酷暑の高校野球が開幕 「夏の甲子園」はこのままでいいのか

    「聖地」ゆえの縛り。主催する朝日新聞と日本高野連の考えは。

    阪神甲子園球場で、今年で第100回となる全国高校野球選手権大会が8月5日に始まった。災害レベルの酷暑が続くなかでの開催だ。

    2017年の高校野球開会式では、プラカードを持った先導役の女子生徒が熱中症で倒れた。それ以前にも、選手が試合中に熱中症になって交代したり、手当を受けたりする事態が起きている。

    今年はそれ以上の暑さが続いている。4日の開会式リハーサルでも、6人が暑さで体調を崩した

    猛暑を避けるため地方大会でナイターも

    2018年の地方大会では、熱中症を避けるための工夫が各地で行われた。京都で午後の試合開始を避け、ナイターを行った。山口では決勝戦を午後1時から午前9時半開始に変更。滋賀では球場内にミスト装置を置いた。

    それでは、甲子園での全国大会はどうなるのか。

    気象庁は開催地の兵庫県の天気について「気温は平年よりかなり高い日がある見込み」「8月10日頃にかけて最高気温が35度以上となる所があり、熱中症など健康管理に注意を」との予報を発表している。

    朝日は社告で熱中症に注意を呼びかけ

    主催する朝日新聞社は日本高野連と連名で、8月1日付朝刊1面に来場者や関係者に対し、熱中症への注意を呼びかける社告を出した。

    朝日新聞社によると、今回の大会では、熱中症対策として初めて、開会式の参加全員に飲み物を持たせて式の途中で給水時間を設ける。

    大会本部などの判断で試合中にも給水と休憩の時間を取れるようにし、応援団にも注意を呼びかけるという。

    これらに加え、以前から行っている

    • スタンドや球場内に医師、看護師、理学療法士らを配置し、出場選手らの体調を見守る。
    • 理学療法士は14ー18 人配置し、スタンドの前列で選手の動きを見守る。
    • 理学療法士がベンチ内のドリンクを作り、背番号入りのカップを用意して選手全員が確実に飲むようにする。選手が体を冷やすための氷囊も作る。

    といった対策も続けるという。

    高校野球に対し変革を求める声

    開催日程が短い高校野球を巡っては、投手の連投が以前から問題になっている。さらに猛暑の年が相次ぐようになったことから、「日程を変えるべきだ」「空調のあるドーム球場でやるべきだ」といった意見が強まっている。

    高校野球大好き芸人で見る球児って一部。それでも感動するし、みんな頑張ってるんだなぁって思う。だから、安易に高校野球の中止はしてほしくない。やはり、各ドームで予選をし、京セラドームを甲子園とするのがいいのだろうか。 “災害級”猛暑でも開催の「甲子園」高校野球 https://t.co/oRAGWO8cY5

    高校野球大会における、春の毎日新聞・夏の朝日新聞という利権の維持が問題。2社共同主催による一年を通しての大会に変えれば、現状の問題をいくつか解決できる。夏は甲子園ではなく京セラドームにして、室内プレイにする。 https://t.co/oxpQkLFhUl

    高校野球は開催時期ずらすか空調効いたドーム球場に変更するかの2択だと思うけど、頭がコンクリートより固い高野連じゃそういう変更を決断するのは無理だろうからねえ

    甲子園以外での試合に相次いだ苦情

    甲子園はそもそも、高校野球のためにつくられた球場だ。

    戦前、中等学校野球(今の高校野球)人気が盛り上がったことから、朝日新聞社が提案し、阪神電鉄が1924(大正13)年に建設した。当時まだ、プロ野球も阪神タイガースも存在していなかった。

    その甲子園以外で高校野球の試合を行ったことは戦後、3回ある。

    最初は、甲子園が米軍に接収されていたため西宮球場で大会を行った1946年。そして記念大会として出場校が増えたため、3回戦までを西宮球場と甲子園に分散した第40回(1958年)、45回(1963年)大会だ。

    63年に能代高(秋田)のエースとして出場した簾内政雄さん(元ヤクルト)は西宮球場で2試合プレーし、甲子園で試合できないまま敗退した。秋田魁新報に「甲子園で試合をするものだと決め付けていたから『おやっ』と思った」と語っている。

    簾内さんは「西宮球場も立派だった」と語るものの、この2大会に出場しながら甲子園でプレーできなかった各校の選手や地域の住民から「甲子園での試合が夢だったのに」「不公平だ」という苦情が相次いだ。その後、甲子園以外で試合が行われたことはない。

    兵庫大会に「甲子園でやるのはずるい」と批判


    逆の例もある。

    兵庫での地区大会では以前、甲子園が試合会場として使われていた。しかし、他の都道府県から「ずるい」といった批判が出たことなどから、2004年を最後に使われなくなった

    甲子園は、厳しい地区大会を勝ち抜いた選手だけがプレーできる「聖地」だと、多くの人が思っているということだ。

    「聖地」ゆえの縛り

    高校野球は国民的な行事だ。「甲子園」という言葉は、日本社会で特別な重みを持っている。

    朝日の社内や高野連では、40回、45回大会のことは苦い教訓として語り継がれており、甲子園以外で試合を行うことは話題にのぼりにくいのが実情だった。

    猛暑を避けるため日程を大きく変えることも、学期と重なることを避けたい高校側の反発や、プロ野球の日程との兼ね合いなどから、議論は進んでこなかった。

    「聖地」ゆえの重みと縛りが、抜本的な改革を阻んできたのだ。

    変化の可能性は

    だが、昨今の猛暑は危険なレベルに達している。高校野球に変革の可能性はあるのか。

    日本高野連の竹中雅彦事務局長は東京スポーツの取材に「秋にするとなると、学校はどうするのか。ドーム球場で球児が納得するのか。高校野球の聖地は甲子園だから」としたうえで、「でも来年以降はあらゆる可能性を視野に入れて検討していかないといけないのは事実」と述べた。

    朝日新聞社広報部はBuzzFeed Newsの取材に「高校生による競技として長く定着した大会であり、安全で円滑な大会運営ができるよう、今後も様々な角度から検討してまいります」と回答した。

    アップデート

    8月5日の高校野球開幕に合わせ、一部の表現と写真を変更しました。