夫婦共働きが増え、家族のあり方も多様化している。一方で、親世代とのギャップにロールモデルを描けていない若い夫婦も少なくない。
映画コメンテーターとして活躍し、国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2021」のアンバサダーを務めるLiLiCoさん。彼女は30歳で結婚し、36歳で離婚。その後、「純烈」の小田井涼平さんと47歳で再婚した。自身の両親も20年前に離婚し、父の新しいパートナーとも良好な関係を築いている。

2020年には夫・小田井さんとの「妊活」を諦めることにしたと公表。結婚同様に注目を集めた。夫婦共働きに離婚に妊活。多くの人が悩む壁を、どうやって乗り越えてきたのだろうか?
すれ違い婚は理想的
──LiLiCoさんは小田井さんと再婚されたとき、2人の関係を「すれ違い婚」と名付けていました。「すれ違い」は離婚の原因でよく聞きますが。
お互い忙しいことは結婚する前からわかっていたから、会えないことはそれほど苦にはなりませんでした。それにすれ違いって丁度いいんですよ。1人の時間が取れて気楽! 私は家で映画を見ることも多いし、仕事もする。パートナーが四六時中一緒にいると集中できないから。自分の時間を大切に出来る大人って一番素敵だと思います。ずっと一緒にいなくてもいい。夫婦でも距離感がすごく大事。
でも、コロナ禍で初めて朝昼晩のご飯を一緒に食べることになって、もう大変! 料理のレパートリーがないもん! だから、お皿の色を変えて対応しました(笑)
今日は赤いお皿の上に肉、次の日は青いお皿の上に肉。副菜をちょっとだけ変えてやり過ごしていました。適当だけど、ステーキが食べられるのだから主人としてはラッキー。
とはいうものの、コロナ禍になって初めて夜ごはんを一緒に食べた日は、主人が緊張しちゃって、普段は飲まないシャンパンを飲んでそのままソファで寝ちゃったんですけどね。一方、私は私でコロナ禍になって、ものすごく酒量が増えちゃいました。

──どうしてお酒の量が増えたんですか?
リモート飲みが増えたでしょう? そのときってスピーカーごしに話をするから、どうしても声をはりあげちゃって。喉が渇くから、ついついお酒が進み、シャンパンにワインに……1人で飲めない量を1日で飲んでましたね。空き瓶の数がすごかった(笑)
今はだいぶ落ち着きましたけど、しばらくの間は、主人はものすごく我慢していたんじゃないかな。申し訳なかった。
──LiLiCoさんがほとんどの家事を担当しているそうで。仕事も多いのに、家事の分担がフェアでないとイライラしませんか?
しませんね! 私は意外と夫を立てるのが好きなタイプで、「主人」という呼称を好きで使ってるぐらいです……っていうのもあるんだけど、イライラする部分を「幸せ貯金」としています。
──「幸せ貯金」?
毎日お皿洗いをしてるから、大きなCMが来たんだな、レギュラー番組が増えたんだな、ミュージカルのオファーが来たんだな、みたいな。家事を頑張ってるから仕事がたくさん来て、稼げるんだって思うようにしてる。もちろん、周りのスタッフが私を支えてくれているのもあるけど、自分が頑張ってるから楽しい仕事が舞い込む。
家のことで夫に注意することはしょっちゅうですよ(笑) 歌うように「靴下が〜脱ぎっぱなし〜♪」と注意してます。演歌っぽくこぶしをきかせて。

──喧嘩腰にならないように。
人に言われて嫌なことって多分みんな同じ。「妻の地雷」っていう話を聞きますけど、妻の地雷があれば夫の地雷もありますよね。注意とは違うけど、男女問わず「もっと稼いでこい」みたいに収入に関することは相手に向けちゃダメ。みんなの地雷。
──確かに。
結婚当初、いさかいがあると私はすぐに「もう離婚しよ」って言ってたんですよ。そのときに主人から「なんですぐに全部終わらそうとするの、なんで頑張らないの」って言われて、ハッとしたんです。恋愛において答えや解決法を見つけることが一番大切。

──どうして我慢できるんでしょう? ストレスが溜まりそうです。
主人の良いところのほうが、我慢するところよりも断然多いから。そうじゃないと結婚したいって思わないでしょう?
真面目に仕事をして、輝いているところが好きですね。深夜3時すぎまで家のエントランスでダンスの練習をしたり、歌詞も振り付けもセリフもすごく努力して覚えてる。そういう姿を見てると、私も仕事をもっと頑張ろうって思えます。
家には私が飲んだエナジードリンクの残骸がころがってるけれど、主人が帰ってきたら「お疲れ様、何か楽しいことあった?」って笑顔で聞く。主人も主人で疲れていると思うけど、かったるいなぁという雰囲気は出さずに、私に付き合ってくれる。
本当はポテトチップスを食べながら寝っ転がっていたいけど、ちょっと頑張ってテラスでディナーを食べる時間のほうが素敵。そんな感じで、ぐてーっとするのを我慢してます。
YouTubeでこの動画を見る
親の離婚・自分の離婚・不妊を越えて

──LiLiCoさんは、一度離婚されたことにもすごくオープンですよね。
スウェーデンから日本に来て「なんでそんなに離婚に躊躇するんだろう?」と驚きました。スウェーデン人はそもそも結婚をしない人が多いので。小学生の時から「今週はお父さんの家で過ごして、来週はお母さんの家に行く」っていう話を同級生から聞いては「お家が2つもあって羨ましい〜!」って思ってましたもん。
「子どもがいるから離婚しない」っていうのは良くないと思います。私の親はずっと喧嘩をしていて、弟が生まれたら父が家を出ていってしまったんです。それでも離婚しなくて、母は離婚したかったのに父は応じず、私が30歳のときに頼み込んで離婚してもらいました。
──娘のLiLiCoさんが親に離婚を勧めたんですか?
そうそう。もっと早く離婚してほしかった。幼少期の家族の思い出ってつらいものが多いんです。家の雰囲気もピリピリしていたから、母から「あんたは私の娘じゃない」と全否定されて育ったんですけれど、私が9歳のときに父が家を出て行ってようやく落ち着いた。
父が出て行った後の記憶しかない弟は「幸せな幼少期だった」と言っていて。苦労したのは不仲な親のもとで子ども時代を過ごした私だけだったみたいです。
離婚したとしても、子どもが必ず不幸せになるわけではない。自分の経験から言わせてもらえば、喧嘩している親を見たくない気持ちのほうが強かったです。
ただ、日本の離婚って面倒くさいですよね。名字が変わるから銀行の通帳やらクレジットカードやらの名義を変更しなくちゃいけなくて。私も昔、前の夫と離婚して日本の名字から外国の名字に変わったときに銀行へ名義変更しに行ったら、マニュアル的に「どうして名字が変わるんですか?」って聞かれて「離婚だってわかるでしょ!」って思いましたもん(笑)

離婚はお金の問題だけ。世間の目は一切気にしなくていいです。私の場合は、前の夫とは離婚したいと思っていたので、成立した時は「ヤッター!」という感じでしたよ。
こういうとき悲壮感を漂わせると、同情の目で見られるけれど、「離婚しました! 陽気なバツイチでーーーす!」って明るく振るまうと、ぜんぜん印象が違います。私は離婚の後、シングルとして恋愛も楽しみましたし、今の主人にも出会えたし。
100年ぐらい生きるとして、結婚も離婚も経験のひとつでしかないです。
──LiLiCoさんは、小田井さんとの妊活を諦めたという話も話題になりました。
そうですね。年齢的に妊娠は難しいことを知って結婚したものの、やっぱり主人との子どもは欲しかったので妊活はしました。前の結婚のときには芽生えなかった感情でした。
でも、なかなかできない。若いときは生理がこないと焦ったくせに、結婚後は生理がくるたびに落ち込む。
不妊治療をしようとも思ったのですが、主人は、朝5時に家を出て、全国を回って、深夜に家に帰ってくる多忙さで。ここまでの道のりの苦労も痛いほどわかるので、妊活の協力を仰ぐのも難しかった。だから何時間も家族会議をして「子どものいない人生をともに歩んでいこう」と決めました。
子どもができなくて悩んでいるときに、友人の神田うのちゃんが「赤ちゃんが生まれてくるのって、親に何かを教えるためだと思う。神様がLiLiCoに、あなたは大丈夫、そのままでいいのよって言ってるんじゃないかな」と励ましてくれて、すごく救われた。
芸能人の妊娠報告ニュースに「うちは不妊で苦労しているのに、なんでこんなヤツのところに子どもができるの!」というネガティブなコメントも見ますけど、怒らずに「きっと自分は、変えるべき欠点がないんだ。今のまま進もう」って考えられるようになったら気が楽になるんじゃないかな、と思います。
パートナーだけが私を幸せにしてくれているわけじゃない

──どんな状況でも、ポジティブな思考を保つための秘訣ってありますか?
自分が不幸だと思ったら映画を観てください。私の場合は、スウェーデンの『歓びを歌にのせて』が生涯ベストワンの映画で、2年に1度は見返します。すべてが不幸だと思っていた昔は、号泣しながら観てました。今はもう冷静に観られるようになりましたけど(笑)
「2時間もじっと観ていられない」っていう人もいると思うんですね。だったら是非、ショートフィルムを観て欲しい。1分ぐらいの作品もあれば、20分ぐらいの長さで素敵な物語に浸れますから。昔は、ショートフィルムというと、若手映画人の登竜門的なイメージがあったと思うんですけど、今は大御所が自分たちのこだわりを出すために作ることも増えてきたので、短時間で濃厚な作品を味わえるものも増えました。
YouTubeでこの動画を見る
──「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア」 にも國村隼さん主演の作品がありますね。
『願いのカクテル』ね! あれは、今日の話にもつながるんですけど、奥さんに先立たれてしまった男性の話で「毎日顔を合わせる家族に、ちゃんとお礼を言ってますか?」と問うてくる物語なんですよ。
家族が突然他界してしまったとき、「まさか、今日死ぬなんて思わなかった」って感じる人が多いと思うんですが、最後に顔を合わせたときが適当な感じだったら嫌じゃないですか。だから、毎日丁寧に「いってらっしゃい」とか「ありがとう」って言おうって思える。
これが18分で味わえるんですよ。家族であっても、気遣いとか頑張りは必要ってことを短時間で教えてくれる。
──改めて家族でも頑張りは必要、と。
そうそう。といいつつ、これは自論ですが、家族や夫婦関係も妊活だって自分が不幸だと思うまで続けなくていいと思います。
──なぜですか?
主人と夫婦生活ができて幸せですけど、主人に出会う前も幸せだったし、これからもそう。パートナーがいて新しい幸せを感じることはあるけど、パートナーだけが私のことを幸せにしてくれるわけないじゃない。主人には主人を幸せにしているたくさんの人がいて、私もそう。
究極、どんな状況でも、自分が幸せだと感じられるようにする。そういう意味で、自分を幸せにできるのは、自分しかいないのかもしれません。
「自分探し」をしている人ってすごく多いですよね。自分が誰だかわからないと、本当に心地よい人間関係も築きにくいような気がします。そのためには何かを成し遂げる必要があるわけじゃなくて、自分でこだわりを持つだけでいいと思います。
食器を買うにしても、本を買うにしても、自分が好きで選ぶようにする。「みんなと同じがいい」価値観ではなく、「1人でもそれを選ぶのか?」と聞かれたときに「はい、そうです」って言えるようにするだけで、人生がすごく変わると思う。自分で価値基準を持つと、幸せになれるし相手にも優しくなれますよ。