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なぜ、私たちは可愛くなりたいと思ってしまうのだろう?

22歳の経営者と24歳の女流棋士。ビジネスと将棋という戦いのフィールドで活躍する2人に、ビール片手に話を聞いた。

ハヤカワ五味、22歳、経営者。香川愛生、24歳、女流棋士。

ハヤカワさんは、大学1年生のときにアパレルブランドを立ち上げ、2月にラフォーレ原宿に新店舗を構えたばかり。創業して4年を迎え、ますます勢いにのっている。

香川さんは、15歳という当時最年少の若さで女流棋士のプロ入りを果たし、勉強と将棋を両立させながら、大学を卒業。ゲーム全般に明るく、『香川愛生のゲーム番長』という冠番組を持つ生粋の勝負師だ。

なんだか強そうな二人は「頭がキレるから好き」と、お互いを認める勇ましい付き合いをしている。一体どんな会話をしているのか? 恋愛観に続き、キャリアについて話を聞いた。

左:ハヤカワ五味さん 右:香川愛生さん
Yui Kashima / BuzzFeed

左:ハヤカワ五味さん 右:香川愛生さん

将棋はスポーツ。バトルを挑むのが好き

――香川さんは中学3年生でプロの女流棋士になっているんですよね。はじめたときからプロの道を志していたんですか?

香川愛生(以下、香川):小学3年生のときに、クラスメイトに将棋を教えてもらって、こてんぱんに負けて。それが悔しくて近所のおじいちゃんに将棋を習うようになりました。将棋会館に通っていたんですけれど、負ければ負けるほど勝つのが嬉しかった。

私は自分よりも経験が浅い人に勝つよりも、すごく強い人に勝つことに喜びを感じやすい性格だったので、速いスピードでプロになれたんだろうなと思います。自分の性格にあってた。

――でもプロの初戦は「黒星」で、相当悔しかったと聞きました。

香川:デビュー戦の相手は、史上初の女流棋士になった1番ベテランの先生だったんです。棋士の旬って10代後半から20代と言われているくらい、若さが強さになる場合が多い。

――スポーツみたいですね。

香川:若手だから、逆に勝たなきゃいけない。周りの人たちも「可能性はある」と励ましてくれたんですけど、負けた。ショックでした。将棋を覚える前から、男女問わず上級生に食ってかかる子だったので。

ハヤカワ五味(以下、ハヤカワ):結構バトルを挑むタイプだよね(笑)。

学生起業家、就活をする。でも…

――ハヤカワさんは、大学1年生のときから起業してましたよね。でも、就活もしていたので驚きました。

ハヤカワ:この1月で創業4年目に突入しました。高校生のときから、自分でタイツとか作って売っていたので、その延長線上です。起業がしたかったわけではない。

私はデザイナーとかイラストレーターとか、いわゆるクリエイティブな職業に憧れていたので、大学2年くらいまでは、頑なに「デザイナー」と名乗っていました。でも、仕事をする中で、自分はデザイナーとしてやっていくよりも、尊敬するデザイナーさんやディレクターさんに予算を振り分けて、クリエイティブの土壌を作る方が向いていると思い始めたんです。

香川:マネジメントみたいな?

ハヤカワ:私の場合は、プロデュース、マネジメントも全部含めて「経営」として捉えているかも。今は、経営者と名乗ってます。

大学3年くらいから、本格的にスタッフを雇ったり、うちの商品で、自分の価値観が変わったっていう声もいただくようになった。「この仕事を長く続けていくことってすごく意義があることなんじゃないか?」と思うようになりました。

若き経営者として取材をうけることも多いハヤカワさん。
@hayakawa53 / Via instagram.com

若き経営者として取材をうけることも多いハヤカワさん。

――それでも、就活しようと思ったのはなぜですか?

ハヤカワ:やっぱり、クリエイティブの道が諦められなかったからです。インターンも行きましたし、普通にエントリーシートも出しました。書類選考で落ちたけど(笑)。

香川:採用通知が来てたらどうしてた?

ハヤカワ:多分その会社に入社してたと思う。

香川:経営が副業になるところだったんだ(笑)。

ハヤカワ:会社もどんどん大きくなって、2月にラフォーレにもショップをオープンさせたので、右肩上がりだねと褒めてもらうことが多い。でも、実のところ、私はクリエイティブの道を諦めたわけじゃないですか。美大で過ごした4年間は、デザイナーとかゲームプランナーではなくて、クリエイティブの土壌を作る方に回ろうと決めた時間でもあった。

香川:ある種、クリエイティブだよ。

ハヤカワ:今回のショップのオープンに関して、ビジュアルのリニューアル、あとショップのディレクションをすべてを、尊敬するアートディレクターさんにお願いしたんです。そうしたらもう最高で。才能豊かな人たちがパフォーマンスできる場を作れた。ここに自分のクリエイティブ力を見たかも。誇りを持てた。

香川:ショップ、本当に素敵だったもん。多幸感ある。将棋の世界は一人で戦わなきゃいけないんだけど、自分以上に信頼できる力を見つけて、任せられることも強さだなって思うよ。

実力がモノいう世界でも、外見は「可愛い方がいい」

――ビジネスにしかり棋界にしかり、男性が多い中で日々戦っている2人ですが、「可愛いからずるい」って言われたことってあります?

ハヤカワ:「あなたは、かわいい女だからこの仕事できてるよね」って言われたことはありますね。

香川:ビジュアルって単純にRPGの装備品のひとつみたいなものだよね。木の棒もあれば、銅の剣もある。エクスカリバーみたいな強力な武器もある。持っていて損するものではないし、装備品が強いほど、磨きをかけるほど有利になりやすいし、チャンスも増えます。でも、知性とか運動とかも同じ。あと、そもそも自分のレベルが高くないといけない。

ハヤカワ:そうそう。武器っていうのは、ビジュアル面だけじゃなくて、本来持っているものすべてが対象にされるはずだと思うんですよね。知性とか使ってる言語とか集中力とか。でも「かわいいから過大評価される」みたいな話は、ビジュアル面だけを装備として捉えてるんだなって思いますね。

――ちょっと古い考え方だと思うんですけど、マッチョ的な世界だと「可愛くなろう」っていうスタンスは、低俗だと思われる風潮が長らくある気がするんですよね。

ハヤカワ:可愛くなろうっていうスタンスのひとつには、「媚びて楽しよう」という偏った前提もあると思うんですよ。人の力を借りるための「可愛さ」。そういう生き方もあると思うけど、私は選ばないなぁって。

――可愛くなろうと思うのは、媚びようとしているからではない。

ハヤカワ:その装備品を持っていた方が、かっこいいと思うから、ですね。私の場合だと、「高校生に経営者として話をする時に説得力があるか?」って考えるんです。いいことを言ってても、見た目が微妙だと説得力が弱くなる。もちろん、ビジュアルがないとダメっていうわけではなくて、強い装備を持てるなら、持っておきたい。

香川:私も「憧れてほしい」って気持ちはありますね。自己満足ではなくて、単純にかっこいいと思われたい。私の昔の画像をググってもらうと出てくるんですけど、今とぜんぜん違う。中学生の時は今より10キロくらい太ってましたね。でも、プロになると人に見られる機会がある。

私の姿を見て「女流棋士ってこういうものなんだ」とイメージする職業される立場なんだと自覚したんです。その時から、外見や内面を磨いていきたいと思うようになりました。どんな方向であれ「努力したい」って気持ちを大事にしてます。外見を磨くことに関しては、まだ勉強中ですけど、昔と比べたら変わったので。

イベントに出演することも多い香川さん
@mno_shogi / Via instagram.com

イベントに出演することも多い香川さん

――香川さんは、すっごく可愛らしいのに、ファンの間からは「番長」って呼ばれてて、びっくりします。

香川:ああ、あれは……小学生の時、意地悪な先輩から「番長」って呼ばれてたんですよ。髪は短いし男の子以上に乱暴だし、原始時代みたいな時期ですね(笑)。

それを、ニコ生の番組中に掘り起こされちゃって。せっかくだから私の愛称を決めようという流れになって、放送中に4択でアンケートがとったんですよ。「まなちゃん」「まなふぃ」と一緒に「番長」って。

ハヤカワ:それは「番長」を選ぶ。

――将棋が攻めのスタイルなので、それが由来なのかと。

香川:もちろんそれもあります。もう抗えなかったです(笑)。

敵を倒すことだけが「強さ」じゃない

――お二人は、誰かに頼ることったあるんですか? すごくたくましく見えるので。

香川:10代の頃は一人で何でもできるって思ってました。誰かに弱い部分を見せてはいけない強迫観念。味方を探すよりも、敵を倒すことしか考えてなかった。厳しい環境で孤軍奮闘しないと強くなれないと思ってた。でも、それって本当の強さではないなと気づきましたね。

――それって何かきっかけがあったんですか?

香川:20歳の時に女流王将というタイトルを初めてとったとき。その就位パーティーですかね。

プロになって初めて自分が祝われる立場になった。同時に、スピーチの機会がありました。緊張しましたが、スポンサー、師匠、大学の将棋部、家族、先輩、友人。みんなに対して謝辞を述べたときに「あ、そっか」って。私はみんなに支えてもらったんだって。本当は昔からそうだったのに、ようやく気がついた。わかっていたつもりだったけれど、それまで将棋のことだけで頭がいっぱいだったから。

ハヤカワ:光浴びながら。ドラマじゃん。

香川:私は光を浴びているけど、それって私一人の力だけじゃないんだって切に思った。思ったというか思い知らされた。

――体感するレベル。

香川:全身に衝撃が走るくらいの。

ハヤカワ:自分の実績が祝福されることで気がついたのかな。なかなかないもんね、そんな機会。

香川:そうそう。タイトルを獲る、みたいな機会がないと言えないんですよ、お礼なんて。成果もないのにお礼だけというのは、不誠実だと思うの。とはいえ自分を頑なに守って一人として戦うよりも、周りと生きていく柔軟さがほしいという気持ちも芽生えた。誠実さを勝負だけにしか見出すのは、不器用すぎる気がして。

ハヤカワ:私の場合は、元カレに教えてもらったことが大きいです。強がってツンケンしてたときに「もう少し『誰かを受け入れる強さ』を持ってもいいんじゃない?」「誰かをはねのけるのが強さじゃない」って言ってもらって、ハッとした。たまたま社内でもそれゆえの課題が積んでいて腑に落ちました。

例えば、誰かに頼るとか弱音吐けるのって強いことだと思うんですよね。いわゆるバリキャリと呼ばれる女性像を紐解いていくと、強くて排他的というか「頼ることができない人」が多い気がしていて。1人でやりきる人が必ず有能ってわけじゃないと思うんですよね。むしろ悪く作用することもある。

――本質的な強さではないってことですよね。

ハヤカワ:そう。本質的に強くない気がします。例えば、女性の社会進出においても結局「頼る」ってことが大事になってくると思うんです。昔は、女性は家庭に入るものとされてきた歴史があるから、仕事と家庭の両立の話が出てきた時に、主に女性が悩む、みたいな構図ができていると思うんですよね。本来1人で悩まなくてもいい問題なのに。

でも、例えば家電製品が今すごい進化してるから料理の手間は省けるようになったし、家事代行サービスとかもある。もちろん人に頼るのも大事だと思うんですけど、外部にお願いできる基盤ができてる。全部1人でやろうとしないって思うと視野が広くなると思います。不安も減る。

――こういうことをハヤカワさんが考えるようになった大きなきっかけって…?

ハヤカワ:いろんな女性経営者とか働く女性を見てきたっていうのはあるのですが、最近だとブログでも書いた「スタッフの妊娠報告に焦った自分」を見つけたときですかね。

普段、女性のキャリアとか語ってるけど、無意識に「スタッフが産休に入ったら困る」って思ってしまった。私は、経営者なので自分の会社の働き方を作れる立場なので、日々研究中です。

ハヤカワさんのブログ(note)スクリーンショット
note / Via note.mu

ハヤカワさんのブログ(note)スクリーンショット

だからこそ、自分がもし家庭をもつことになった時のために頼れるカードはたくさん持っておきたいし、自分のためにもみんなのためにもそういう会社や空気感を作りたいですね。

ハヤカワさんのブログ(note)スクリーンショット
note / Via note.mu

ハヤカワさんのブログ(note)スクリーンショット

「女性は抑圧されてる!」と、声を上げる時代ではなくなっているのかも

香川:そういえば、私、女性であることで抑圧されてるなって思う経験がほとんどないかも。単純に、将棋の世界って男子と女子でくっきり分けられていますし。女流棋士になったら女流棋士同士で戦う。

ハヤカワ:男性と戦うことはない?

香川:男性棋士のトーナメントに、ゲストとして2〜3枠だけ女流棋士枠があるぐらいですね。

ハヤカワ:イベント的な。

香川:イベントというか、ボーナスステージ? 女流棋士の成績上位者が勝ち取れる枠がなんです。それこそ、ビジュアルとか関係ない(笑)。それが女流棋士の頑張りになってる部分はあるけれど、予選を通過できることはほとんどない。勝負の世界だから、仕方のないことだけれど。

香川さんのFacebookより。

香川さんのFacebookより。

――それってどうなんだろう?

香川:男の方が強い。これは事実だし、歴史の問題だから仕方がないと思ってます。将棋は「戦争のゲーム」なんです。こんな背景から、女性がやるべきものではなかったとされていて。女流棋士制度が発足したのも1974年なんです。圧倒的に歴史が浅い。

――変わろうよっていう動きはないんですか?

香川:とにかく当時は、女流棋士という制度を作って女性同士で研鑽を積んでいこうという風潮がなにより重要だったんだと思いますし、現に大きな一歩だったと思います。将棋盤の上では性別の括りなんて必要ない土壌を作ろうと。そこから50年くらいが経って、最近では棋界の外から「ジェンダー」について言及されることが多いですね。

Yui Kashima / BuzzFeed

――やや時代錯誤感があるのでは?

香川:言われて当然だと思います(笑)。でも、将棋自体に1000年以上の歴史があって、棋士の歴史が400年ある。そこからいきなりガラッと変わるのは難しいですよね。

ハヤカワ:確かに。社会みたいに流動的なものじゃないしね。

香川:個人的には焦りはなくて、女性が将棋を楽しむ機会を増やして、女性が強くなれる環境を整えて…ちょっとずつ変わっているし、時勢も味方してくれている今、これまで以上に急速に変わっていくと思ってます。私もそこに絡みたい。いろんな人を巻き込んで……時期が来るので待っててください。

――かっこいい。

ハヤカワ:女性のプレイヤーも少ないしね。

香川:極論、勝負の世界なので、圧倒的に強い女流棋士が登場したら、ガッと人口が増えそう。そのうち藤井聡太棋士みたいな女の子が出てきてくれると思います。

私とかがなれればよかったんですけど、プロの将棋は気持ちと努力で成功できるほど甘くはないので…ただ盤外では努力で変革できることがたくさんあると思うので、責任を持って活動して、いちプロとして全うしたいです。

ハヤカワ:私、勝手な使命感があって。まず、上の世代が女性の社会進出を進めてくれた土壌があると感じてるんですよ。そして今って、その土壌の上で私たち世代がジャンプをして、着地する瞬間な気がしているんです。私たちがジャンプしていろいろな着地をして、それを見た次の世代が「あんなやり方もあるんだ」って、またそれぞれジャンプしてっていう。

誰かに頼りながら育児をするっていうのとか、徹夜自慢は逆にダサいとか(笑)、泥臭いスタイルだけが仕事じゃないぞ、みたいな。

これだけ飲んじゃいました。
Yui Kashima / BuzzFeed

これだけ飲んじゃいました。

――2人の話を聞いていると、「可愛い」よりも「かっこいい」と褒められる方が嬉しいのかなって思ったんですけど、どうですか?

ハヤカワ:かっこいいの方が嬉しいかも。

香川:かっこいいって言葉は、自分が戦っているという……戦うは言い過ぎか(笑)。自分の主体性がある気がするんですよね。

ハヤカワ:個人って感じするよね。「かっこいい」とか「クール」って、性質だけじゃなくてパフォーマンスに対して言うことが多い気もします。すごくフラットで好き。

香川:本質的に強くいたいよね。ありのままでいたい。


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