Updated on 2019年5月7日. Posted on 2019年5月4日

    「PSYCHO-PASS サイコパス」の裏には「踊る大捜査線」が――演出と音楽から見るヒットの裏側

    2012年に第一期がノイタミナで放送されたアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」は近未来の世界で奔走する公安警察を描く群像劇だ。人気作が舞台化され、話題を呼んでいる。SF的な世界観はどうやって実現したのか? アニメとのギャップはなかったのか?

    西暦2112年の日本。人間の心理状態や性格的傾向を計測し、数値化できるようになった近未来。人は日々管理システムにデータを抽出され、それぞれに最適な「良き人生」を歩めるようになる――。

    2012年に第一期が放送されたアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」は、近未来の世界で奔走する公安警察を描く群像劇だ。オープニングには凛として時雨の『abnormalize』が採用され、洗練された世界観が話題を集めた。

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    2019年、「PSYCHO-PASS サイコパス」が舞台化され、再び注目を集めている。チケットの入手は困難を極め、劇場には連日長蛇の列が並ぶ。

    (C)サイコパス製作委員会 (C)舞台「サイコパス」製作委員会

    仕掛けの中心人物は本広克行。アニメではTVシリーズ第1期と2015年に公開された劇場版において総監督を務め、本作では演出を担当している。本広といえば、『踊る大捜査線』を手がけた映画監督として名を馳せる。

    映画にアニメにとヒットを飛ばす本広は「どんなに才能があっても、オファーに適応できなければ仕事が来なくなる」と語る。事実「PSYCHO-PASS サイコパス」の舞台化も、声がかかったときには躊躇した。

    Photo by 河本悠貴

    困難がある中でも、何かを生み出し続ける秘訣とは何なのか? 『舞台 PSYCHO-PASS サイコパスVirtue and Vice』でも、楽曲を担当した凛として時雨のTKと共に語る――。

    『踊る大捜査線』の要素を詰め込んだ「PSYCHO-PASS サイコパス」

    ――本広監督は映画のイメージがすごく強いのですが、なぜ舞台を?

    本広:いつだろうな……『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』の後あたりかな。ヒットの仕方がすごくて。

    朝、映画館にチケットを取りに行くと「夜まで埋まってます」と言われる。それがもうずっと。いろんな映画を観てきたし、作ってきたけれど「この映画はもう超えられない」と思った。

    「次……何しよう」とわからなくなってしまった。それから、なるべく新しいことをやろう。自分のやってきたことに固執しないと決めて、舞台もアニメもやるようになりました。

    舞台は10年ぐらい前に始めたんです。最初は本当に小さな小劇場からはじめて、今回が最大規模。新しく経験するのがすごい好きで、新人のフリをする。

    ――怖くはないんですか?

    本広:どうせ死ぬんだったら……ね(笑)。これが最後かもしれないから、なるべくいろんなことをやっておきたいんですよね。最初はもちろん戸惑うんですよ。全然やり方が違うなって。

    2.5次元舞台では俳優はマイクをつけるのが定番。マイクを通すと、自然な発声ができる一方、声が均一化しやすいため演技が難しいのだという。((C)サイコパス製作委員会 (C)舞台「サイコパス」製作委員会 )

    2.5次元の作法にぶち当たって

    ――アニメーション作品を舞台化するのに抵抗はありましたか?

    舞台化には、正直ちょっと抵抗がありました。

    ――なぜですか?

    本広:僕はいつか「PSYCHO-PASS サイコパス」の実写映画をやりたいんです。『ブレードランナー』みたいな……。

    もともと「PSYCHO-PASS サイコパス」はアニメだけでなく、マンガ、小説……といろいろ展開してきましたから。ようやく生身の人間で表現できる形になった。

    Yui Kashima / BuzzFeed

    ――近未来的な世界があたかも現実にありそうに描かれていて驚きました。

    本広:ファンの方を裏切らない形でリアルに描きたかったので、本作は完全にスピンオフにしたんです。本線からちょっと外れたオリジナルストーリー。登場人物はみんな映像化されていないので、イメージもついていない。なので、登場人物も現実世界にいるような描き方ができました。

    ――キャラクターを再現するのではない。

    本広:そう。アニメの主人公である常守朱や、シビュラシステムの声をとりいれて、「世界は同じだが、舞台が違う」話にしています。

    TK:僕自身、「PSYCHO-PASS サイコパス」は初めの作品から長い間音楽を作らせてもらっていたので、染み付いてるのもあって最初は入り込みづらかったんです。そもそもSF的なサイコパスの世界と現実の舞台が遠く感じられてイメージが湧かないというか。

    でも、実際に舞台を見ると、この物語が全く別の世界なのではなく、ちゃんと世界が繋がってることがわかる。

    Yui Kashima / BuzzFeed

    本広:悩んで悩んで…。舞台にマッピングを施してSF感を出したり、ステージ上に10台カメラを仕込んで、リアルタイムで舞台上の映像を流して、テレビ電話的なものを再現したり……。これは少し前までは無理な演出でした。

    TK:現実離れしてる世界観が完璧に表現されていて驚きました。

    本広:あと、オープニングで登場人物を紹介していくパートは、これまでやったことがないのでどんな風に見せるかは悩みました。

    TK:結果的に僕らの音楽を前面に出していただいたんですけれど、最初はオープニングに使っていただけると思っていませんでした。

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    本広:曲が先に出来ましたからね(笑)。もちろん、TKさんに脚本をお渡ししていたんですけれど……。

    TK:もともとは物語の中でバンドが出てくるので、その曲を作るという話だったんです。なので、書き下ろしてみたものの、セリフとの兼ね合いもあるし少し流れるだけかもしれない……という覚悟をしていたぐらいでした。本広さんも打ち合わせの時に「今まで見たことがない舞台にしたいのでかっこいいのをお任せで!」みたいな感じでしたもんね(笑)。

    本広:アニメの時も作ってくださっているので世界観やトーンはきっと伝わっているだろうと(笑)。いただいた音源を聴くと、ドンピシャ。

    TK:こんなピュンピュンしてて大丈夫かな…って思ったんですけれど(笑)。

    本広:音楽を聴いて、台本に変更を加えたぐらいです。

    TK:これは定かではないんですけど……歌詞が脚本に入っていて、観劇してて自分でもドキっとしちゃったんです。「ディストピア」「ユートピア」っていう台詞は最初なかった気もして……。

    本広:(脚本を見返して)……うわっ……確かに入ってますね。音楽を聴いてるうちに無意識に入ってきちゃったのか……。

    TK:僕もすごく驚きました(笑)。こういう変化のある作り方って、アニメや映画のような映像ではなかなかできない気がして。お互いに寄り添って作り上げる感じがして新鮮でした。アニメも先行して画が作られていくのでどちらかの構成が途中で変わるということは基本的にないですし、生き物なんだなぁと。

    本広:そうですね。僕たちも最初こそ抵抗があったものの、模索しているうちにどんどん楽しくなってきたし、バランスもわかってきた。実際、見に来てくれた方は喜んでいて、すごく勉強になりました。拒絶するのは簡単ですが、なんでもやってみた方がいい。

    公安局刑事課オフィス。このセットがテロ組織のアジトや事故現場、研究所などに姿を変える。((C)サイコパス製作委員会 (C)舞台「サイコパス」製作委員会 )

    TK:たまに演者さんが舞台装置を動かしてますよね。あれ、新しすぎて……(笑)。

    本広:そうですね。小劇場の演劇ではスタッフも少ないので演者が舞台を動かすことって多いんです。でも、これだけ大掛かりな舞台では新鮮に写りますよね。そうやって自分が経験してきた小劇場とか、映画とかの手法をミックスするのが好きなんです。

    基本的にすべての作品は完全に自分のオリジナルではなくて、サンプリングに近い。舞台のラストシーンはジョン・ウー監督の手法をとりいれてみました。

    (C)サイコパス製作委員会 (C)舞台「サイコパス」製作委員会

    ――タバコを吸っているシーンは『踊る大捜査線』の青島と室井を思い出しました。

    本広:そうですね。『踊る大捜査線』は、子どもたちも見る作品なので途中から喫煙のシーンはなくなったのですが、今回は大人の方が多いので採用しました。電子タバコを使っています。

    立場が違う男2人がタバコを吸い合って、その煙が交わう。ライブビューイングも決まったのでフレームに収めた時の画を考えて演出しました。お互い背中を向けあっているのに、煙は交わっているみたいな。

    顔が対峙しているだけなのに、角度をずらしてフレームに収めると、2人が接近しているように見えるとか。これは『踊る大捜査線』の応用です。

    『踊る大捜査線』、岡田准一さん主演のドラマ『SP』、そして『PSYCHO-PASS サイコパス』。全部、同じフォーマットです。

    「やりたいこと」と「やれること」は違う

    (C)サイコパス製作委員会 (C)舞台「サイコパス」製作委員会

    TK:今までの蓄積が散りばめられてるんですね。

    本広:やってることは一緒なんです。でも、実は今回の舞台に関しては最初オファーをいただいた時、かなり萎縮しました。

    ――なぜですか?

    本広:アニメが人気だから……ですかね。もし盛り上がってるものに傷をつけてしまったら、というのはやっぱり抵抗がある。でも、ラブコールが強かったので「俺はこの人たちのために立ち向かっていかねば」と奮起しました。

    TK:ハードルが高かったりそのままぶつかるだけでは駄目な時ほど新しいものに出会えますし、いいものになりますよね。

    本広:そうなんですよ。映画も、自分のためにぼんやり作るとヒットしないです。『踊る大捜査線』の大ヒットで173億円くらいの興行収入を出した後に、1億もいかない作品を作ってしまった。みんなで合宿しながら楽しく作ったんですけれど……。

    (C)サイコパス製作委員会 (C)舞台「サイコパス」製作委員会

    本広:「やりたいこと」と「やれること」は違う。僕の場合は、ほとんど受注仕事が多いですからね。

    「このアルバムのコンセプトは?」という質問に窮する

    本広:とはいえ、ふと「これってやる意味あるのかな」と思う瞬間がある。いつも娯楽の壁にぶつかるんです。思うがままに作りたいと思いつつ、世の中の人は娯楽を求めてる人が多い。

    ぶち当たらないですか? 曲作ってて。「これを作って自分はどうしたいんだろう?」って。

    Photo by 河本悠貴

    TK:僕は、自分の中にやりたいことが溢れているタイプではないんです。PV監督や映像クリエーターの方と話していると、やりたいことが多すぎてコップからあふれてる状態……「曲聴いて、これ思い付いちゃって」とインスピレーションが沸く方が多くて、羨ましさを覚える瞬間があるんです。その感覚が自分になさすぎて。

    枯渇している自分の中をなんとか掘り起こして、何もない手探りの状態から始まる。求められているものよりも自分が自分に何を求めているか、のループになるので作品とのコラボレートの方が作りやすいんです。今回だったら、舞台だから台詞の後ろで流れる音楽で、PSYCHO-PASSの世界観で……となるので、作りやすい。

    本広:TKさんの場合だと自分のアルバムを作らなきゃいけないってありますよね?

    TK:完全に自分の作品となる方が難しいですね。必ずと言っていいほどインタビューで「このアルバムのコンセプトってどんな感じですか?」と聞かれますけど、コンセプトなんてない……(笑)。

    どうしてその音楽を作ったのかなんて言葉では答えられない。最初はそれがストレスだったりもしたのですが、今はそっちの方が純粋で予期しないものができるんじゃないかなとポジティブに捉えるようになりました。言葉にならないものを音楽にしているところもありますし。

    オンラインサロンを始めてみた結果……

    Photo by 河本悠貴

    本広:模索している過程が曲になるって面白いですね。アーティストの方ってイメージもあるので、新しいことをやろうとすると、ファンの方から嫌がられるんじゃないですか?

    TK:よく言えば軸はぶれてないのかもしれないんですけれど……魔が差して一度いろんなところまで広げてみるんですが、結局、自分の中にある1本の太い何かがあって、そこに戻ってきてしまう感覚があります。新しいものが作れている実感は、自分の中にはほとんどないです。

    本広さんは、そういう悩みはありますか?

    本広:ありますね。スタッフもだんだん固まってくるので、なるべく「組」にしないで、いろんな方と仕事できるようにしてます。

    最近、オンラインサロンを始めたんですよ。

    TK:本広さんが映画の作り方を教える場ですか?

    本広:いや……映画好きな人が集まって、映画祭に行ったりしてますね。 おじさんやおばさんが多い。俳優さんもいますね。今回の舞台にも出てますよ。サロンのメンバーが(笑)。

    TK:すごい特典ですね(笑)。

    本広:働きながら役者やっている俳優で。本読みをやったりするんですけれど、すごく上手だったので、出てもらいました。

    TK:きっと記事が公開されたらサロンメンバーが爆発的に増えますね(笑)。

    本広:もともと鈴木おさむさんから「オンラインサロンは面白いからやったほうがいい」って勧められたんです。映画監督でサロンをやっている人はいないので、「とりあえずやってみよっかな」ってことでチャレンジでやったらこれがもう……。

    TK:自分にはない感覚が、そこで得られる?

    本広:そうそう。主婦の人が突然ドッキリすることを言うんですよ、PTA的な視点を混ぜて。

    TK:PTA目線ってなかなか触れる機会ないですよね(笑)

    エラーは侮れない

    Photo by 河本悠貴

    TK:基本的にギターやミックスの中でエラーの中で予期せぬものが生まれたりする、今回の『laser beamer』のピュンピュンした音も偶発的にできました。

    本広:不思議な音だなと思って、どんな楽器なのか気になってました。

    TK:ギターのエフェクターのプリセットが知らない間に変わっていて、ふいに出た音がピューンって鳴って驚いたんです。エフェクターのディスプレイを見てみると「Laser」と表示されていたので『laser beamer』になりました(笑)。

    本広:ギターなんですか、あの音。

    TK:ギターです。どこを弾いてもピューンと鳴るので、最初は自分でも「あれ?」と思ったんですけれど……ふと、もしかしたら『PSYCHO-PASSサイコパス』に合うのではないかと。 ギリギリ合わないかもしれないけれど。

    本広:ハマってました。

    TK:ギリギリ合わなそうなものは、ハマった時に爪痕を残せたりするんですよね。特に今回は舞台の楽曲だから台詞の後ろで流れる前提。だから、何か爪痕を残したいと考えていたんです。

    周りから「やめたほうがいいのでは」と懸念される位の方が面白かったりするんです。最初から合うとわかってるものよりも深く掘り下げられる。

    その分岐点はシビアに判断しなくてはいけないんですけど、結果的にすごくいい形で舞台で流して頂けたのでよかったです。予期してないもの、エラー的に目の前に表れたものが、自分に対してインスピレーションをくれたりする。

    Photo by 河本悠貴

    本広:劇伴はやらないんですか? サウンドトラックみたいな。

    TK:劇伴は自分の名義ではないですが一度やったことがありますね。

    本広:どうでした?

    TK:面白かったですね。本広さんが舞台やる時と同じように、自分の知っている世界とは違う作法があって。

    例えば、1シーンのために作った楽曲があったとしても、そのシーンごとカットになってしまうこともある。悔しさはありましたけど、こういう世界なんだなと思って。

    本広:それを面白いと感じるっていうのはいいですね。

    TK:難しいところもありましたけど、楽しかったです。台詞を立てなきゃいけないので、「もっと静かにしてください」とか「ギターのこすれる音が気になる」とか。ギターってこすれるものだから(笑)。

    でもそれって自分がギタリストだから思う感覚なんですよね。「自分では普通だと思うけれど、映画を見ている人にはそれが邪魔になる時もある」と学べた。

    Photo by 河本悠貴

    本広:確かに目立ちすぎちゃったりするとね、台詞が入ってこないからね。是非、TKさんにサウンドトラックを作ってもらいたいなぁ。

    TK:予期せぬオファーですね(笑)。是非やりたいです。


    (C)サイコパス製作委員会 (C)舞台「サイコパス」製作委員会 / Via toho.co.jp

    5月6日(月・祝)大千秋楽公演、ライブビューイングが決定!!

    詳細は、http://www.toho.co.jp/theater/ve/psycho-pass-stage/をご覧下さい。


    バズフィード・ジャパン スタッフライター

    Contact Yui Kashima at yuuuuuiiiiikashima@gmail.com.

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