【全文つき】広島出身の岸田首相が、原爆式典のあいさつで「スルー」したこと… 安倍・菅政権からの変化は?

    戦後三人目の広島出身の首相として岸田氏が広島平和記念式典であいさつした。広島出身であることを全面に打ち出す首相が語った言葉とは。

    広島で、一発の原子爆弾で多くの命が奪われてから77年。広島・平和記念公園で平和記念式典が開かれた。あいさつしたのは岸田文雄首相。戦後3人目となる広島県出身の首相だ。

    2021年は前任首相の菅義偉氏があいさつ文を読み飛ばすという失態を演じた。さらに、文章の構成は2020年の安倍晋三氏のものとほぼ同じだった。

    平和公園と原爆ドームを自らの選挙区内に抱える岸田首相は、2022年のあいさつで何を語ったのか。歴代首相の言葉から何を変え、何を変えなかったのか。

    「被爆地広島出身の首相として誓う」

    岸田首相は「77年前のあの日の惨禍を決して繰り返してはならない。これは、唯一の戦争被爆国であるわが国の責務であり、被爆地広島出身の総理大臣としての私の誓いです」と語り、自らの立ち位置を強調した。

    そのうえで、核不拡散条約(NPT)の運用検討会議に日本の首相として初めて参加して演説したことと、2023年のG7サミットを広島に誘致したことをアピール。G7首脳とともに平和と国際秩序の維持、民主主義や人権を守るために結束する場としたい、と述べた。

    NPT体制との矛盾に触れず

    「米ロ英仏中以外には核兵器を持たせない」とするNPT体制の堅持は、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」とする非核三原則とともに、日本の核政策の根幹となってきた。

    しかし岸田氏は、そのNPTに背を向けて核実験を行った核兵器保有国インドに対し、日本が原子力協定を結んで原子力開発で協力する姿勢を示す矛盾と、外相として自ら交渉に関わったことには、触れなかった。

    インドはNPTに加わらないだけでなく、原子力潜水艦と弾道ミサイルも保有し、独自の核兵器戦略を維持。いずれも核兵器を持つ隣国パキスタンや中国と対立している。

    インドとの原子力協定締結には、広島・長崎両市長が公式に反対の意向を表明していた。しかし、政府は2016年、インドとの協定締結で合意した。

    核禁条約をスルー

    もう一つ岸田氏が触れなかったことがある。核兵器禁止条約だ。

    核兵器の開発、実験、製造、保有、使用、威嚇などの一切を禁じる条約で、2021年1月に発効した。

    条約は前文で「核兵器の被害者(被爆者=英語の原文でもHibakusha)が受けた容認しがたい苦しみ」に触れたうえで、「核兵器廃絶のため被爆者が行ってきた努力を認識する」と、何度も被爆者の苦しみと核廃絶の願いに触れている。

    広島市は解説ページをつくって日本をはじめとする各国の参加を呼びかけている。

    しかし、日本政府はこれまで、核禁条約への参加に背を向けてきた。その理由は、「核兵器を違法化する条約に参加すれば、米国による『核の傘』が得られなくなる」というものだ。

    岸田首相は広島でのあいさつで、核兵器禁止条約について触れなかった。岸田氏はNPT再検討会議での演説でも核禁条約に触れておらず、自らの政権下で条約に参加する考えはなさそうだ。

    全体としては新味なし

    2021年の菅氏のあいさつ、その前年の安倍氏のあいさつの構成は、ほぼ同じだった。

    ・イントロ

    ・コロナ対策への言及

    ・核不拡散条約体制を維持するという日本の立場の説明

    ・被爆者援護への取り組み

    ・結び

    というものだ。

    岸田氏のあいさつ文の構成は、

    ・イントロ

    ・広島出身の自らの核廃絶への誓い

    ・核不拡散条約体制を維持するという日本の立場の説明とサミットについて

    ・被爆者援護への取り組み

    ・結び

    だった。言葉遣いや表現には変化があるが、構成についてはコロナ対策の部分が自らの立ち位置の説明に変わった部分以外、ほぼ同じ流れだといえる。

    岸田首相は広島出身であることにこだわりを持ち、しばしばそれを口にしている。

    しかし、初めて首相として臨んだ広島平和記念式典のあいさつで語った具体的な取り組みの内容は歴代の首相と変わらず、新しいものはなかったというのが、結論だ。

    あいさつの全文は、以下の通り。

    岸田首相のあいさつ

    本日、広島は被爆から77年となる朝を迎えました。

    真夏の太陽が照りつける暑い朝、一発の原子爆弾が、広島の街を一瞬にして破壊しつくし、10数万とも言われる人々の命を、未来を、そして人生を奪いました。川では数多の人が倒れ、街中には水を求めてさまよう人々の姿。そうした惨状の中で、何とか一命をとりとめた方々も長く健康被害に苦しまれてきました。

    内閣総理大臣として、ここに犠牲となられた方々の御霊に対し、謹んで哀悼の誠をささげますとともに、今なお後遺症に苦しむ方々に対し心からお見舞いを申し上げます。

    77年前のあの日の惨禍を決して繰り返してはならない。これは、唯一の戦争被爆国であるわが国の責務であり、被爆地広島出身の総理大臣としての私の誓いです。

    核兵器による威嚇が行われ、核兵器の使用すらも現実の問題として顕在化し、核兵器のない世界への機運が後退していると言われている今こそ、広島の地から私は核兵器使用の惨禍を繰り返してはならないと声を大にして世界の人々に訴えます。

    我が国はいかに細く険しく、難しかろうとも、核兵器のない世界への道のりを歩んでまいります。このため、非核三原則を堅持しつつ、「厳しい安全保障環境」という「現実」を、「核兵器のない世界」という「理想」に結びつける努力を行ってまいります。

    そうした努力の基礎となるのは、核兵器不拡散条約(NPT)です。その運用検討会議がまさに今、ニューヨークで行われています。私は先日、日本の総理大臣として初めてこの会議に参加をし、50年余りにわたり世界の平和と安全を支えてきたNPTを国際社会が結束して維持強化していくべきである旨訴えてまいりました。

    来年はこの広島の地でG7サミットを開催します。核兵器使用の惨禍を人類が二度と起こさないとの誓いを世界に示し、G7首脳とともに平和のモニュメントの前で平和と国際秩序、そして自由民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値観を守るために結束していくことを確認したいと考えています。

    核兵器のない世界の実現に向けた確固たる歩みを支えるのは、世代や国境を越えて核兵器使用の惨禍を語り伝え、記憶を継承する取り組みです。我が国は、被爆者の方々をはじめ、核兵器のない世界を願う多くの方々とともに被爆の実相への理解を促す努力を重ねてまいります。

    被爆者の方々には、保健、医療、福祉にわたる支援の必要性をしっかりと受けとめ、原爆症の認定について、できる限り迅速な審査を行うなど、高齢化が進む被爆者の方々に寄り添いながら、今後とも総合的な援護政策を推進してまいります。

    結びに、永遠の平和が祈られ続けているここ広島市において、核兵器のない世界と、恒久平和の実現に向けて力を尽くすことを改めてお誓い申し上げます。原子爆弾の犠牲となられた方々のご冥福と、ご遺族、被爆者の皆様、並びに参列者広島市民の皆様のご平安を祈念いたしまして私の挨拶といたします。

    (テレビ中継からの聴き取り)