ステマはなぜ起きるのか、インフルエンサーのはあちゅうさんと考える

    インフルエンサーを使ったマーケティングが盛り上がる一方、ステマなどが問題視されています。

    バズフィードは広告、特に記事型のネイティブ広告を主な収益源としています。筆者(小関)はこれまで事業開発の担当として、広告でお金を稼ぐ方法を考えつつ、せっかくなので面白い広告を届けたいという思いから、「バズフィードの広告は記事広告でありません」と宣言したり、多数の面白い広告を制作しているヨッピーさんをインタビューしたりしてきました。

    今回、広告とメディア業界をめぐるインタビュー企画の第二弾として、インフルエンサーとしてご活躍中の、はあちゅうさんにお話を伺いしました。たくさんの案件に関わってきたからこそ、伝えたいことがあるということですが……。


    ――昨今、インフルエンサー業界がとても盛り上がっていますが、ブロガーとして、いまはインフルエンサーとして、はあちゅうさんは業界をどう見ていますか?

    個人が影響力を持ってお仕事に繋げていくのは、基本的にいいことだと思うので、インフルエンサーが企業とタイアップしていろいろやることに関しては肯定派です。だから今、そういう盛り上がりがあるのはいいなって思います。

    一方でインフルエンサーとクライアントを繋ぐはずの一部代理店さんの立ち位置だったり、あとは一部インフルエンサーの意識の低さには、ちょっと頭にくることがあります。

    代理店の話で言うと、本来は両者を繋ぐはずの存在なのに、クライアントの御用聞きみたいになっちゃっていることがあります。クライアントに対して立場が弱すぎるのか、こういうPRにしましょうっていう提案ではなく、クライアントの要望をそのままインフルエンサーに伝えてるだけ、と感じることがあるんです。

    たとえば、こちら側から「投稿にはこう書かせてください」と提案しても、それをつっぱねられることを何度か経験しているんです。私は「それじゃあやりません」って言えるから今のところは嘘をつかなくて済んでるんですけど、ひどい代理店さんだと「もうブッキングしちゃったので」とか、「今後じゃあお仕事は一切回しません」とか言われます。

    あとは、インフルエンサーと繋いでくれる代理店の方って、もともとご自身もインフルエンサーで、知り合いということも多いですね。なので、知り合いから紹介してもらったお仕事だから断れないとかいうこともあります。

    ――いきなりすごく核心の話になってしまったんですけど……インフルエンサーって本来は影響力のある人のことで、影響力を伝えるスタイルを持っているから、そこにお仕事を頼むっていう話じゃないですか。今のお話だと、実態はクライアントの筋書きがありきで、これだけ投稿してくださいみたいな話になってるってことなんですか?

    そうですね。だから、あんまりインフルエンサーのことを調べないで雑に提案してるなっていう時もあって。そもそも依頼メールに書いてある宛先が間違っているとか、食べ物のことしか投稿してない人に、全然関係ない靴について書いてくださいとか、整体について書いてくださいとか、そういう依頼がきたり。

    ――なぜそんなことになっちゃうんでしょう? インフルエンサーを使うと、今まで届かなかった人にまで情報が届いていくっていう話はしっくりくると思うんですが、なぜ誰に何を頼むかという、一番重要なところで雑になっちゃうんでしょうか?

    そういう場合、担当者がインフルエンサーマーケティングとはなにかあんまりよく分かっていないんだと思います。あとはクライアントから「とにかく影響力のある人を呼んでほしい」とか依頼を受けて、フォロワー数だけを基準に集めちゃったりとか。

    忙しい中で全てのインフルエンサーと密にコンタクトを取れるわけではない、という代理店側の事情も分かるんです。けれど、インフルエンサー側からしたら、そういう依頼をされただけですごく嫌な気持ちになるんですね。何にも分かってないって。

    ――インフルエンサーにとっても、本来ならお仕事っていい話のはずなのに。

    そうですね。他にも、ブランド側が商品を手当たり次第にインフルエンサーへ直接送るパターンもあります。

    インフルエンサーって言っても本当にピンキリで、仕事として自分をブランド化している人もいれば、最近ちょっと影響力を持ち始めたのでなにかしたいっていう人もいるわけです。そういう人にとっては、企業から依頼がきたら、うれしくって受けちゃうってのもあると思うんですね。

    ――そうでしょうね。

    それなのに、後から誰にでも声かけてるんだって分かったら、インフルエンサー側もショックを受けるだろうし、その人のフォロワーも「こういうこと書く人なんだ」って思っちゃうんでしょう。クライアント側もそんな取り組みをしていたら、自分たちの信用を傷つけていると分からないのかな? と。

    ――一方で、さきほど一部のインフルエンサーも意識が低いっておっしゃってましたが、具体的な例はありますか。

    一番大きい問題点は、やっぱりPRマークをつけない人がいることですかね。つけてくださいって言わない代理店がそもそも悪いんですけど、そういう依頼がなかったら「PRマークをつけないと投稿しません」って言わないと、フォロワーに対して嘘をつくことになると私は思ってるんですよ。

    でもそこを、代理店との関係を優先させているのか、ギャラを優先させているのか分からないですけど、ナアナアのままで済ませていることが、けっこう影響力の高いインフルエンサーの方でもよくあります。

    たとえばちょっと前に、ある動画をPRをつけずにTwitterで紹介して欲しい、と頼まれたことがありました。「PRつけないと投稿できません」って返したら、じゃあつけていいですよってなったんです。でも、あとから同じハッシュタグでツイートしている人を見てみたら、影響力の高い方がPRマークをつけずにやっていたのでビックリしました。フォロワーを裏切っているっていう意識がないのかなと。

    ツイートだけの問題じゃなくて、たとえばそのハッシュタグが話題になったら、ニュースやまとめ記事に取り上げられるかもしれないじゃないですか。#PRって書いてなかったら、ニュースに転載されてその人の意見として見られる可能性もあるわけですよね。#PRって書くのは自分を守るためでもあるのに、それをできないインフルエンサーはけっこう多いなって思います。

    ――なるほど……。そうすると、インフルエンサーに広告の依頼があったとき、そこにはPRって書かなければいけないよ、っていう話をどこで学ぶのかというと、どこなんでしょうね? ネイティブ広告ではステマの問題に対して、JIAAのような業界団体がルール作りを行っていますが、インフルエンサーの界隈ではそういうルール作りって動いているのでしょうか。

    ないですね。ないからこそ、クライアント側がまずPRをつけましょうと徹底しないと。大手企業が悪い前例をつくってしまうと、他の企業もこれでいいんだってなると思うんです。代理店とクライアントが、絶対にPRはつける、と発信していかなきゃいけないですね。パートナーシップとか、タイアップとか、アドとか、表記も色々あるので、どこまでオッケーなのかもモヤッとしていて。

    ――ルールがないんですね(注:アップデートに追記)。

    ルールがすごくモヤッとしてます。#PRだったら3文字で終わるのに、それをつけさせず、わざわざほかの単語を使ってあやふやにすることもあって。

    ――はあちゅうさんに依頼がきたときって、どれくらいの割合でPR表記が最初から入っているものでしょうか。

    入ってないほうが多いです。そこをうやむやにしたい人が多いんだな、と。

    ――うやむやにしたいっていうのは、PRってないほうが自然で、広告効果が高いということなんでしょうか。PRをつけると効果が薄れちゃう、という。

    そう思っているクライアントが多いんだと思います。

    ――はあちゅうさんご自身では、PRと明記することで反応が悪くなる印象がありますか?

    一切ないです。ブログ記事にPRとつけることで、PVに変化があったりとか、リアクションに違いがあるとはまったく思わないです。

    最近だと靴底のPR記事をブログで書いたんですけど、自分のエピソードと混ぜているので、そこへのコメントとか、あとはもともと本当に足のかたちに悩んでいたっていう人たちの「紹介してくれてうれしい」「試してみよう」みたいな反応はあったけど、PRのところに触れているところとかはないんですね。

    ――バズフィードでもネイティブ広告はSponsoredと明記してますが、編集記事と同様に読まれてシェアされている実績があります。PRと明記すると効果が落ちるという話は、検証されないまま神話になっているのかもしれないですね。

    そうですね。

    ――インフルエンサーの場合、本当にお金をいただくこともあれば、商品をもらったので取り上げなきゃとか、イベントに呼ばれたので好意的にレポートしなきゃという場合もあると思いますが、どこからがPRの表記が必要だと思っていますか?

    私がPRを明記するのは、明確にお金をもらうとき、請求書を送るような案件のときです。ただ、ものをもらったり、イベントに招待されたときも、そう分かるように書いています。誰かから紹介を受けましたとか、なんとかさんの友達の繋がりで行ってきましたとか。

    著者の方から本をもらった場合も、それを明記しないのはなんか気持ち悪いです。

    ――そのあたりは以前から曖昧だったのが、ネットの時代になって問題として顕在化してきているのかもしれません。ウェブだとコンテンツ単位でスポンサーがいるのかいないのか明確に区切れますが、テレビ番組中の番宣や、雑誌の中での記事と広告の区別って、正直ちょっと曖昧じゃないですか。

    ああ、そうか。そういう考え方に慣れていると、PRと明記させたくないのかもしれないですね。

    でも、こうやってうやむやにPRと書かない人がいることによって、普通に商品がいいなって思ってつぶいたときに「これはPRじゃありません」と書かないと疑われるのがすごい嫌ですね。

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    PR投稿じゃないと断る様子

    ――「これもステマなんでしょ?」みたいな

    「PR投稿じゃありません」っていうのは、本当はつけたくないですけど、企業や商品が絡むコンテンツだと「やっぱりステマですか?」って疑われることがあるんです。お金をもらってないのにもらったと誤認されるのも嫌だし、と思って書いてます。

    ――そういう問題意識というのは、いつからあったのでしょうか。どこかのタイミングでやっぱりPRってちゃんと書こう、と思ったのでしょうか。

    私は最初からです。ブログを書き始めてすぐ。やっぱりブログを書いていると嘘をつけないなっていうのは、みんな実感してると思うんですよね。普段自分が使わないようなものをいきなり使いましたとか書けないし、効果がなかったものを効果ありましたとも書けない。それはフォロワーへの最低限の礼儀というか、信頼関係を保つためなんですけど。

    ――ちょっと聞きづらいのですが、以前に所属されていた会社がステマで炎上したことがあったじゃないですか。

    ハンバーガーのやつですか? あれは2008年なんで、入社前なんですよ。トレンダーズはあれで炎上してから、めちゃくちゃPRマークに厳しくなって、以後、関係性の明示には他社よりも気を遣っているほどです。

    でもそれ、ツイッターでいまだに言われます。私は当時、会社にはいなかったとはいえ、一回そういうことがあると信頼回復に時間がかかるという教訓がありますね。

    ――インフルエンサーとして、こういう案件はやりがいがあったというのはありますか。

    まずは、自分の普段の発信に沿った内容であることですね。例えば私は働き方とか、旅とか、本とか、普段からそういう話題が多いので、それに沿った依頼がくると、まず嬉しいです。

    あと、私はけっこう可燃性が高くて、炎上とかの可能性があるんですよ。案件とはまったく別の話題で炎上する可能性もあるので、そういうキャラの人だからって理解してもらえると嬉しいです。なにで炎上するかのか、だんだん私も読めなくなってきているので。

    それから、インフルエンサーに嘘をつかせないってのは大事です。例えば、商品を使っていないのに「使った」と書かなきゃいけない案件とか、イベントに行っていないのに「行った」と言わせられるとか。

    文言指定でくるクライアントも大嫌いです。「モンドセレクション」って書いてくださいとか。「モンドセレクション金賞」なんて私が書くわけない。そんなことを気にしてモノを買ったことがないのに。「アットコスメ人気ランキング1位獲得、と絶対書いてください」なんてのも嫌ですね。

    ニコパチ(ニコっと笑ったところを、パチっと撮った写真)で自撮りしてください、とかもあります。私は普段自撮りをしないので、そういう依頼がくる時点で私のキャラを分かってないなと思います。

    ――でも、もしかしたら、インフルエンサーによっては与えらえた商材でうまく書けないので、文章や写真の構図まで指示されたほうが楽だと思うことがあるかもしれませんね。

    そういう人はインフルエンサーに向いてないって思います。自分の味付けで商品やサービスの良さを伝えられないのであれば、最初からそういう仕事を受けるべきではないです。嘘をついてまでお金と引き換えに自分の信用を削るんだったら、そもそもインフルエンサーに向いてない。

    ――では、そういう自分に向いてない案件や、あれこれ指示される案件が来たときってどうされてますか?

    大変だからあんまり受けないです。そもそも毎日書けるものじゃないから、それなりのお金をいただいているわけですよね。

    ――新人インフルエンサーが仕事を受けるときのチェックリストがあるとしたらどうなると思いますか? いままでのお話をまとめると「そもそも自分に合っているもの、自分の好きなものか」「PR表記はちゃんとあるか」「写真や文言が指定されていて、操り人形になっていないか」あたりでしょうか。

    もう一つ加えるなら「事前に案件の全貌が見えているか」ですね。例えば、動画を取り上げて欲しいと言われても、どんな動画なのか内容が分からないと返事はできないですよね。全貌を見せて来れれば、後出しじゃんけんにならないで受けられます。

    実際、後出しじゃんけんはすごくあります。後になってPRと明記しないでくださいとか、写真を増やしてくださいとか。

    ヨッピーさんも言ってたことなんですけど、自分の普段の発信を曲げるような広告をインフルエンサーに頼まないでほしいです。たとえば私はiPhoneユーザーなんですけど、Androidのことをつぶやかなきゃいけないときに、iPhoneからのツイートを消してくださいとか、iPhoneを使っていることを書かないでくださいとか言われるんですけど、そういうのは頼まないでほしいんですよ。

    でもインフルエンサーはクライアントを批判するようなことはなかなかできないので、下請けみたいになっているところがあるなって思います。クライアントと対等なパートナーじゃなくって、言われたら聞かなきゃ、みたいになっている。

    ――インフルエンサーマーケティングはすごく話題になってますが、私のようにずっと広告を売ってきた側から見ると、その効果がまだあまり分かっていないところもあると思います。今後、クライアント側が費用対効果にも厳しい目を向けるようになると、状況は落ち着いていくのでしょうか。

    インフルエンサーマーケティング自体は今後も増えていくと思いますね。テレビや雑誌に予算を割かないかわりに、インスタとかの有名人に商品を渡して、PR費用を払うっていうのは効果があるはずなんですよ。インフルエンサーのフォロワーってすごくセグメントされていて、トップのインフルエンサーたちはフォロワーと信頼関係をずっと保つようにしているので。

    YouTuberさんもそうですけど、ファンミーティングをするインフルエンサーも増えているんです。若いトップインフルエンサーってすごくフォロワーとも距離が近いので、ますます嘘はつけない社会になっていると思いますね。だからみんながPR投稿を入れて、インフルエンサーマーケティング自体はもうちょっと正しいかたちで広まっていくといいなって思います。

    ――そもそも、これだけステマが問題になっているのに、PRと書かないことがリスクですよね。

    クライアントが現場で起きていることに気づいてないんだと思います。結果の報告だけ受けていて、ちゃんとPRをつけたかどうかのチェックや、無理やりインフルエンサーを従わせているみたいなことを知らなかったり。

    インフルエンサーは弱い立場だっていうことを分かって欲しいです。初めて仕事をするような、普通の若い女の子が、代理店からこういうふうに書けと強く言われたら、こうしななきゃいけないんだ、って思うはずなんですよ。つっぱねていいのか、分からないと思うんですね。仕事として受けちゃったからやらなきゃとか、ほかの子もやってるからやらなきゃって思っちゃう。そこはクライアントと代理店がちゃんとやるべきだと思います。


    はあちゅうさんとのインタビューで印象に残ったのは、ブログ記事でPRと明記することについて「PVに変化があったりとか、リアクションに違いがあるとはまったく思わないです」と言い切ったところでした。それはPR記事はPR記事として、ちゃんと読まれるように作っているという、自信、あるいはプライドのように感じられました。

    BuzzFeed Japanも広告事業を本格的に開始して約一年が経ちましたが、おかげさまで、面白いものを作れば広告であったとしても、スポンサーを明記しても、ちゃんと読まれる、時にはすごくシェアされてバズる、という手応えを確実に掴んでいます。

    今後もBuzzFeed Japanではちゃんと読まれる広告を作りながら、良い広告とはなにかを考え、情報発信を続けていく予定です。

    アップデート

    インフルエンサーを含むいわゆる「クチコミマーケティング」については、WOMマーケティング協議会がガイドラインを公表しています。