな手打ちするんですよ。幼い時に、製麺機を見ていた記憶があって、実家に聞いたら状態がきれいなまま保管されていたんです。メンテナンスはもちろん必要ですが。

力の入り具合がやっぱり段違いなんですよね。少し廉価なものだと力が入らないし、加水率が少ない麺を伸ばすと壊れてしまうんです。
――茹でる時のポイントは。
まず、この時点で器をちゃんと温めておかないと、すぐ冷めるラーメンになってしまうので、丁寧に温める。
注意するのは、沸騰してボコボコした状態を保つこと。打ち粉を落とすように湯がくイメージです。打ち粉に片栗粉を使うので、落とし切らないと、とろっとした「食感のよくない麺」ができてしまうんです。しっかりかき混ぜて打ち粉を落とす。時間勝負なのできっちり時間を測ってください。

――盛り付けは、どうされていますか?
麺線をきれいに盛り付ける。緑の具材を多めに入れると醤油ラーメンは美しいですね。僕は、煮玉子は入れない派なんです。
――なぜでしょう?
スープに黄身が溶けて味がマイルドになる。ラーメンを巡るストーリーとして、それはそれで美味しいと思うんですよ。でも、卵の味でスープの味が変わってしまうのが僕はあまり好きではなくて。自分で作る時は、基本的には「卵はなし」ですね。シンプルな方がスープの味を実感できる。

――Shinjiさんにとってラーメンとはどんな存在なんですか?
僕にとってラーメンとは……芸術ですね。
音楽と一緒で、歌詞、作曲、編曲。歌う人に弾く人。1つが欠けてもダメ。それが重なった時、バンドだとすごくいい音になるんです。一人だけがかっこよくてもダメ。すべてを極めないとダメですね。スープ、麺、トッピング……。無理やりかもしれませんが、似たものを感じます……違いますかね?

――下準備によってパフォーマンスが変わってくるところも似ているかもしれませんね。
そうなんです。「寝かせる」工程もすごく大事ですね。たまに24時間かけて作って、出来上がった瞬間に食べることもあるのですが、そうすると塩分の角がとれていない。醤油感が…ぐっと来すぎる感じがするんですよ。1日寝かせるとまろやかになる。
バンドもそれと同じで、色んな経験があってこそ深みが出るんですよ。初期の頃に出したCDを聴いたり、ライブ映像を見ると「今ならこうやって弾くのにな」と恥ずかしさを覚えることもありますよ。他のメンバーもそうですね。ベースの明希は、パフォーマンスのかっこよさは持ちつつ「支える演奏」になってきました。ドラムのゆうやは、繊細なドラムを叩くのですが、今は力強い叩き方もするようになってきましたね……。
ラーメンは、シドって言っても良いかもしれませんね。
特製出汁ラーメン
■鶏スープ
作りやすい分量
材料:
鶏ガラ(骨に沿って切り込みを入れる) 1.5kg
手羽先 10本
りんご 1/2個
玉ねぎ 2個
にんじん 2本
長ねぎ(青い部分) 1本
しょうが(スライス) 2枚
羅臼昆布 1枚
干し椎茸 3枚
作り方:
1.鍋に鶏ガラ、かぶるくらいの水を入れて中火にかける。沸騰したらザルに上げ、鶏ガラの血合いなどを綺麗に取り除く。
2.鍋に(1)、手羽先、りんご、玉ねぎ、にんじん、長ねぎの青い部分、しょうが、羅臼昆布、干し椎茸を入れ、かぶるくらいの水を入れて中火にかける。
3.沸騰したら昆布、アクを取り除き、フタをして弱火で2時間ほど煮る。野菜がクタクタになってきたら野菜のみ取り除き、フタをしてさらに弱火で2〜4時間煮込む。※スープは濁り防止のため鍋底からかき混ぜ過ぎないこと。
4.余分な脂は取り除き、スープを濾す。粗熱が取れたら容器に移し、冷蔵庫で1日寝かせて完成。
■貝スープ
作りやすい分量
材料:
ホンビノス貝 10個(300g)
・塩水
水 300ml
塩 小さじ2
・出汁
水 800ml
酒 大さじ1
作り方:
1.バットにホンビノス貝を重ならないように並べ、塩水を注ぎ、ラップをかけて冷蔵庫で1日砂抜きをする。
2.鍋に(1)のホンビノス貝を重ならないように並べ、水、酒を加えて中火にかける。沸騰したら弱火で10分ほど加熱し、火からおろして貝を取り除く。※貝はトッピングに使用するので取っておく。
■醤油タレ
作りやすい分量
材料:
A:しょうゆ 200ml
A:薄口しょうゆ 200ml
A:本みりん 40ml
A:酒 50ml
A:ザラメ 大さじ1
A:煮干し 5g
A:干ししいたけ 2個
A:羅臼昆布 1枚
長ねぎ (青い部分) 1本分
かつお節(荒削り) ひとつかみ
桜えび 5g
作り方:
1.鍋に(A)を入れ、30分置く。
2.(1)に長ねぎの青い部分、かつお節、桜えびを入れて中火にかける。沸騰したら昆布を取り除き、弱火で1時間ほど煮詰める。
3.(2)をザルなどで濾し、粗熱が取れたら容器に移し、冷蔵庫で1日寝かせて完成。
■鶏油
作りやすい分量
材料:
鶏皮 1kg
作り方:
1.鍋に鶏皮、かぶるくらいの水を入れて中火にかける。沸騰したらアクを取り除き、弱火で2〜3時間煮込む。
2.鶏皮を取り除き、粗熱が取れたら容器に移し、冷凍庫で2〜3時間冷やし固める。
3.(2)が固まったら、脂(鶏油)のみを清潔な保存瓶に移す。※鶏油はラーメンを作る際に湯煎にかけて使用する。
■チャーシュー
作りやすい分量
材料:
豚肩ロース(ブロック) 500g
しょうゆ 500ml
本みりん 200ml
サラダ油 大さじ1
長ねぎ(青い部分) 1本分
しょうが(スライス) 2枚
作り方:
1.フライパンにサラダ油を熱し、豚肉を強めの中火で焼く。転がしながら全体に焼き色を付ける。
2.鍋に(1)、かぶるくらいの水、長ねぎの青い部分、しょうがを入れ、弱火で2時間ほど煮込む。
3.別の鍋にしょうゆ、みりんを入れて火にかけ、ひと煮立ちしたら火を止める。
4.(2)を(3)に入れて1時間漬け込む。ジッパー付き保存袋に移して冷蔵庫で1日寝かせて完成。
■麺
4〜5玉分
材料:
強力粉 250g
薄力粉 250g
アルカリ水 230ml
粉末かんすい 大さじ1
塩 大さじ1
片栗粉(打ち粉用) 適量
作り方:
1.大きめのボウルに強力粉、薄力粉を入れて軽く混ぜる。
2.ボウルにアルカリ水、粉末かんすい、塩を入れてよくかき混ぜる。
3.菜箸で(1)を混ぜながら、(2)を3〜5回に分けて加えてそぼろ状にしていく。生地がまとまってきたら手でこねて丸める。ジッパー付き保存袋に入れて口を閉じ、足踏みして平らに伸ばす。きれいに四角く伸びたら、冷蔵庫に入れて20分寝かす。
4.(3)をキッチンばさみで4等分にし、製麺機で1つずつ伸ばす。2つの生地を重ねてさらに伸ばし、1つの麺帯にする。ある程度伸びたら打ち粉をし、1〜1.2mm位の厚さに伸ばす。めん棒に巻きつけてラップをし、冷蔵庫で10分寝かせる。
5.パスタマシンの切り番を1〜1.2mmにセットし、(4)を長さ40cmほどに伸ばして切る。打ち粉を軽くまぶす。キッチンペーパーを敷いた保存容器に移し、密封して冷蔵庫で1日寝かせて完成。
■ラーメン
1杯分
材料:
麺 1玉
醤油タレ 30ml
鶏油 (湯煎する) 28〜30ml
長ねぎ (1cm角に切る) 1/4本
鶏スープ 200ml
貝スープ 100ml
チャーシュー 1枚
小松菜(ゆでて3cm長さに切る) 適量
三つ葉 適量
作り方:
1.丼に湯をお玉1杯ほど入れて温め、湯を捨てて醤油タレ、鶏油28〜30ml、長ねぎ、鶏スープ、貝スープを入れて軽く混ぜる。
2.鍋に湯を沸かし、麺を入れて打ち粉を落とすようによくかき混ぜながら40秒〜1分ゆでる。湯切りし、(1)に加えて麺線をきれいに整える。
3.チャーシュー、ホンビノス貝、小松菜、三つ葉をトッピングし、少量の鶏油を回しかけたら、完成!

2018/8/22 発売・シドのニューミニアルバム「いちばん好きな場所」の詳細はこちら
◼︎Shinji
ロックバンド・シドのGuitar。
年間400杯以上のラーメンを食べ歩き、さらに自前の製麺機で麺を自作するなど、全て一から作ってしまうほど大のラーメン好き。
◼︎シド
2003年結成。マオ(vo)、Shinji(g)、明希(b)、ゆうや(ds)からなる4人組ロックバンド。2008年、TVアニメ『黒執事』オープニングテーマ「モノクロのキス」でメジャーデビュー。
今年2018年、結成15周年&メジャーデビュー10周年アニバーサリーイヤーをスタート。1月1日元日には、ZeppTokyoにて結成15周年記念ワンマンも成功させた。8月22日ニューミニアルバム「いちばん好きな場所」をリリースし、9月から全国ツアー「SID 15th Anniversary LIVE HOUSE TOUR 「いちばん好きな場所 2018」」を開催中。来年3月10日にはグランドファイナルとなる横浜アリーナ公演が決定している。
Shinji オフィシャル Twitter:https://twitter.com/shinji_sid
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