「ブラジャー」がレスターを優勝に導いた プレミアリーグ番狂わせの立役者

    ビッグチームを凌駕した秘策

    世紀の大番狂わせを影で支えたのはブラジャーだった。

    プレミアリーグで歴史的快挙となったレスター・シティの優勝。「小兵が巨人を倒した」と評される逆転劇と、岡崎慎司がメンバーの中軸となって活躍したことで、日本でも大きな話題となった。

    その影の立役者となったのが、カタパルト社の「オプティムアイ S5」だ。独特な形状からデジタルブラジャーとも呼ばれている。

    この黒い下着のようなアイテムがどうやってレスターを優勝に導いたのかーー。BuzzFeedはカタパルト社のビジネス開発マネージャー斎藤兼さんに話を聞いた。

    選手のあらゆるデータを計測し、データ化する

    オプティムアイ S5の主な機能は計測だ。布自体に特別な効果があるわけではなく、背中に装着するデバイスが本体となる。

    2種類の衛星を使って、選手の運動量、走行距離、どれくらいの速さでどれくらいの距離を走ったのかなどを計測する。胸部に取りつけるバンドと共に使えば、心拍数などもデータ化できる。つまり、選手のあらゆる動きをトラッキングし、記録していくのだ。

    これによって選手の運動能力はもちろん、身体にかかる負荷すらも数値化できる。

    「僕たちのプロダクトは、装着し続けることで各選手のデータを蓄積します。心拍数の最高値、平均値。加速減速、左右の方向転換、その強度……。半年〜1年分のデータが貯まると、例えば『今日はいつもより走るのが遅い』というのを客観的に把握でき、『この選手は疲れが溜まっているので今日は休ませよう』と指示が出せる」

    「この積み重ねによって、選手の能力を試合時に100%出せるように整えたり、ケガの予防もできるようになります。今まで感覚的に判断していたものを、エビデンスをもとにロジカルに戦略だてられる」

    レスターは、選手のケガが最も少なかった

    レスター・シティがカタパルト社のシステムを導入したのは2011年。当時は、リーグで二部。2014年に現行のシステムにアップデートし、一部リーグに昇格した。ビッグチームと比べるとチームへの補強予算が少なく、当然ランクは下位をさまよった。その結果から「今年は降格する」とまで噂が流れたものの、見事に番狂わせを演じ、優勝を収めたのだ。

    優勝の秘訣のひとつが、選手の故障が少なかった点だ。「スポーツの中で多くのケガは筋肉系です。これは、選手に負荷がかかりすぎたり、突発的に激しく動くことによって引き起こされます。つまり、避けられる範囲内。数値を分析することで予防できるんですよ。根性論よりもずっと説得力がありますよね」

    「僕の勝手な推測ですが、レスターには、新しいシステムを使って1年で貯まったデータを上手く使ってもらえたのかと思います。7月に選手が何人ケガをした、12月にこの選手が体調不良になった…などがわかる。去年のデータを照らし合わせて『ここで休もう』『この時期に負荷を増やそう』とプランを立てられる。他のチームが休まない日に休日を入れたり、逆に練習の最後にダッシュを組み込んだりしたと聞いています。レスターが、選手のケガが最も少なかったとするデータも出ています」

    選手の寿命を長くし、試合で最高のパフォーマンスを発揮できる

    ドルムントの香川真司選手も、デジタルブラジャーを試合時に装着している。

    「僕たちは、選手が長くピッチの上にいられるように開発を進めています。選手の寿命はもちろん、各試合のパフォーマンスをあげる」

    選手によって、かかる負荷、コンディション、疲労度は異なる。データを計測して分析すれば、各々の選手にとって最適な環境を作ることができる。

    「フィジカル的な強さだけでなくて、コンディションもすごく大事です。選手の言う『100%のパフォーマンス』は、ぼんやりとしたものだったんです、しかし、データを駆使すれば、走行の最高時速や、時速20kmで何分走れたか、などで『各選手の100%』の定義を作ってあげられます。レスターの場合は、シーズン38試合を通して対戦相手よりも走って圧倒するプレイを実現できたんですね。これも、各試合で100%の選手を組み合わせられた結果なのかもしれません」

    補強予算やスター選手の存在がチームにとって大きな力となるのは言うまでもない。しかし、各選手が100%を発揮できるように調整されたチームは、そんな富の力を越えることができる。レスターの歴史的快挙は、番狂わせなだけではない。デジタルがスポーツに下克上を起こす時代の到来を示唆しているのだ。