73回目となる長崎の原爆の日には、史上初めて、国連事務総長が参加した。
元国連難民等々弁務官で、その前はポルトガルの首相だったアントニオ・グテレス氏だ。
昨年、核兵器禁止条約を採択した国連のトップは何を語ったのか。全文を紹介する。
「長崎のみなさま、こんにちは。皆様にお目にかかれて、光栄です」(日本語)
今日ご参列の皆さんとともに、1945年8月9日に長崎で原子爆弾の攻撃により亡くなられたすべての方々に哀悼の意を捧げられることを、光栄に思います。
ご参列の皆さん、ならびに原爆のすべての犠牲者と生存者の皆さんに対し、最も深い尊敬の念を表明します。
母国ポルトガルと長崎の絆
長崎を訪問できたことは、私個人にとっても大変な喜びです。母国のポルトガルは5世紀近くにわたり、この街と深い政治的、文化的、宗教的なつながりがあります。
浦上天主堂を訪れたグテーレス氏のツイート
しかし、長崎は、長い魅力的な歴史を持つ国際都市というだけではありません。より安全で安定した世界を希求する世界のすべて人に、インスピレーションを与えています。
長崎は不屈の精神の象徴
この街は、皆さんの街は、強さと希望の光であり、人々の不屈の精神の象徴です。
爆発の直後、そしてその後何年、何十年にもわたって十数万もの人々の命を奪い、体を傷つけてきた原爆も、皆さんの精神を打ち砕くことはできませんでした。
広島と長崎の原爆を生き延びたヒバクシャ(被爆者)の方々は、日本だけでなく世界中で、平和と軍縮のリーダーとなってきました。被爆者が体現しているのは、破壊された二つの街ではなく、築こうとする平和な世界です。
原爆という破局を乗り越え、被爆者の方々は人類全体のために声を上げました。私たちは、その声に耳を傾けねばなりません。
被爆者の方々を面会したグテーレス氏
ノー・モア・ヒロシマ、ノー・モア・ナガサキ、ノー・モア・ヒバクシャなのです。
ご参列の皆さん。
悲しいことに、被爆から73年経った今も、私たちは核戦争の恐怖とともに生きています。日本を含め何百万人もの人々が、想像もできない殺戮の恐怖の影の下で生きています。
核禁条約は軍縮の進まない現状への異議
核保有国は、核兵器の近代化に巨額の資金をつぎ込んでいます。
2017年には1兆7000億ドル以上のお金が、武器や軍隊のために使われました。これは冷戦終了後で最高の水準です。全世界で人道援助のために必要な金額の80倍にあたります。
その一方で、核軍縮のプロセスは失速し、ほぼ止まっています。
昨年、核兵器禁止条約を採択したことで、多くの国がこれに対する不満を示しました。
また、核兵器以外の兵器の危険についても、認識する必要があります。
化学兵器や生物兵器などの大量破壊兵器や、サイバー戦争のために開発されている兵器は、深刻な脅威となっています
そして、通常兵器で戦われる紛争はますます長期化し、一般市民への被害はより大きくなっています。
核軍縮は最重要課題
あらゆる種類の兵器の軍縮を緊急に進める必要性がありますが、特に核兵器の軍縮はもっとも重要で緊急の課題です。
これが、今年5月に私がグローバルな軍縮イニシアティブを発表した背景です。
軍縮は、国際平和と安全保障を維持する原動力です。国家の安全保障を確保するための手段です。軍縮は、人道的原則を堅持し、持続可能な開発を促進し、市民を保護するのを助けます。
私の軍縮アジェンダは、核兵器による人類滅亡のリスクを減らし、紛争を予防し、武器の拡散や使用が一般市民にもたらす苦痛を削減するため、様々な具体的な行動を打ち出すものです。
核兵器は安全保障を損なう
このアジェンダは、核兵器が、世界および国家の安全保障、そして人間の安全保障の基盤を損なうことを明らかにしました。核兵器の完全廃絶は、国連の最も重要な軍縮課題であり続けています。
私はここ長崎ですべての国に対し、核軍縮に全力でとり組み、緊急の問題として目に見える進歩を遂げるよう呼びかけます。核保有国には、核軍縮をリードする特別の責任があります。
長崎と広島から、私たちは、日々平和を第一に考え、紛争の予防と解決、和解と対話に努力し、そして紛争と暴力の根源に取り組む必要性を、今一度思い出そうではありませんか。
平和は抽象的な概念ではなく、偶然に実現するものでもありません。平和は人々が日々具体的に感じるものであり、努力と連帯、思いやりや尊敬によって築かれるものです。
原爆の恐怖を繰り返し思い起こすことから、私たちは、お互いの間にある分かちがたい責任の絆を、より深く理解することができます。
私たちみんなで、この長崎を核兵器による惨害で苦しんだ最後の場所にするようにしましょう。
私は皆さんと共に全力を尽くします。
「ありがとうございます」