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ISの性暴力を告発 ノーベル平和賞ナディアさんの横顔

2018年のノーベル平和賞は、コンゴのデニ・ムクウェゲ医師とイラク出身のナディア・ムラドさんに贈られた。25歳の女性が、なぜ授賞したのか。

2018年のノーベル平和賞は、コンゴ人の医師で、内戦で性暴力の被害を受けた女性の治療を続けてきたデニ・ムクウェゲさん(63)と、イラク北部出身の25歳の女性、ナディア・ムラドさんが授賞した。

今年の平和賞のテーマは「紛争下での女性への性暴力」に対する啓発。「勇気ある人」とノルウェー・ノーベル委員会に称えられたナディアさんは、どんな人なのか。なぜノーベル平和賞を受賞したのか。

ナディア・ムラドさん
AFP=時事

ナディア・ムラドさん

ナディアさんは1993年、イラク北部シンジャル地方に生まれた。

周辺はシンジャル山脈という天然の要塞に守られ、ヤズディ教という独自の宗教への信仰を守り続ける人々が暮らす地域だ。

民族的にもアラビア語を話すアラブ人ではなく、イラク・シリア・トルコ・イランにまたがって広がり「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人。一方で、クルド人の主流はイスラム教スンニ派。

つまり、シンジャルのヤズディ教徒は、イラクの少数派であるクルド人でも、さらに少数派なのだ。

フセイン政権の独裁など過酷な歴史に翻弄されてきたヤズディの人々に巨大な悲劇が起きたのは、2014年8月のことだった。

イラク北部シンジャルから、クルド自治区ドホークに避難してきたヤズディの女性=2014年8月5日
AFP=時事

イラク北部シンジャルから、クルド自治区ドホークに避難してきたヤズディの女性=2014年8月5日

シリアとイラクで急速に勢力を広げたイスラム過激派「イスラム国(IS)」がシンジャルに侵攻したのだ。

極端なイスラム教解釈をとるISにとって、ヤズディ教徒はイスラムを信じない「邪教徒」。

ヤズディに一切の人権を認めないISの手で、男性や高齢の女性は殺された。若い女性は性奴隷とされた。強制的にIS戦闘員の「妻」とさせられたのだ。被害者の数は3000人を超えるとみられる。

19歳の学生だったナディアさんもこの時、ISに捕らえられた。繰り返しレイプされ、殴る蹴るの暴力を受けた。

2015年12月、国連安全保障理事会で、悲痛な表情を浮かべながら体験を語ったナディアさん
Eduardo Munoz / Reuters

2015年12月、国連安全保障理事会で、悲痛な表情を浮かべながら体験を語ったナディアさん

ようやく脱出したのち、イラクからドイツへ逃れ、避難民としての生活を続けながら、メディアの取材を受けて自らの経験を語り、ISの性暴力を告発した。

2015年12月には国連の安全保障理事会にも出席し、人身や性暴力の実態を証言。人身売買の被害者の尊厳を訴える国連親善大使となった。

家父長制の強いクルド社会では、性暴力を受けたことは女性と一家の恥であり、隠すべきだという考え方が根強い。

それにひるまず、自らの悲惨な体験を「女性への性暴力や人身売買を二度と許してはならない」と顔を上げて訴え続けたことにより、2016年10月、欧州連合(EU)欧州議会は、優れた人権活動をたたえるサハロフ賞をナディアさんと、もう1人のヤズディの女性に贈った。

2017年6月1日、ISによる侵攻後、初めて故郷を訪れたナディアさん
Alkis Konstantinidis / Reuters

2017年6月1日、ISによる侵攻後、初めて故郷を訪れたナディアさん

それ以降、ナディアさんはノーベル平和賞の有力候補として注目を集めるようになっていた。

10月5日のノーベル平和賞発表で、委員会はナディアさんに授賞する理由をこう説明した。

「戦時の女性への性暴力は戦争犯罪であり、国際安全保障への脅威である。戦時に女性の基本的な権利と安全を保障しなければ、より安全な世界にはならない」

「ナディアは脱出後、声を上げることを選んだ。わずか23歳で国連親善大使に選ばれた。ナディアは今年、女性への虐待に対して発言を続けた。ムクウェゲ氏とともに、この問題で世界の先頭に立った」

ナディアさんとムクウェゲさん
Reuters Photographer / Reuters

ナディアさんとムクウェゲさん


Yoshihiro Kandoに連絡する メールアドレス:yoshihiro.kando@buzzfeed.com.

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