任天堂「著作物のガイドライン」が持つ、グレーゾーンに花咲く2次創作の可能性

    水野祐弁護士に聞く

    任天堂が著作物の利用に関する新しいガイドラインを発表し、話題になっている。

    [任天堂HP]「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を掲載しました。任天堂の著作物を利用した動画や音楽、静止画を、ネットワークサービスへ投稿される際は必ずご一読ください。 https://t.co/3hO3IS79h9

    営利目的でない限り、ユーザーがゲーム著作物を利用したキャプチャー・スクリーンショットを動画や静止画の共有サイトに投稿しても、任天堂は著作権を主張しない、とするものだ。

    また、YouTube、Twitter、Twitch、ニコニコ動画などの一部のプラットフォームに限っては、収益化も許諾される場合もある。

    ただし、本ガイドラインは同社のゲーム著作物を利用した動画や静止画を対象にしており、ファンアートは適用外だ。「各国の法令上認められる範囲内で行ってください」と明示し、使用が許諾内のものであるかの問い合わせは受け付けないという(全文)。

    任天堂はこのガイドライン発表の経緯について「基本戦略として、任天堂IP(知的財産)における、ユーザー拡大を目指している」とし、「リアルタイム配信の普及など、昨今のネットワーク状況の変化に沿い、新しくガイドラインを刷新することになった」と語った。

    Creative Commons Japan理事も務める水野祐弁護士は、このガイドラインの発表に関して「山が動いた」と語る。どういう意味か、詳しく話を聞いた。

    正式には許可されていなかった世界に光があたった

    フランスやアメリカなど欧米諸国では、パロディを許容する規定や、公正と認められる範囲の利用を認める「フェアユース」などの規定があり、ファンアートなど二次創作に関して、法的にも比較的寛容だ。

    日本ではそういった規定はないが、著作権侵害(のうち刑事罰の大部分)は親告罪であるため、著作権者などの権利者が告訴しない限り、刑事責任に問われ処罰されることはなかった。

    つまり、処罰されていなくても、日本ではゲーム実況やファンアートといった2次創作は、著作権上ではグレーな領域。正式には許可されていない、暗黙の了解の域が広がっていた。

    しかし、任天堂の宣言は知的財産を保有する側から、ガイドラインの範囲内であればユーザーの創造性に任せる旨が銘記されている。

    任天堂ガイドラインが新しい、2つのポイント

    水野氏は「シンプルで平易なガイドライン形式で、わかりやすく、柔軟性もあり、ユーザーフレンドリー」だと高く評価し、2つの点で新しいと説明する。

    1つ目には、任天堂という強力なコンテンツホルダーが、ファンやユーザーによるゲーム実況やゲーム紹介動画などの存在を認め、そのコミュニティをエンハンスする方策を採用した点

    2つ目には、非営利目的に限定されていますが、一方で『別途指定するシステム』によるときは、投稿を収益化することができるとして、ファンやユーザーが一定の範囲内で収益化する道も認めている点(このシステムに指定されているためには任天堂との一定のライセンス契約が必要になるものと考えられます)」

    水野氏は、上記2点を「今回の任天堂の宣言により、『個人ユーザーによる非営利目的での利用』レイヤーのうえに、『(YouTuber等のマネジメントを行う)マルチチャンネルネットワークとしての営利利用目的での利用』レイヤーという棲み分けができることになります」とまとめる。

    グレーゾーンに花咲く2次創作への可能性

    任天堂は、2015年からプレイ動画などYouTubeへの投稿動画において、広告収益を動画作者とシェアする「Nintendo Creators Program」を展開していた。

    ただ、このプログラムはライブ配信は対象外。収益化するチャンネルや動画には、同ライセンスへの参加を記載する必要があった(2018年12月にサービス終了予定)。

    また、任天堂とUUUMは、任天堂の著作権物の包括的許諾を2017年5月に結んでいる。これはマルチチャンネルネットワークとして世界ではじめての事例だった。

    このような流れから、水野氏は「コンテンツホルダーにとっても、ゲーム実況やゲーム紹介動画などが動画・静止画共有プラットフォームを通じてすでに無視できない文化になりつつあることは認識されていたと思います」と話す。

    水野氏は任天堂の動きがもたらす可能性を、次のように説明した。

    「クリエイティブ・コモンズの活動に長年関わってきて、現在の著作権という法律によっては実現できないことを、今回のような一企業の宣言やガイドラインなど契約的なスキームで実現していることに可能性を感じています(「契約的」と書いているのは、今回の仕組みは「著作権侵害と主張しない」という宣言であって、積極的なライセンス(利用許諾)契約とは法的には少し距離があるため)」

    「任天堂という強力なコンテンツホルダーであり、プラットフォーマーでもある企業が、他に先んじてUGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)を文化として認めたことは、(そこにもちろん企業的な戦略があるとしても)なかなか簡単な判断ではないですし、ゲーム業界はもちろん、その他の業界に与える影響も大きいのではないかと考えます」

    「また、TPPにより著作権侵害が非親告罪化する可能性があるなかで、クリエイティブ・コモンズをはじめ、今回のような契約的な仕組みは、グレーゾーンに花咲くUGCや同人文化にとって今後ますます重要性が高まるのではないかと予想しています」