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知ってる? オトコの不妊症問題

とりあえず受けてみよう、精液検査

知っていますか?男性が原因の不妊症

少子高齢化と言われている現代社会において、赤ちゃんが欲しいのに作ることができない「不妊症」はとても重大な問題です。普通に夫婦生活を持って、1年間赤ちゃんができない状態は「不妊症」であると定義されます。

赤ちゃんを産むのは当然女性であるのですが、そのパートナーである男性が原因となる不妊症、つまり「男性不妊症」があることをご存知ですか?

図1をご覧になってください。これは、WHO(世界保健機構)が発表した不妊症の原因は男女どちらにあるかを調査したものです。これを見ると、男性のみが原因の場合が24%、男女両方に原因がある場合が24%、合計48%は男性側が原因であるとされています。

では、日本国内ではどのくらいの数の男性不妊症患者がいるのでしょうか?

現在、赤ちゃんを作る可能性が他の世代より高い青年世代(25〜40歳)の男性人口はおおよそ1500万人います。その中の、3分の2は結婚するとされています。また、不妊症の割合は近年上昇傾向であり、6カップルに1カップルであることがわかっています。さらに、男性側が原因の不妊症を約半分として計算すると・・・

15,000,000 × 2/3 × 1/6 × 1/2 = 833,333

かなり大雑把な計算ですが、なんと日本国内でも80万人以上が男性不妊症の可能性があります。これは、同世代の糖尿病患者よりも多いのです。

男性不妊症の原因は?

不妊症の原因として、男性サイドに原因があるとされて、不妊症外来を受診される患者さんがいます。2014年度に日本国内の男性不妊症外来を受診した患者さん7253人を調査したところ、その中のほとんどは造精機能障害(5991人)でした(2015年度子ども・子育て支援推進調査研究事業より)。

また、閉塞性精路障害(286人)と、性機能障害(980人)の方もいます。これらの原因は一つだけではなく、複数のものが重なっている場合もあります。(図2)

造精機能障害とは?

精液の中の精子が少なかったり、精子の運動が悪かったりすることが原因で妊娠がしづらい状態のことを造精機能障害といいます。一般的に、精液量1.5ml以上、精子濃度1500万/ml、精子運動率40%以上ないと自然妊娠は難しいです。

時に、精液中に全く精子がいない「無精子症」という場合があります。無精子症の原因として、精子が精巣で作られづらい状況になっている「非閉塞性無精子症」と、精子ができているのに精子が出てくることができない「閉塞性無精子症」があります(閉塞性に関しては、この後の項目で解説します)。

造精機能障害の場合、原因がわかるものがあれば、その原因を治療することにより、精子の数や運動を改善させることができて、妊娠につなげられる可能性があります。たとえ無精子症であったとしても、精巣の中の精子を手術で採取することができれば、自分の子供を持つことができる可能性があるのです。

しかし、半分の造精機能障害は原因不明です。そのため、治療が難しく、結局は体外受精などの生殖補助医療が必要となってしまいます。

閉塞性精路障害とは?

精巣の中で精子ができているのに、出てくることができない状態のことを閉塞性精路障害といいます。生まれつき精子が精巣から出てくるための精管がない人もいますし、クラミジアなどの性感染症が原因で精管が詰まってしまう人もいるので注意が必要です。

治療として、顕微鏡を用いて精管をつなぎ直す手術ができる場合もありますが、最終的には精巣の精子を採取する手術を行い、顕微授精が必要となる可能性が高いです。

性機能障害とは?

勃起や射精をすることが難しく、セックスを完遂することができないことが不妊症の原因となっていることを性機能障害と言います。

勃起障害はバイアグラ、レビトラ、シアリスといった「PDE5阻害薬」という薬が非常に効果的であるため、多くの人は治療が可能です。しかし、射精障害の治療は難しい場合が多いです。

不妊治療の現場で最も問題となる射精障害はマスターベーションでは射精することができるにもかかわらず、セックスをする際に膣の中で射精することができない「膣内射精障害」です。

多くは幼少期からのマスターベーション方法が間違っている場合や、心理的なものが原因となりますが、効果的な薬剤はないため、ご夫婦でカウンセリングが必要となります。治療にも長時間が必要となり、結局は赤ちゃんを作ることが優先されるために、人工受精などが必要となってしまいます。

とりあえず受けてみよう、精液検査

「俺はちゃんと勃起して射精ができているのだから、精子がいないわけがない!」と考えている方は、実際にたくさんいらっしゃいます。このことをとある婦人科のドクターは「男の沽券問題」と言っていました。

多忙、プライド、羞恥心が邪魔をすることにより、精液検査を希望されない男性が多いのです。確かに、不妊症を扱うクリニックの名前は「なんとかレディースクリニック」などという場合も多く、男性が受診しづらい状況であることは否めません。

先ほどから申し上げている通り、不妊症の原因の半分は男性です。男性側が検査を受けないと、不妊症の診断が遅れてしまうため、治療が開始できません。年齢が上昇すればするほど不妊治療の成功率は低下するので、これは非常に重要な問題なのです。

男性サイドで不妊症をスクリーニングするのに最も重要な検査は精液検査です。これは、女性サイドの検査よりも簡単です。私は、とりあえず精液検査を受けていただくことをお勧めいたします。

「精液検査など、わざわざ病院に行って受ける必要はない!時間もない!」という方もいらっしゃるでしょう。最近では、Seemやメンズルーペといった自宅でスマートフォンを用いて精子の状態をセルフチェックできるキットも販売されています。

私自身は、メンズルーペの開発にも携わり、この研究はアメリカでも高い評価を受けました。

また、不妊症の知識をチェックすることができるeラーニングシステム「こうのとりラーニング」も開発されていますので、一度トライされることをお勧めします。

「オトコから取り組む不妊治療」へ

男性の不妊症のスクリーニングは、女性よりも簡単で、自宅でも行うことができます。私は、不妊治療が今後「オトコから」行われるように意識が変わっていくことを期待しています。オトコから取り組む不妊治療という文化が日本から広がる日も近いと信じています。


【小堀善友(こぼり・よしとも)】 獨協医科大学越谷病院泌尿器科講師

2001年金沢大学医学部卒業。金沢大学泌尿器科入局、大学院卒業後に2008年より獨協医科大学越谷病院泌尿器科に勤務。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本性機能学会専門医。日本性科学会セックスセラピスト。日本性感染症学会認定医。日本泌尿器内視鏡学会内視鏡手術認定医。米国イリノイ大学留学中にスマートフォン精液検査を開発した。専門は男性不妊症、性感染症、性機能障害。主な著書は『泌尿器科医が教えるオトコの「性」活習慣病』(中公新書ラクレ)。

追記 記事中の「Seem」や「メンズルーペ」の説明を追加しました。