営業マンでバンドマン。ロッキンで入場規制になるなんて

    Official髭男dismのボーカルを務める藤原聡。彼は、つい最近まで島根の企業で働く営業マンだった。

    「地元の経済の活性化に携わりたく…御社の地域に根ざした姿勢に感銘を受けました」

    今思えば、よくある志望動機だなと思う。でも、当時は内定が欲しくて緊張した。昔から声は大きいから、とにかくハキハキ話そう。

    そうして掴み取った内定。家から会社までは自転車で通勤できるほど近い。営業マンとして働きながら、趣味の音楽を続けていければいい――。

    それから4年、入場規制がかかるほど人でごった返す「ロック・イン・ジャパン」のステージに立っていた。

    Official髭男dismのボーカルを務める藤原聡。彼は、つい最近まで島根の企業で働く営業マンだった。

    地元から見ると、音楽を仕事にするのはとても遠いことだった

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    ――営業マンからバンドマン。すごい転職だと思うのですが、きっかけは?

    中学の時に吹奏楽部に入っていて、ドラムをずっとやってたんです。そのときから、可能だったら音楽を仕事にしたい……とは思っていたんですけれど、厳しいのはよくわかっていました。

    大学の時からOfficial髭男dismとして活動していたので、地元で働きながら音楽を趣味でやろうと思ってて。ライブもできますし。

    だから、普通に就活しました。東京に行きたいとか、音楽レーベルに務めるとか、そういう気持ちもなかったです。でも、内定が出て3ヶ月後くらいから、音楽業界の人から声がかかり始めたんです。

    ――どうやってスカウトされたんですか?

    ネット上ですね。Audioleaf経由でいくつか声をかけていただいて……嬉しいんですけど、「もっと早く声をかけてくれていれば!」って思いました(笑)。

    Audioleaf、SoundCloud、YouTube、マイスペースとかに楽曲をあげてたんです。全部やってました。自分たちのサイトとかTwitterアカウントを作るのと同じ流れで。やれることは全部やろうと思ってて。

    ――野心的ですね。

    音楽でメシを食いたいというよりも、土俵に立てるのであれば立ちたい。そんな感じでした。それぐらい、僕たちの地元からみると音楽を仕事にすることは程遠い気がしました。

    現実の厳しさもわかりつつ……僕自身、ボーカルを始めたのが大学3年生の時、就活の時期ぐらい。だから、実力面の自信はもちろんない。ただやりたいっていう熱意しかない。そんな状態だったので、なおさら。

    バンドマンで営業マンの日々

    ――内定先に入社しながら音楽活動を。

    定時退社がトレンドになっていた時期だったので、音楽活動はしやすくなっていたと思います。仕事が終わってから、車で1時間ぐらいのライブハウスでワンマンライブ。19時くらいから開演なので間に合うんです。

    ――体力はもつのでしょうか?

    日曜日に東京でライブがあるときは、土曜に夜行バス乗ってライブ会場に行って。18時スタートのライブで、トップバッターで歌ってすぐに新宿のバスターミナルに行って帰宅。そのまま月曜の出社時刻を迎える……っていうのは、人生で一番きつかったです(笑)。そのときは、胃腸炎になりました。

    あの生活を続けていたら、体に良くなかったと思います。

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    ――それで東京に。

    そうですね。僕以外のメンバーもそれぞれ地元での生活があったので、時を見て。

    ――退職はすんなりと?

    本当に応援モードでした。最終出勤日に上司が僕に手紙をくれたんです。

    「本当はもっといろんなことを教えていこうと思っていたけれど、きみの音楽が素晴らしいことも知っていた。これからどんなに辛いことがあっても、耐え抜く心と素直さをすごく大事にしていけば大丈夫だよ」みたいなことを書いてくれていて。今でも読み返します。

    ――素敵な職場ですね。

    本当にそうなんですよ。同僚にも上司にも恵まれていて。同僚が親身になってバンドのことを応援してくれるからこそ、本業もしっかりやりたい。職場に貢献したいって思いも芽生えたりして。今でも必ず帰省したら、元職場に寄ります。

    営業先から言われた「自分が死ぬ前に紅白歌合戦に出て欲しい」

    ――営業マンだった経験ってバンドマンでどう生きてますか?

    営業って、出来上がった商品を売る仕事ですよね。「この商品はいい」と自分の中でしっかり核があるものは、すごくプレゼンしやすいし売っていて気持ちがいい。一方で、会社的に売らなくてはいけないものがあっても、自分が納得できてないものってすごく……精神的にも負担になるんです。

    今は、自分が商品になる側。だったら売ってくれる人とかチームの仲間が誇れるような音楽をしっかりやらないとダメだと思ってます。その気概は大きいです。

    ――自分が商品になる側って、例えばどんな時に意識するんですか?

    数字を結構見ちゃう(笑)。チケットがどれくらい売れているのか、どれくらい聴いてもらえているのか。

    応援ツイートやメッセージを見ることもあります。めちゃくちゃ励みになる。でもSNSで投稿せずとも僕たちの曲を聴いて日々の生活を頑張ってくれてる人もいる。数字ってそういう人たちの存在を証明してくれるんだって思ったりもするんですよね。

    ネットの世界にも人はいるし、ネットじゃない所にも人はいる。

    僕、紅白出るのがひとつの目標なんです。会社を辞める時に、あるお客さんのところに挨拶に行ったら「自分が死ぬ前に紅白歌合戦に出て欲しい」って言われて。紅白って人が音楽に触れる場所として一番大きな場所なんだと思ったんです。

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    ――そうすると、テレビの力というか。ドラマのテーマソングになったりするのって大きいですね。

    そうですね。『ノーダウト』がいきなり月9の主題歌に選んでもらったのは光栄っていうか……嬉しい事案でした。

    インディーズの時に出した『Tell Me Baby』という楽曲を「関ジャム 完全燃焼」で紹介いただいて。そこから声をかけていただいたんです。資料をもらって、大好きな脚本家さんが書いているから絶対にやりたいと思って。ただ制作期間が3週間しか時間がなかったのでかなりボロボロになりましたけれど(笑)。

    提案とニーズの把握とクリエイティブと

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    ――いわゆるタイアップって、どうやって進むんですか? 自分たちがピュアに作りたいと思うものと、求められるものって相違点があったりすると思うのですが。

    ケース・バイ・ケースだと思うんですけれど、何を求めているのかを知るためには、一回の打ち合わせだけだと難しいなぁと思います。何度か打ち合わせをして、具体的に「こういう曲はどうでしょう?」「こういうテンポはどうでしょう?」って提案していくと、求めているものが見えてくる……。

    幸い、僕が好きな音楽のジャンルが幅広いので、いろんな提案ができるし、受け入れられる。すり寄るみたいな姿勢は違うと思うんですけれど。譲れないところはある。

    ――交渉したりも?

    もともと『ノーダウト』はBPMはこれくらいという細やかなオーダーがあったんです。でも、ドラマを見るともう少し速いテンポの方が合う気がしたので、提案してみたら通った。作品とか制作者の人たちの想いを加味して曲を作ると、バンド単品ではできなかった音楽を作れて楽しいです。

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    ――10月17日に発売された『Stand By You』は雰囲気がまた違いますよね。

    10代の頃好きだったものと、今ハマっているものを合わせて作っているからかもしれません。エレクトリックやシンセサイザーを使ってみたいと最近思っていて。そこに昔からずっとやってるピアノを合体させてみました。

    『Stand By You』は、メジャー第二弾という位置づけなんですけれど、大きくなったチームで制作にあたった一枚目なんです。だから、初心というか心機一転みたいな気持ちを歌詞に込めました。

    会社員の仕事と音楽の仕事は案外似てる?

    ――「仕事」に向き合う姿勢を伺ってると、バンドマンと営業マンってちょっと似ているように見えてきました。

    僕もそう思ってます。音楽って必ずしも階段をトントン上っていけるわけではない職業だと思っていて。だからこそ上手くいかなかった時の不安は当然ありますけど。でも営業やってたころも一緒だなと思って。

    今月はたくさん契約取れたけど、来月も同じように取れるのかはわからない。仕事としての達成感は一緒。個人レベルじゃなくても、部署の目標って毎月決められていて、それに向かってどうやって動いていくのかって話でもある。

    ――今年出演したフェスでは軒並み入場規制がかかったとか。

    ロッキンは去年も出させてもらったんですけれど、正直あんまり人が入ってなかったんです。今年はメジャーデビューもしたから、チームの規模感も大きくなってる。不安と期待と……。でも、リハ中から人がどんどん集まってきて。

    フェスっていろんな人が出ているから、タイムテーブルを見て同じ時間に他の人達もライブをしているけれど、選んで来てくれている。移動含めて1時間位。その時間をいいものにしてほしいなって気持ちが湧いてきて、一瞬で不安が変換されました。

    まさかAudioleafに音楽をあげたことがきっかけでこんな経験ができるなんて思っていなかった。営業マンっぽいこと言いますけど……小さな積み重ねが何か大きなことになるかもしれないって思いたいですね。