子どもたちの危機に、彼はなぜ白紙の声明を出したのか

    ユニセフの代表がシリア内戦で白紙の声明を出した理由とは。

    多くの子どもたちが犠牲になっているシリア内戦。国連児童基金(ユニセフ)は戦況が悪化した2018年2月、白紙のままの声明を発表した。極めて異例だった。

    ユニセフの発表した白紙の声明

    The war on children in #Syria: Reports of mass casualties among children in #EasternGhouta and Damascus | #ChildrenUnderAttack https://t.co/ypSrynSQf3 https://t.co/4J3juzLkxY

    「ユニセフは、この白紙の声明を発表する。子どもたちの苦しみや私たちの憤りを表現する言葉は、もはやない。苦しみを与えている人々には、その残忍な行為を正当化する言葉があるのか?」

    なぜ白紙の声明を出したのか。

    BuzzFeed Newsは、この声明を出したユニセフ中東・北アフリカ地域事務所のヘルト・カッペラエレ代表が7月に来日した際、インタビューした。

    Yoshihiro Kando/BuzzFeed

    ヘルト・カッペラエレさん

    2018年2月、シリアの首都ダマスカス近郊にある東グータ地区では、アサド政権軍とロシア軍などによる反体制派の攻略戦が最終段階を迎えていた。

    政権軍は地域を包囲し、ロシア軍の助力を得て空襲を続け住民と戦闘員の離反を誘ったうえで、地上軍を侵攻させた。多くの子どもたちが恐怖に包まれ、戦闘や空襲で命を落とした子もいるとみられるが、その詳しい状況は確認されていない。

    ユニセフが白紙の声明を出したのは、この時のことだ。

    Bassam Khabieh / Reuters

    東グータ地区ドゥーマで2018年2月、空襲の土煙があがるなか、子どもたちを連れて逃げる男性

    「私の机の上には毎朝、各地からの報告が上がってくる。どれも悲惨な内容ばかりだ。みんなを集め、多くの子どもたちの命が失われようとしている状況で、子どもたちの声を代弁する立場の我々はどういう声明を出すべきか、会議を開いた。全員が沈黙し、押し黙った。言葉がないのだ。これだ、と思った」

    もはやどんな言葉も、状況を正当化できないし、子どもたちの声もユニセフの声も、戦争を続けている人々にはなかなか届かない。カッペラエレさんはスタッフに声をかけた。

    「これ以上言葉がないならば、もはや白紙の声明を出すべきだ」

    そうやって発表された異例の声明は、それ自体がインパクトのあるニュースとなり世界中で報じられた。BuzzFeed Newsも当時、この声明に驚き、記事にした。

    だが、シリアの状況はその後も厳しいままだ。

    AFP=時事

    2018年7月、イエメンの首都サナアで、コレラに感染した疑いで治療を受ける子ども

    シリアだけではない。カッペラエレさんが担当する中東と北アフリカでは、3000万人の子どもたちが紛争の影響を受けている。

    イエメンでも激しい内戦が続く。水道や医療施設が破壊されて衛生環境が悪化し、コレラが蔓延する危機的な状況だ。

    イラクでも、北部の主要都市モスルから過激派「イスラム国」が掃討されて1年が経つが、地域社会の再生は進んでいない。「学校の建物は、お金さえあればすぐ再建できる。だが、宗派や民族の枠を超えて共存する社会のかたちが壊れてしまった。その再建には、何十年とかかるかもしれない」

    「絶望はできない」

    戦乱や政変の絶えない中東・北アフリカで子どもたちを取り巻く環境は、あまりにも厳しい。絶望的な気分になることはないだろうか。

    「ない」と断言した。

    カッペラエレさんは数週間前、シリア内戦で激戦地の一つだったアレッポを訪れた。戦争で傷つき、体に障害を負った子どもたちに会った。

    首から下が全身マヒしている子が、目を輝かせて「将来は理学療法士になりたい」と語りかけてきたという。「理学療法士にリハビリしてもらっているから、どんな仕事なのか僕は知っている。他の子をリハビリしたいんだ」と。

    「どんな状況でも、子どもたちは希望を持とうとしている。そんな子どもたちから、大人が希望を奪うわけにはいかない。だから、絶望はできません」

    Contact Kando, Yoshihiro at yoshihiro.kando@buzzfeed.com.

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