「永遠の5歳」、レディビアード。
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鋼の肉体、鋭い眼光、かと思えばワンピースを着て甘い笑顔を向けるツインテールのプロレスラー。こんな存在他にいるだろうか? 暴れ回る姿には、豪快奔放――そんな印象を抱く。

しかし、彼の過去は意外なものだった。ファッションカルチャーマガジン「This!」で自身の青春時代についてこう語っていたのだ。
「家族は弁護士や医者で、自分も理学療法士にならなくちゃいけないと思っていた。でも15歳の時に、全然理科がわからなくなって、興味のあった俳優になろうと思い、お父さんに俳優になりたいって行ったら、OKで。進学校の生活は楽しくなかったから、夢が見つかった事が嬉しかった」
親のメンツと友人たちの目を気にしながら、抑圧された日々を過ごした10代が蘇った人もいるだろう。では、彼に何が起こったのか? レディビアードは、自身の軌跡をBuzzFeedに語った。
ドレスを着ている時だけ、スクールカーストから抜け出せた
にゃーん‼️‼️‼️‼️‼️
――どうして女装を?
友だちが主催の制服パーティーがあって、その時に目立ちたかったんだ(笑)。14歳の時だね。僕は格闘技をやってたから、ガタイがよくて。そんな男子がドレスを着てるのってヘンでしょ? しかもみんなが制服を着てる中で。
会場は「うわー! あいつ超ヤバい!」って盛り上がった。普段は地味な僕がみんなを楽しませている。最高! こんな興奮した時間、過ごしたことなかった。
それから、イベントに行くときはドレスを着ていくようになったんだ。だから、単にみんなを楽しませたかったのがはじまり。
――地味な存在?
そう。オーストラリアにもスクールカーストがあって、僕は底辺でもないけど、目立つわけじゃない。リーダー格から、からかわれる層だった。正直言って、そいつらがいる前で変な行動はできなかったね。
加えて、格闘技のトレーニングが本当にきつかった。その時、いろんなことを悟ってね。先生の言うことをちゃんと聞いて一生懸命タスクをこなさないと、罰せられる。大人社会でも同じだよね。言われたとおりに働かないと給料は出ない。「真面目に生きなくてはいけない」そう思った。
思春期って学校がすべて。しかも、僕は男子校に通っていたから、マッチョイズムの観念が強くて、「男らしくいなければ」という雰囲気があった。学校的には「タブー」なんだよ、女装って。

――それなのに、なぜドレスを着続けたのでしょう?
反動……かな。仲の良い友だちのパーティーでドレスを着た時だけ人気者になれる。みんなも楽しい、自分も嬉しい。最高だよ。一方でリーダー層にそんな姿を見られたら、潰されるかもしれない。この禁忌感が、僕を「10代の暴挙」に走らせたんだろうね(笑)。
でも、転機があった。学芸会で女装をすることになったんだ。それまでは、友だちの前でしかはっちゃけてこなかったけど、リーダー格の前でもその姿を見せる。正直、いじめられるかと思ったけど、めちゃくちゃウケた。
――不安は現実にならなかった。
そうそう。むしろ受け入れてもらった感じ。ぶっ飛んでしまえば逆に楽しんでもらえる。縮こまっていても何も変わらない。そう思ったよ。
「出る杭は打たれる」文化
――そんな学生生活の後、オーストラリアを出て?
メルボルンの演劇学校に通っていた時に、ジャッキー・チェンのスタントチームの人に出会って香港に行ったんだ。外国人枠っていうのかな、地元で活躍するより目立てるでしょ。
香港では、スタントマンの他にプロレスラーとしても活動していて。ある時、リング上でドレスを着てみたんだ。そんな奴いないから、みんな度肝を抜かれてた。「あいつ何者? ヤバくない?」って(笑)。制服パーティーと同じものを感じた。これはイケるって。それから人前に出るときはドレスを着ることに決めたんだ。
香港で話題になったのを見て、日本に来ないかと誘われた。日本語はできなかったけど、中学生の時に見た可能性だけを信じてね。

――順風満帆。
そう言えるかもしれない。でもオーストラリアに帰った時に難しさを感じた。地元の人に仕事の話をすると、驚かれたり、引かれることもあったからね。出る杭は打たれる。これはオーストラリアにもあるんだ。
異国の地でそれなりに活躍していたんだけど、身近な人たちの全員が喜んでくれるわけじゃなかった。でも、自分がやってきたことに誇りを持っている。だから思うよ、賛同してくれる人に感謝しようって。
――日本はどうですか?
日本のファンは、本当に最高。僕は、プロレスラーであるのと同時にベジタリアンなんだ。だからタンパク質をたくさん摂らなくちゃいけない。そんな僕を気遣って、ファンが事務所にひよこ豆を60缶贈ってくれたこともあった。信じられないよ。本当にありがたい。

香港や日本で話題になったのは、自分がオーストラリア人だからだと思っていたんだ。外国人だからみんな優しいんだって。でもそれも違ったんだ(笑)。
――どういうこと?
欧米でパフォーマンスすることもあって。そこでは、僕は外国人枠じゃないから不安もあった。道徳的に批判されるかもしれない。そんなことも思った。でも、思いのほか好意的に受け取られたんだ。
中途半端なキャラクターだったらバッシングされていたかもしれない。多分、ぶっ飛び過ぎてて、反感の枠を超えたんだとお思う(笑)。純粋に面白がってもらえる。いずれは世界にも出たい。こんなこと、中学生の時には考えられなかったけど。
――スクールカーストを超えた先に、今が?
枠を越えてしまえば人は案外受け入れてくれるんだって、そう思うよ。
――心強い言葉。
あはは。そうだね。だってさ、「かわいらしさ」って強さがないと得難いものでしょ? かわいい人はみんな強い。枠から飛び出るくらいにね。