トランプがエルサレムに米大使館を移したことで抗議デモの58人が亡くなる事態に。中東に何が起こるのか

    パレスチナ問題の発生から70年。トランプ大統領がエルサレムに駐イスラエル米国大使館を移転した。その意味は。中東に何が起きるのか。

    トランプ米大統領が、駐イスラエル米国大使館をエルサレムに移した。

    AFP=時事

    エルサレムは、イスラエル建国後に発展した新市街の「西エルサレム」と、歴史的な町並みが続き、ユダヤ、キリスト、イスラムの三大宗教の聖地があり、住民はアラブ人が主体だった旧市街「東エルサレム」からなる。

    イスラエルは全エルサレムを「首都」としているが、これまで、米国を含む各国が認めることはなかった。

    それをトランプ氏は覆し、米国大使館を地中海岸の商都テルアビブからエルサレムに移すことを決めた。

    トランプ氏は「おめでとう!」

    Via Twitter

    「正しい決断」

    AFP=時事

    大使館移転の記念式典にはトランプ大統領の娘イバンカ氏と、その夫で大統領上級顧問のクシュナー氏が出席した。

    クシュナー氏は式典で「大使館をエルサレムに移すことで、米国は世界に改めて、信頼できる存在であることを示した。米国はイスラエルとともにある。それが正しいことだからだ」と挨拶した。

    クシュナー氏はイスラエル支持のユダヤ人で、イバンカ氏も結婚の際、キリスト教からユダヤ教に改宗している。

    移転への抗議でパレスチナの58人が死亡

    Reuters

    東エルサレムやガザなど、パレスチナ各地で、激しい抗議デモが起きた。イスラエル紙ハアレツによると、イスラエル軍が発砲などでガザで58人が死亡した。

    一つの政治決断が、1日でこれだけの死者をうみだしたのだ。

    AFP=時事

    ガザで親族の死を嘆く女性

    エルサレムへの大使館移転の何が問題なのか

    BuzzFeed

    エルサレムは、イスラエルとパレスチナ双方が「首都」と主張する都市だ。

    正確に言うと、東エルサレム(旧市街)と西エルサレム(新市街)に分かれる街区のうち、パレスチナは東エルサレムを首都としている。一方でイスラエルは東西エルサレムの全体を首都としている。

    1980年、イスラエルの国会はエルサレムを首都とする「エルサレム基本法」を制定した。

    しかし、これに待ったを掛けたのが、国連だった。イスラエルがエルサレムを首都と宣言するのは、国際法に違反するという国連安全保障理事会決議第478号を採択した。

    なぜか。

    70年前のこの日は「建国記念日」か「大災厄」か

    AFP=時事

    5月14日に大使館を移設したのは、イスラエルにとってもパレスチナにとっても大きな意味がある。

    というのも、この日がイスラエルの建国宣言から70年の記念日であり、それは同時にパレスチナにとっては「ナクバ(大災厄)」と呼ばれる、先祖伝来の地を失う悲劇の始まりでもあるからだ。

    パレスチナではかつてユダヤ教が栄え、ユダヤ教徒の王国があったが、長い歴史の中でイスラム教徒やキリスト教徒主体のアラブ人が暮らすようになっていた。

    欧州のユダヤ人の間では、少数派として差別される自分たちが先祖の地であるパレスチナに戻ってイスラエルを建国しようという「シオニズム」という政治運動が19世紀末に生まれ、次第に強まった。そこにナチスによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)が起き、多くのユダヤ人が安住の地を求めてパレスチナに移り住んだ。

    パレスチナに暮らすアラブ人(パレスチナ人)との対立が深まり、国連は1947年、パレスチナをユダヤ人国家とアラブ人国家に分割し、エルサレムを国際管理とする決議を採択した。

    そして英国のパレスチナ委任統治が終了した1948年5月14日、イスラエルの初代大統領ベングリオンが建国を宣言。イスラエル建国を認めないアラブ諸国が一斉に軍事行動に出て、第1次中東戦争が始まった。

    1949年に停戦合意が行われた時、イスラエル側は国連決議よりも広い領土を確保していた。この時、ヨルダン軍が確保していた東エルサレムとヨルダン川西岸地区、エジプト軍が確保していたガザ地区が、その後も「パレスチナ領」の基本となった。

    イスラエルは西エルサレムの建設を本格化させた。そして1967年の第3次中東戦争でヨルダン軍などを打倒し、念願だった東エルサレムの占領に成功した。

    今も国際法の上では、東エルサレムやヨルダン川西岸などは「占領下の土地」なのだ。

    今も「国際法違反」

    AFP=時事

    エルサレムをイスラエルの首都とすることを認めないと定めた1980年の決議で、国連安保理は「武力による領土拡張は認められない」「占領者であるイスラエルが聖地エルサレムの性格を一方的に変えようとしている」と批判した。この採択で、米国は棄権した。

    こうした決議が採択される背景には、イスラエルとパレスチナの間で恒久的な和平を達成するためには、イスラエルによる全土の併合や占領の継続ではなく、ユダヤ人と非ユダヤ人が土地を分け合ってそれぞれの国家を建設して共存することが最善の方法だという、国際社会の幅広い合意があるからだ。

    こうしたことから、日本を含む各国は、駐イスラエル大使館をエルサレムではなく、テルアビブに置いてきた。

    この決議は現在も有効だ。ということは、エルサレムをイスラエルの首都と認めることは国際法違反といえるが、トランプ大統領は突っ走った。

    パレスチナ自治政府のアッバス議長(大統領に相当)の報道官は5月14日、「米国は中東和平の仲介役を放棄し、世界を侮辱した」と激しく批判した。

    トランプ氏が優先するのは、中東和平よりも米国の国内事情

    AFP=時事

    トランプ氏が大使館移転を決めたのは、自らの政権を取り囲む米国の国内事情を、パレスチナとイスラエルの和平よりも優先させたからだ。

    トランプ氏は2016年の大統領選挙で、大使館のエルサレム移転を公約とし、米国内のユダヤ人や福音派キリスト教徒らの支持を集めた。福音派は米国人口の4分の1を占め、トランプ氏は大統領選で、その8割の票を得たとされる。

    トランプ政権は11月、議会上下院の中間選挙を控える。ここで敗れれば2020年大統領選での再選戦略にも大きく影響するため、福音派をはじめとする宗教保守層や白人労働者層の支持をつなぎ止めることは、トランプ大統領にとって重要課題だ。

    福音派の大物伝道師ビリー・グラハム師が2018年2月に死去した際には、その遺体を米議会議事堂に公開安置し、トランプ氏も立ち会った。

    TPP(環太平洋パートナーシップ協定)や気候変動に関するパリ協定、イラン核合意からの離脱に続き、トランプ氏はまたも、これまでの政権が重視してきた国際協調のかたちよりも、国内事情を優先させたことになる。

    米国の大使館移転は1995年に法制化されていた

    とはいえ、米国が大使館をエルサレムに移転することは、トランプ氏が初めて言い出したことではない。共和党、民主党とも福音派やユダヤ教徒など票と資金を持つイスラエル支持派の意向を無視できず、連邦議会は1995年に移転法案を可決していたのだ。

    しかし、クリントン、ブッシュ、オバマの歴代の大統領は国際情勢を重視し、移転を実行することを避けてきた。

    「中東和平の仲介者」を自認してきた米国が、イスラエルを一方的に優位な状況に立たせることになる大使館のエルサレム移転を実行してしまえば、パレスチナ側や周辺アラブ諸国の信用を失い、中東での影響力までをも失うと考えていたのだ。

    一度はたどり着きかけた和平

    AFP=時事

    今の中東情勢は、1993年に米国の仲介でイスラエルとパレスチナが結んだ合意、通称「オスロ合意」を基盤としている。オスロで事前の秘密交渉が行われたため、この名が付いた。

    この合意では、イスラエルはパレスチナ解放機構(PLO)をパレスチナの代表と、PLOはイスラエルを国家として互いに承認することとした。それをもとにパレスチナ側が自治政府(PA)を発足させた。

    パレスチナは「東エルサレムを首都とする」としているが、東エルサレムはイスラエルによる占領が続いているため、実質的な首都機能はヨルダン川西岸地区のラッマッラーという都市にある。

    この写真にある通り、4度にわたる戦争を繰り広げてきた両者を、世界最強の軍事力と経済力を持つ米国が「庇護者」として橋渡しし、米国からも多くのユダヤ人が渡った移民国家であるイスラエルの生存を保障しながら中東全体の和平につなげるというのが、歴代の米国政権が維持してきた戦略だった。

    オスロ合意の成立時に握手をしたイスラエルのラビン首相(当時)は元イスラエル軍参謀総長で、対パレスチナ作戦を指揮してきた。PLOの故アラファト議長もイスラエルに対する武装闘争を指揮してきた。文字通り、血で血を洗う戦いの果てにたどり着いた妥協策だったのだ。

    この合意で、二人はノーベル平和賞を受賞した。

    しかし、ラビン氏は合意の2年後、和平反対派のユダヤ右派に暗殺された。イスラエルはその後、和平に背を向ける姿勢をとるようになった。

    そもそもパレスチナは「自治」からほど遠い

    UNOCHA / Via ochaopt.org

    「オスロ合意」でパレスチナの自治が始まったが、自治の対象地域は、パレスチナ側が行政、治安両方の権限を担うA地区、パレスチナが行政権を担い、イスラエルとパレスチナが治安権限を共同管理するB地区、イスラエル側が行政、治安両方の権限を握り続けるなどC地区に分かれている。

    国連がつくったこの地図のうち、茶色い部分はC地区。ヨルダン川西岸地区でもその半分以上でイスラエルが支配を続けているのが現状で、イスラエルはC地区を主体にユダヤ人のための入植地(ユダヤ人のための住宅地)の建設を続けている。さらに、「テロ防止」の名目でイスラエルが建設を続ける分離壁でパレスチナ側の土地はあちこちで分断されている。

    地図を見れば分かる通り、A地区とB地区は細切れかつバラバラで、このままでパレスチナが持続可能な独立国家となることは、ほぼ不可能な状況だ。そしてそれが、イスラエルが明言しないまま維持している戦略であるといえる。

    これから何が起きるのか

    AFP=時事

    米国はクシュナー氏を中心に新たな中東和平案をつくり、イスラエル・パレスチナ双方に認めさせようとしている。

    だが、どんな和平案が出てこようとも、東エルサレムを首都にできないという時点で、パレスチナ人の大半にとっては承服しがたいものになる。トランプ氏に対するパレスチナ人の信頼感は極めて低く、トランプ政権下で中東和平が成立する可能性も低い。

    成立する可能性があるとすれば、米国やトランプ氏に近いサウジアラビアなどが強烈な圧力をかけ、パレスチナ側が受け容れざるを得なくなった場合だ。

    パレスチナでは、ファタハとハマスの二大組織の対立が収まらず、ハマスが実効支配するガザとヨルダン川西岸の分断が続く。議会選挙も2006年を最後に行われなくなっており、民意をまとめる方法もない状態となっている。

    自由を奪われたままのパレスチナの人々の怒りと不満が、どこでどのようなかたちで吹き出すか。

    パレスチナで行われた世論調査では、2017年2月には38%がイスラエルとの和平交渉を支持し、31%が「抵抗」を支持すると答えた。これが2018年2月の調査では、交渉支持派は25%に減り、「抵抗」支持派は36%に増えた。

    パレスチナの世論は、和平交渉への期待を失いつつある。

    BuzzFeed JapanNews

    Contact Kando, Yoshihiro at yoshihiro.kando@buzzfeed.com.

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