2017年の夏、Instagramを見ていたらびっくりしてしまった。フェスのバックヤードで撮影された写真だ。

写真の下にはこんな投稿文がある。
「小さなちんこと小さなおっぱいには誰にも止められない強さがあるんだ!!!!」
楽しそうに上半身を晒しているのは、水曜日のカンパネラのボーカルを務めるコムアイだ。現在、25歳。2012年にYouTubeでMVを公開しはじめ、奇抜な動画とライブパフォーマンスで人気を博す。昨年には、武道館ライブも経験し、「VOGUE JAPAN WOMEN OF THE YEAR 2017」にも選ばれた。

今をときめくポップアイコンである彼女が、楽しげに胸を晒す。
えっ? いいの?
「あんまり抵抗ないです。大きな主張というよりも、『隠しているものがオープン』になったときの子どもになる感じを楽しんでいただけですね。隠さなきゃいけないと、ついつい剥がしたくなるみたいな感覚」
別に主義主張はないけれど、裸に抵抗はない。なぜ?

もちろん、「スケベな目で見られるのは嫌」「裸を視覚的に不快に思う人はいる」という。しかし、ヌードになることにも抵抗がない。
「裸に何か大事な情報がすごいあると思わない。秘密の情報があるとは思わないから。『裸』って、無防備で、着飾ったりとかして意志表現しているものが全部なくなる状態」
「素っ裸になると、拍子抜けっていうか……赤ちゃんみたいな、『あれ?』みたいな感じ。それがいい」
水曜日のカンパネラは、ライブ会場に軽トラックで登場したり、鹿の解体をしながら、摩訶不思議な言葉を歌う、一見すると奇々怪々なパフォーマンスで注目を集めてきた。まるで、戦国時代末期に現れた「かぶき者」のようだ。
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アメリカはオースティンで開催されるフェス、SXSW2016の様子
目を引くかもしれないが、色物扱いされるリスクもある。コムアイ自身「この世界は自分のなりを売り物にする。でもすぐに消費される」と自覚的な発言もしている。
剥き出しの姿は、見ている人の思いこみを剥ぐ。だから彼女は「恥」をさらすのだ。
楽器ができなければステージに立ってはいけない? 女の子は移ろいゆくもの? 裸は恥ずかしいもの? 胸は大きくなければ魅力的じゃない?
「思い込みが1回ゼロに戻る感じが好き」
違和感のあるものが放り込まれて、一瞬思考停止が起き、感情が沸き立つ。彼女はそれを「摩擦」と呼ぶ。
学校で友だちはできなかった

驚嘆と摩擦に魅せられるようになったのは、学生時代の違和感にある。
似たような人たちの中で、毎日、同じことの繰り返し。年齢、出身地、偏差値……同調することで築かれる人間関係が退屈で仕方がなかった。
「学校は、かなりガラパゴスですよね。中高生のときは、周りと争いたくないので同調していて。分かち合える人が全然いないと思っていていました。一人で放課後に映画を見ることが多くて、映画館に来ている人たちの後ろ姿とか、喋らなくてもそっちの方が背中押される気がしました」
友だちと呼べる人は、大人になってからできはじめた。
学校や職場でできる「与えられた関係性」ではなく「必要な人を自分からひたすら求める」ようになった。「私は周りの人に影響されやすい」。だからこそ、自覚的に友だちを探すことにしたのだ。
時期によって周囲の環境が変わるが、今年になって外国人との付き合いが急に増えた。新曲『マトリョーシカ』もフランスのミュージシャンとコラボしたが、他にもコラボが控えている。仕事でもプライベートでも、日本にいる外国人と関わることが増えた。
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全編ワンカットで撮影された『マトリョーシカ』のMV。フランスのバンド、メロディーズ・エコー・チァンバーのパブロ率いるムードイド(Moodoid)とコラボレーションした。
「アイルランド、ベラルーシ、シンガポール、カナダ…国籍バラバラですね。自分の日本人らしさを発見できておもしろいし、日本の好きなところもいっぱいあるなって感じます。東京が全部新鮮に見えて、自分のフラストレーションを消してくれる」

異国から来た友だちが、虫という漢字を「下のところ、口がニヤけているみたい」と笑う。その瞬間、「東京が読めない文字だらけの街に見えて」ハッとした。
「日本は嫌いなところもあるけれど、カオスでエクストリームな面もあって、好き。そう思えるようになりました。プリクラとかギャル字も、ごちゃごちゃした看板も、ガラパゴスって感じで大好き」
閉鎖的で退屈。でも、カオスで魅力的な面もある。発表したばかりのミニアルバムには、そんな思いを込めて『ガラパゴス』という名前をつけた。
週刊誌での熱愛報道は「いいディナー」だった
コンビニにバナナ買いに行ったらFRIDAYの直撃取材を受けて、悔しかったので、中華料理屋に連れてってフカヒレごちそうになりました💗今日のMステは肌ツヤツヤで出ます! ご馳走様でした🙌 (そんなわけでよかったら買ってください)
2年前には週刊誌で交際報道をされた。車から降りてきた記者に向かってあっさりと交際を認め、「ディナーをしましょう」と誘い、フカヒレをご馳走になった。
「だって、聞きたくないですか? 週刊誌の人たちがどうやって取材してるのか。車で待ち伏せしてるから、自転車に乗ってると追いかけづらいって教えてもらいました」
自分が標的になるゴシップに対しても、好奇心で迎え撃つ。週刊誌記者も面食らっていたようだ。
嬉々と話す彼女だが、落ち込むこともある。
「いいパフォーマンスができなかった時。恋愛でもいっぱい。連絡返って来ないだけで落ち込んだりします。自分でも、気分がしょげていることに気がついてなくて、あとで『この原因って恋愛じゃん!』ってわかったり」
仕事に恋愛に悩む姿は、25歳の女の子そのものだ。

2017年は、海外進出や武道館ライブなど飛躍の年だった。同時に、恋愛はもちろん、仕事やこれまでの成功体験と「うまく別れる」ことを考えた1年でもあった。その時に導き出したのが、「人は惑星」という考え方だ。
「人は惑うように生きている。惑星の軌道は動きは決まっていて、人の出会いは、軌道と軌道がクロスする瞬間だと思うんです。それがまた離れるから、別れがある。でも、一回重なったってことは、近くにいるということ。離れてもきっとまたどこかで会える」
再会するのは、80歳になってからかもしれないし、死んだ後かもしれない。でも、何万年かまた先で惑星の軌道がまた重なる。コムアイは、そう信じることにした。
19歳の夏、母を亡くして

「人は惑星」という考えは、恋愛だけに言えることではない。例えば、19歳のときに他界した母に対してもそうだ。
「ホッとした」
センシティブな質問をしたときに、これが彼女の口から最初に出てきた。がんを患っていた彼女の母は、2年間の闘病生活の後他界した。
「心の準備はできていました。死は、ずっとくると思っていて、いつ来るのかわからないのが......また。気が抜けるのに近いですね。本番が急に訪れて」
母の闘病生活は、水曜日のカンパネラの始動時期と重なる。看護にあたれなかったと後悔する瞬間もある。しかし、気が抜けるというのは、気を張っていたことを意味する。
さらりと話すには、理由がある。彼女はちゃんと軌道上で母に会っているのだ。ビデオという形で。

「父が、SONYの8ミリビデオで私が生まれるときの様子を撮ってくれていて。出産直前で、入院しているときの父親と母親の会話があって。カップルっぽい、『お母さん』になる前の顔だったんですよね。見たことない顔だった。私が知っている母親より、喋り方とか仕草とか、今の自分に似ている気がして。よく見返してます」
親はビデオで記録してきたものが、今の時代だと違ったアーカイブになっていく。例えば、Web上にあるインタビューも、YouTubeにある自分の動画も、日記的に載せるInstagramだってある。
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新曲『かぐや姫』
「私の今ってデジタルタトゥーみたいで、ウェブ上にクラウドされてるんです。自分の子供がお母さんが3股していたことすらわかっちゃうんですよね。それは未知ですよね。想像つかない」
話す彼女は、目をキラキラさせる。未知と遭遇して、自分の思い込みが剥がされる瞬間を楽しみにしているのだろう。
コムアイは「摩擦」や「驚嘆」を求める。それは、ただ生きているだけだと「暇で死ぬから」だ。25歳の誕生日を迎えた時、自身のInstagramでこう綴っている。
何も見なければ何もないんだから。面白いことしか正義じゃないのは私たちがたいした義理も恩義もなく、ただ生きていることだけは確かだからだ。
摩擦は、疑問の発露だ。社会や時代によって生まれた既成の枠組みを壊す。
「そうじゃないと、以前から真面目に取り組んできた人に負けてしまう」
だからコムアイは、「かぶき者」のように振る舞うのだろう。彼らは派手に着飾り、それまでの美意識を否定し、江戸文化を花開かせた。

「私も、未だに世の中が完璧じゃないことに落ち込むんですけど、でも、生き生きしていることがずっと重要だと思うようになってきました。ただ、自分が生き生きしていることがどれだけ世の中をよくしているのか。自分のやりたいことをいっぱい実験して失敗するっていうのを、誰かにもやってほしいし、やらせて欲しい…あはは!」
彼女は欲しいのだ。次の時代を、楽しく生きる友だちが。
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〈コムアイ〉 音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」主演。
1992年7月22日生まれ。2016年にメジャーデビュー。DOLCE&GABBANAがミラノで発表した2017−18秋冬コレクションのショーではランウェイモデルを務めた。2018年6月23日には、出演映画『猫は抱くもの』が公開。27日には、新アルバム『ガラパゴス』がリリース。
※この記事は、Yahoo! JAPAN限定先行配信記事を再編集したものです。