NHK広島放送局が2020年の企画として続けているTwitterと番組連動の企画「1945ひろしまタイムライン」。
原爆投下と終戦直後の混乱の中で、当時の少年が目撃した汽車での出来事を巡る8月20日のツイートが、SNS上で批判を呼んでいる。NHKは8月21日、釈明の文書をアップした。

どんな企画なのか
「1945ひろしまタイムライン」は「もし75年前にSNSがあったら」というコンセプトのもと、実在する3人の広島市民の日記などをもとに、広島に原爆が投下される1945年の動きと市民の思いを日々ツイートする企画だ。
・中国新聞記者だった大佐古一郎さんモデルにした一郎(@nhk_1945ichiro)
・妊娠中の主婦だった今井泰子さんをモデルとしたやすこ(@nhk_1945yasuko)
・当時中学1年生だった新井俊一郎さんがモデルのシュン(@nhk_1945shun)
の、三つのアカウントがある。
ツイートをまとめて日記の原文を確認できるホームページも開設されている。
ツイートは3月に始まった。8月に入ると大きな注目をあつめ、いずれのアカウントもフォロワーは10万を超え、原爆投下と終戦を経て、ツイートは続いている。
それぞれのアカウントのツイート文は、広島にゆかりのある市民が、当時の日記や、その後の本人の手記、周辺への取材などをもとに作成している。
市民から戦争体験を聴き取り、それをもとにした作品をつくってきた劇作家の柳沼昭徳さんが全体の監修を務めている。
批判を呼んだのは
批判を呼んだのは、8月20日に「シュン」のアカウントが投稿したツイートだ。
終戦直後の混乱のなかで両親や弟とともに、激しく混雑する汽車を乗り継いで広島を離れ、埼玉・秩父に向かう途中で見た光景として、こうツイートした。
【1945年8月20日】 朝鮮人だ!! 大阪駅で戦勝国となった朝鮮人の群衆が、列車に乗り込んでくる! #ひろしまタイムライン #もし75年前にSNSがあったら
【1945年8月20日】 「俺たちは戦勝国民だ!敗戦国は出て行け!」 圧倒的な威力と迫力。 怒鳴りながら超満員の列車の窓という窓を叩き割っていく そして、なんと座っていた先客を放り出し、割れた窓から仲間の全員がなだれ込んできた! #ひろしまタイムライン #もし75年前にSNSがあったら
【1945年8月20日】 あまりのやるせなさに、涙が止まらない。 負けた復員兵は同じ日本人を突き飛ばし、戦勝国民の一団は乗客を窓から放り投げた 誰も抵抗出来ない。悔しい…! #ひろしまタイムライン #もし75年前にSNSがあったら
批判の内容は
これらのツイートに、
・これをもとに差別的なリプが相次ぎ、ヘイトスピーチを誘発している
・このようなデリケートな問題には注釈が必要ではないか
・この国のレイシズムは、植民地時代から地続きのものだということが象徴的に表れた
・マイノリティの恐怖に気が付かず、何の注釈もなくこんなことをやってしまうのがマジョリティ特権なんだろうな
といった批判が相次いだ。
あわせて、勤労動員に出たシュンが、労務者とみられる朝鮮人らが「日本は負けるよ」と言ったことにカッとなったという6月16日のツイートも批判の対象となった。
このツイート内容はサイトに公開されている日記の原文にないことから、さらに批判がひろがった。
ツイートは「日記と聴き取りで作成」
NHKによると、三つのアカウントのツイートは、それぞれ3〜5人の担当者が、日記だけでなくその後本人が書いた手記や周辺への取材、当時の出来事の追体験などを通じて作成している。
「シュン」の場合、5人の高校生が担当している。モデルとなった新井俊一郎さん(88)がご存命のため、当時の日記やその後の手記に加え、高校生らが新井さん本人にインタビューして、ツイート文をつくっている。
このため日記の原文にない記述は、原爆投下当日を含め、これまでのツイートにもあちこちに現れている。

上松圭チーフプロデューサーはこれまでのBuzzFeed Newsの取材に、企画の意図を「日記には、8月6日のことだけじゃなく、元日から大晦日まで書かれている。日常が原爆投下で一気に変わり、戦争が終わってまた社会が変わっていく。社会の変化とも向き合って自分の人生をどう生きるか。そこまで描ききりたいと思った」と語っている。
NHKのホームページにある「こうやって作っています」のコーナーには、以下の説明文が掲載されている。
この企画は、75年前の日記本文にもとづき、現代の人たちが想像を加えながら「書いた人が当時何を見て、何を聞き、何を感じたのか?」を伝えることを目的としています。現在では適切でない表現・意見の分かれる内容を含む場合や、日記を書いた本人が事実誤認をしている場合も含みますが、当時の社会・人々の考えを伝えるため、原文を尊重して作成しています。
なお、原爆を描いた漫画「はだしのゲン」(中沢啓治著)でも、このツイートと似た汽車内での場面が描かれている。
「はだしのゲン」では、その様子を見て「しゃくにさわる」といきり立つ仲間に、主人公のゲンが「やめろ」「日本は戦争で朝鮮人をバカにしてこき使って、多くの人を殺してきたんじゃ。朝鮮人がいばる気持ちは分かるわい」「朝鮮人をバカにするな」と語っている。
NHK「実際の表現にならって掲載」と釈明
相次いだ批判を受け、NHKは8月21日、以下の釈明文を掲載。手記と本人がインタビューで使用していた実際の表現にならって掲載したと、その意図を説明した。
8月20日のシュンが発信した、『大阪駅で戦勝国となった朝鮮人の群衆が、列車に乗り込んでくる』と関連のツイートは、シュンのモデルとなった男性が、広島の自宅から両親の故郷である埼玉県に移動する途中に体験したことを伝えています。
当時中学1年生だった男性にとって、道中の壮絶な経験が敗戦を実感する大きな契機になったことに加えて、若い世代の方々にも当時の混乱した状況を実感をもって受け止めてもらいたいと、手記とご本人がインタビューで使用していた実際の表現にならって掲載しました。
また、6月16日に発信した「既に大人たちが大きな穴を掘り進めている。 話す言葉によるとどうやら朝鮮人のようだ」と関連のツイートも、男性が学徒動員でトンネル掘りに従事したときの経験を紹介しました。こちらも手記とご本人がインタビューで使用していた実際の表現にならって掲載しました。
「タイムライン」のツイートは今後も続く予定だ。
一方、Twitter上では釈明文の公表後も抗議が続いており、さらなる説明を求める集会の呼びかけも起きている。
アップデート
抗議の内容などを追記しました。