ハヤカワ五味、22歳、経営者。香川愛生、24歳、女流棋士。
ハヤカワさんは、大学1年生のときにアパレルブランドを立ち上げ、2月にラフォーレ原宿に新店舗を構えたばかり。創業して4年を迎え、ますます勢いにのっている。
香川さんは、15歳という当時最年少の若さで女流棋士のプロ入りを果たし、勉強と将棋を両立させながら、大学を卒業。ゲーム全般に明るく、『香川愛生のゲーム番長』という冠番組を持つ生粋の勝負師だ。
なんだか強そうな二人は「頭がキレるから好き」と、お互いを認める勇ましい付き合いをしている。一体どんな会話をしているのか――。

友情の萌芽は、人狼、脱出ゲーム、逆転裁判etc…
――経営者と女流棋士。戦うフィールドが離れていると思うのですが、どこで出会うんでしょうか?
ハヤカワ五味(以下、ハヤカワ):出会ったのは、半年くらい前ですね。知り合いから人狼ゲームに誘われて。そこで出会いました。愛ちゃんの敵役として呼ばれました(笑)。
香川愛生(以下、香川):意気投合して、その後に脱出ゲームも一緒に行きましたね。お互い、頭使う系のゲームが好きなので。急速に仲良くなった(笑)。同性でこういう話できる人ってあまりいないので。
ハヤカワ:会って間もないころに愛ちゃんから『SHERLOCK(シャーロック)』をゴリ押しされて。Blu-ray渡された(笑)。あれ……返したっけ?
香川:返してもらった記憶ある! 多分大丈夫(笑)。私、シャーロック・ホームズが好きすぎて「日本シャーロック・ホームズクラブ」にも所属してるんですね。そこでオタ活じゃないけど…。
ハヤカワ:シャーロック活動しているんですよ。パワー布教された(笑)。
香川:そうそう。「聖典」と呼んだりする、シャーロック・ホームズの原作はもちろん、それ以外にも派生作品を楽しんだりオススメしたりするのを、ライフワーク的にやってるんです。
――どこにその魅力があるんですか?
香川:作品の魅力となると脱線著しいので(笑)、主人公のシャーロックの魅力にとどめて言うと、唯一無二の頭脳の反面、未熟さが際立っているんです。頭がキレるんだけど、何をしだすかわからない危うさ……。
ハヤカワ:『DEATH NOTE』のLみたいな。超頭キレるけど、普通のことができなくて、守りたくなる人。「ああ……いい」っていう気持ちになる。
8歳年上の彼氏が私を対等に見てくれる。一見、最高なんだが、しんどかった
――頭を使うのが好きで、ゲームとか趣味の話もできて……ってところで、友情が結ばれていると。
ハヤカワ:もちろん恋愛の話もするんですけど、ゲームの話とか趣味の話をしていた方が楽しい。あと、考察。
香川:考察多いね。
ハヤカワ:ちょっと前に、彼氏と別れた日に愛ちゃんが夜に慰めてくれて。失恋の話をしてたら、考察になってた(笑)。
――具体的にどんな話をしたんですか?

ハヤカワ:私、7〜10歳くらい年上の人と付き合うことが多く、最近は30歳くらいの人が続いてて。年齢が離れていると難しいんじゃないかって話もありますが、元彼は、私のことを平等にフェアに扱おうとしてくれたんですね。「年齢で人となりを判断しない」みたいな。
でも、彼なりの平等って、私を自分と全く同じに扱うことだったんですよ。とはいえ、私の方がキャリアが8年短いので、経験も全然違う。例えば、読んだ本だって、会った人数だって8年分の差がある。もちろん私は努力して同じ目線に立ちたいけど、8年という事実を「ナシ」にして平等にされると、じわじわつらいものがあった。
となると、8年分のギャップが能力のギャップとして見えちゃうんですよね。「なんでこれができないのか?」とか「どうしてこういった考え方にできないのか?」と言われると、しんどさがありましたね。何より、今でも本当に尊敬している人なので、すべて自分が悪いように思ってしまうし。
――切ない。
ハヤカワ:まあ、私もだいぶお子様だったなと思います。
香川:その話を聞いてたら、実質的平等と本質的平等を履き違えてるって思ったんですよ。
――実質的平等と本質的平等?
香川:「実質的平等」って彼氏さんがしていたように、なにもかも「平等」というか対等にみようとしていること。「本質的平等」は、8年っていう事実とか抗えない事情を考慮した上で、お互いがフェアにいるっていうことだと思うんですよね。
あと、ひとつ問題があると思って。彼氏さんは、100点の結論を出すことに重きを置く思考回路の持ち主だったんじゃないかなって。
――完璧主義、みたいな?
香川:棋士の思考回路でイメージしてもらうとわかりやすいと思うのですが、「常に最善を目指す」みたいな考え方があって。もうちょっと卑近な話でいうと、洋服を買いに行ったときに「なんとなくこれが好きだな、買おう」というのではなくて、「このお店の中にあるすべての洋服を見て、吟味して何が最善なのか考え尽くさないと気がすまない」。100点しか目指せない人。
「良い選択肢をとりたい」ときに、「100点しかだめな人」と、「80〜90点でもいい人」がいる。ハヤカワさんの彼氏さんは前者タイプの人なのかと思ったんです。
ハヤカワ:自分は、後者タイプだなぁ。でも、その人の「100点派」なところに魅力を感じていたんですけどね。切ない。
香川:昔は自分も100点しか受けつけなかったんです。もちろん盤上では今でもそう。だけどそれ以外の場面では、最近は80点を選んだとしても「100点に近い何かを生むのに繋がる選択」だったら許せるなって思うようになりました。決断に要する時間と、それによって生まれるストレスもあると気がついたので。
ハヤカワ:あと、現実的に100点を導き出せるかっていう。
香川:やっぱり100点にするのは難しい。将棋は難しいと思っていたけど、そういう意味では日常のほうがもっと大変(笑)。あと、継続して80点を出し続けるっていうのもすごく価値があるとも思う。だから100点じゃなきゃ認めてもらえないのは、しんどいと思ったんですよね。

ハヤカワ:元気になった(笑)。ちょっと話が戻るんですけど、実質的な平等と本質的な平等って、女性の働き方にもあてはまるんじゃないかなって思ってて。
例えば、産休/育休を男性女性平等に与えたら、実質的には平等ですよね。でも、それが本質的な平等かって言われたら微妙だと思う。だって、どう頑張っても、出産自体は女性にしかできないものですからね。
男性も出産して、女性も出産して、どっちも働いた上で同じ産休育休を取得するんだったら、平等だけど、無理じゃないですか。
今問われてる男女平等の話って、性別が違うことで生じる身体的なギャップとかが考慮されてるのかなぁって思う瞬間があります。どうしても埋められない差異を考慮しないで、とりえず実質的な平等を配分する、みたいな風になってる気がするんですよね。
私は経営者なので、「平等」については、卑近なところから考えていきたいと思っていて。本当の平等って、私と元カレの話で言うと、8年分の差異を考慮した上でお互い尊重するのが望ましかったんじゃないかなぁって、今更思ったりします。
ちょっとダメなところがある男子が好きです

――ところで、お二人はどんな男子が好きなんですか? さっきの話だと、「頭キレててダメな人が好き」なのかなって思ったんですけれど。
香川:どうなんだろう。隙がある人の方が好きだと思います。私、ツッコミがちなので。ツッコむ隙がないと、自分の所在が不安になる(笑)。
ハヤカワ:変なフェチあるもんね。
香川:過去に好きになった人を統計すると、9割が当てはまるんですけど、鼻炎なんですよ。好きになる人、だいたい鼻炎。春と冬は常に鼻すすってるみたいな。
――これ、書いて大丈夫ですか?
香川:大丈夫です(笑)。この前、男の子に鼻炎フェチの話をしたら、実は彼も鼻炎だったことが発覚して、すごく恥ずかしかった。
――アプローチしてるみたい。
香川:新しすぎます(笑)。
ハヤカワ:私はめっちゃ寛容な方だと思う。人類の99.9%は大丈夫なんだけど、ちょっと前に付き合ってた人は、最終的に外見が駄目だった。0.1%に入っちゃった(笑)。
――なぜ付き合ってたの…。
ハヤカワ:見た目が苦手だったんですけど、押しが強くて。その人は、アーティストだったんですが、ずっと確定申告してなくて、私と付き合うまで収入が帳簿上0円のまま30近くまで生きてたという。
――なぜ付き合ってたの…。
ハヤカワ:優しかったんです。
香川:ハードル低っ。
ハヤカワ:結構いろんなことを教えてくれて。強さというのは、何かと敵対して戦うことじゃなくて、傷つけられる覚悟を持った上で寛容に人を信頼し受け入れることだって。
香川:真摯だ。
ハヤカワ:そう、真摯な人だった。当時、私はツンケンしてたから。経営者ってなると、世間的には男性っぽいというか、攻撃的に見られるところはあって。私自身、それに応えなきゃいけないし、自分を守るために強がってたというか。
自分の中に本当は母性や受容の感性があるのに、それを怯えて隠していたんです。
そんな時、その彼から「周りのみんなから攻撃的に見られていたとしても、僕はあなたの中に母性があることを知っているから、もう少しそこを見せれる強さを持てたら素晴らしいと感じた」って言われました。「確かに!」って思ってだいぶ影響されましたし、実は年始に行ったリブランディング後のコンセプトの一部はその言葉がキッカケです。
香川:はじめは頼りない人やんと思って聞いてたけど、刺さること言ってくれたんだね……。
本当に活躍している人は、年収マウンティングなんてしない説

――男の子に対して、「別にそんなことしなくていいんだよ」っていう点ってありますか? いまだに「男子は強くあらねばならぬ」っていう無意識の刷り込みがあると思うんです。弱音を吐けない、みたいな。
ハヤカワ:思うのは、「強がることは、強くないこと」なんですよね。例えば、本当にお金持ちな人って、別にそれをひけらかさない。年収自慢する人に割と出会うんですけど、話を聞いてると年収700万~900万くらいだったり。平均よりは上だけど、言わなくても、くらいの…。
香川:私は、あんまり会ったことないかも。年収自慢する人。
ハヤカワ:本当に稼いでる人って絶対に年収の話しない。きっと、お金の話をする人は、自信がないんでしょうね。マウンティングする人って、肯定して欲しいから。でもこれって、男性だけじゃなくて女性にも言えることだと思うんですけどね。
あと、「男はかくあるべし」っていうイメージに乗っかってる人って、虚言癖っぽくなっちゃう人もいる気がします。
香川:それ、ほんとそれ。超極端ですけど「あなたは俺が守る」とか「あなたのことを一生絶対幸せにする」など。本心なら当然うれしいですけど、理想の男像とか恋愛幻想にのっとってるパターンのときはちょっと厳しい。
――別れるときの「幸せにできなくてごめん」ってやつ。
ハヤカワ・香川:でたー(笑)!!
ハヤカワ:「幸せにしてあげられなくてごめん」って、的確に言うと「ずっと嫌な思いをさせててごめん」ってことだと思うんですよね。
――なんでそれを言わないで、きれいな言葉にするんだ…。
香川:「不幸せにしてごめん」とは、なかなか言わないですよね。「幸せになる行動」をちゃんとできていれば…って想像は、夢があるから実はあんまりしんどくないのかも。自分といる未来が最も幸せであったはずだという、自己肯定欲というか自信を失わない言い方なのだとも思います。「そんな理由で勝手に不幸せにしてくれるなよ!」と思いますが。(笑)
ハヤカワ:あと、ある意味こちらの選択ミスみたいなものですよね。「彼が幸せにしてくれなかった」のではなくて、「幸せにしてくれなかった人を自主的に選んでる」だけだから、どっちが悪いとかじゃないと思うんだけどな。
私たちの世代って、先輩方がすごく頑張ってくれて、男女平等的な風潮を作ってくれた時代を生きてるんだから、自主的に選択できるってことを自覚してもいいんじゃないかって思いますね。昔は、収入の格差とかで「女の人が男の人に幸せにしてもらう」っていう認識があっても不思議じゃないと思うんですけど。
香川:今は、そういう時代じゃないもんね。生活も幸せも、男女どちらかが提供するものというよりは、お互いが築いたり感じ合うものというほうがしっくりきます。