男性がとる育休は組織にとって合理的。正論すぎるシリコンバレー流育休観

    昨今、日本では男性社員が育休取得後に転勤の内示や降格などのいやがらせの被害を受ける「パタニティハラスメント(パタハラ)」が注目を集めている。男性の育児参加を阻むパタハラは、日本だけでなくアメリカでも問題だ。5月末には、育休を却下された男性社員らが集団訴訟を起こし、JPモルガン・チェースは約5億5000万円の和解金を支払い話題になった。Facebook社で育休中の日本人社員に話を聞くと――

    「僕が今、育児のメインバッターですね。家で」

    軽やかに話す菊地勇太さんは、ベビーカーを引きながら取材現場に現れた。2012年にFacebookに入社し、2016年からアメリカ本社でマーケティングマネージャーとして働いている。4月から育休をとり始め、間もなく3ヶ月が経つ。シリコンバレーのテクノロジー企業はダイバーシティーに明るいというが、なぜそれが可能なのだろうか?

    「昨年11月に息子が生まれ、最初は妻が育児休業をとって4月からバトンタッチしました。子供が生まれてから1年以内に最大4ヶ月の育休が取得できて、僕の場合は4月〜6月末までの3ヶ月分を、残りの1ヶ月はまた別でとろうと思っています。1ヶ月の育児休業を4回とる人もいます」

    妻は4月から復職し、かわりに父親である菊地さんが家事と育児を担う。

    「朝起きて、図書館に行って読み聞かせを一緒に聞きに行きます。それから帰宅して離乳食を食べて、2人でお昼寝をしたり公園に行ったり。夕飯を準備していると18時頃には妻が帰宅するので、そこから交代。今は日の入りが21時頃なので、2時間ほど一人でサーフィンしに行ってます」

    適度に息を抜く。それはバトンタッチ前の妻も同じ。一日の中に、息抜きの時間を設けている。

    現地のリトミック教室でできたママ友とLINEグループで情報交換をする。LINEには「どの離乳食がいいか」「今日の読み聞かせは何時から」といった情報が並ぶ。

    育児休業中は仕事の連絡は基本的に来ないが、給与は100%支給される。上司からは「この3ヶ月の最大のプライオリティを置くべきは育児。仕事は何も心配するな」と送り出された。

    ダイバーシティーと言うけれど

    昨今、日本では男性社員が育休取得後に転勤の内示や降格などのいやがらせの被害を受ける「パタニティハラスメント(パタハラ)」が注目を集めている。

    男性の育児参加を阻むパタハラは、日本だけでなくアメリカでも問題だ。5月末には、育休を却下された男性社員らが集団訴訟を起こし、JPモルガン・チェースは約5億5000万円の和解金を支払い話題になった。

    一方で、Netflixでは男女共に最大で1年の育児休暇を取得できる制度があり、Etsyでは、新生児誕生後に26週間の有給休暇を提供している。とはいえ、これらの企業はまだ少なく、育休においては女性のみに適用される場合も多い。

    加えて精神的な問題もあるようだ。2016年に行った米デトロイト社のアンケート調査によると「現在のポジションを失うことを恐れて育休を取得しない」と解答した男性が36%を占めたという。

    制度も気持ちも追いついていない、というのが現状のようだ。

    Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOはこれまで2回の育休を取得している。

    「長女が生まれたときに僕は2ヶ月の育児休業を取得しました。娘が人生を歩み始めた最初の大切な時間を共に過ごせたことは誇りです」から始まる、2度目の育児休業取得の宣言は世界中から絶賛された。

    ザッカーバーグCEOは「新生児にとって最初の時間を親と過ごすことは、子供はもちろん、家族にとって有益であるという研究結果もある」と綴り、CEOが2ヶ月休業してもFacebookはきちんと回ると断言する。

    そんなCEOの下、働く菊地さんの場合はどうだろうか? 先述の通り「育児休業はキャリアにとって悪影響」とする意見もある。

    「正直、不安は少しありました。1つは英語力。3ヶ月現場で英語を話さないと衰えてしまうのではないかと思いましたね。もう1つは自分がいなくても仕事が回るのであれば、復職した際に自分の居場所があるのか」

    3ヶ月が経とうとしている今、この懸念はとるに足らないものだとわかった。

    「3ヶ月、息子と一緒にいてわかったことは『こんな貴重な時間はない』ということ。子どもって毎日成長するんですよ。それを間近で見られるなら英語力が落ちるとか、仕事がやりづらくなるって、 些細なんですよね。そもそも、たった数ヶ月で居場所がなくなるのであれば、自分のパフォーマンスが単に低いだけ。育児は関係ないなと思いまして」

    育休は長期的なアウトプットの最大化において合理的

    なぜ育児休業は取得しにくいのか? 菊地さんは「上司……じゃないでしょうかね」と分析する。

    「僕が育休をとったら、部下も取得しやすいですよね、マネージャーは会社のロールモデルになる必要がある。上司が理不尽だったら、会社の印象ってすごく悪いじゃないですか(笑)。Facebookではその教育は徹底しています」

    「マネージャーの仕事はチーム全体の長期的なアウトプットの最大化です。育休を拒否したり、ワークライフバランスを圧迫するように働くと、短期的に成果は上がるかもしれませんが、退職者が増えたら意味ないですよね」

    「効率的かつ長期的に最大のアウトプットをするためには、チームメンバーみんなが心身共に健康でいないといけない。予算や進捗管理をするプロジェクトマネージメントと、明日も会社に行きたいとか、頑張ろうと思える環境を作るピープルマネージメントの2種類を担うのが、管理職だと思うんです」

    効率的に成果を出すために、社員がストレスなく働ける環境を作る。だからこそ、家族を優先することや、残業は少なくする必要があるのだという。

    「ここでは、アジェンダがなければミーティングは開かないし、常に家族が最優先。5時には絶対に退社するし飲み会もない。僕たちは仲良しグループではなく、プロフェッショナルとして集まっているので、成果に結びつかないことはやらない。すごく徹底しています」

    「本当に育休をとってよかった。子どもが生まれるまで良い父親になれるか自信がなかったんです。でも、生まれた瞬間、そんな懸念なんてどうでもよくなった。それぐらい子どもって可愛いんですよね。子どもと過ごす時間は、びっくりするぐらい人を変える」

    「大変なことや不安はあるけれど、人間と人間の信頼関係が築けるのは素晴らしいこと。絶対に息子は僕のこと大好きだから。こんなに父親に懐く赤ちゃんって珍しくないですか?」

    冗談を交えて話す菊地さんは終始軽やかだった。取材が終わると再びベビーカーをひいて日の差すオフィスを歩いていった。途中、久しぶりに顔を合わせる同僚に呼び止められながら。


    取材協力:Facebook