イスラエルとパレスチナの衝突激化はなぜ？ イチからわかる中東問題10のポイント

イスラエルとパレスチナの衝突が激化の一途をたどっている。なぜ暴力の応酬が止まらないのか。なぜ激化したのか。見通しは。

1.対立が再び激化するイスラエルとパレスチナ

AFP=時事“

イスラエルとパレスチナの対立が激化し、双方で200人を超える死者が出ている。多くの市民や子どもたちも犠牲になっている。

イスラエル側にはパレスチナ勢力による1000発を超えるロケット弾が降り注いだ。一方、パレスチナ・ガザ地区では、イスラエル軍が米AP通信やアルジャジーラの支局があるビルまでも空爆する事態となっている。

アメリカをはじめとする国際社会は双方に抑制を呼びかけているが、状況は変わらない。

なぜ、暴力の応酬が続くのか。

先行きはどうなるのか。

2.そもそも、パレスチナ問題とは

AFP=時事

パレスチナ問題とは、同じ場所に自分の国を確保したいユダヤ人（ユダヤ教徒）とパレスチナ人（イスラム教徒、キリスト教徒など）の、土地を巡る争いだ。

欧州で長く迫害されてきたユダヤ人の間では19世紀末以降、「かつてユダヤ王国があった中東の地に、世界各地で続く迫害からユダヤ人が逃れられる自分たちの国を作りたい」という考え方が強まった。

ナチスドイツのホロコーストも重なり、多くのユダヤ人が旧英領パレスチナに渡り、1948年にイスラエルの建国を宣言した。

それは長年にわたりこの地に住んでいたイスラム教徒やキリスト教徒、つまりパレスチナ人にとっては「外部からの侵略」であり、猛反発した。周辺アラブ諸国もイスラエルの建国を認めず、戦争となった。

イスラエルは、この第1次中東戦争を勝ち抜いたことで国の基盤を作り、1967年の第3次中東戦争ではパレスチナ全土を占領した。

イスラエル軍は2005年にガザ地区からは撤退したものの、上の写真の東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区の広い範囲で治安権限を握っている。

そして、西岸と東エルサレムでパレスチナ人を追い出したうえで、ユダヤ人専用の住宅街（=入植地）をつくったりして住民構成を変えるという政策を、長年にわたり続けてきた。

3.入植地にパレスチナ人は入れない。

AFP=時事

入植地の一つマアレアドミーム。東エルサレムを包囲するように、こうしたユダヤ人専用の住宅街が次々と建設されている。入植地の建設は、イスラエルの法制度上は「合法」だ。

一方で日本政府を含む国際社会の大勢は、これを「違法」と考えているが、アメリカのトランプ政権は認める方向に転換した。

こうして東エルサレムと西岸地区で日に日に入植地が拡がり、入植地で暮らすユダヤ人はすでに40万人を超えている。

4.今回の発端は東エルサレム

AFP=時事

今回の衝突のきっかけの一つと多くの関係者が指摘するのは、東エルサレムのシェイフ・ジャラーハ地区でのパレスチナ人立ち退き問題だ。

この地区（多くの日本メディアはシェイクジャラ等と表記）で、複数のパレスチナ人世帯が、イスラエル側の法律に基づき、立ち退きを求められた。各地で続く土地を巡る争いの「前線」の一つだ。

イスラエル最高裁が5月10日に立ち退きを命じる判決を出すと想定されていたため（のちに混乱の拡大で判決を延期）、パレスチナ人の抗議活動が激しくなり、イスラエル当局の取り締まりも強化（上の写真）され、緊張が高まっていた。

緊張と騒乱は旧市街にあるイスラム教の聖地アルアクサ・モスク周辺に拡大した。

5.どうして東エルサレムの問題が離れたガザ空爆につながるのか

AFP=時事

パレスチナは、一枚岩とは言えない。

政治面では様々な政党があり、なかでも2大政党が有力だ。

政治に宗教を持ち込まない「世俗主義」で、もともとパレスチナ政治勢力の主流派だった組織ファタハと、イスラム主義のハマスだ。

ファタハはかつて故・アラファト氏が主導した、土地と和平を交換することを基本理念とする1993年の和平合意、いわゆる「オスロ合意」を尊重する立場を維持してきた。

このオスロ合意に基づいてパレスチナ自治政府がつくられ、アッバス氏は議長（＝事実上の大統領）となった。

しかし、長年にわたる腐敗の蓄積や、和平への展望の不透明さなどから、ファタハは有権者の支持を落としている。

一方でハマスは、イスラム教スンニ派の教えに基づいて政治や社会を改善していくべきという「イスラム主義」を採る。だから、パレスチナ人の少数派キリスト教徒はハマスを警戒している。

ハマスはファタハを「イスラエルに妥協した」と批判。政治部門を持つ政党であると同時に民兵組織の軍事部門（写真）も保有し、武力に訴えてイスラエルと対抗する路線だ。合わせて貧しい人々への食料配布なども行い、支持を集めてきた。

2006年に行われたパレスチナ総選挙では、ハマスが議会の過半数を獲得した。両者の反目は軍事衝突に発展し、ハマスがガザ地区からファタハを追放した。

こうしてパレスチナは、自治政府（ファタハ）の西岸と、ハマスのガザに分裂した状態が続く。

ガザ地区を実効支配するハマスはイランなどの支援を受け、イスラエルに対抗する手段としてロケット弾を開発・製造し、ガザ地区内の地下トンネルなどに蓄積している。

4月下旬からエルサレム周辺で高まった緊張と混乱のさなか、ハマスはイスラエル当局のアルアクサ・モスクへの侵入は「超えてはならない一線」と警告。止めない場合、ロケット弾を発射するとの声明を出した。

そしてイスラエルが東エルサレムなどを占領した記念日に当たる5月10日、実際にガザ地区からロケット弾を発射した。

イスラエル軍はすぐにガザ地区のハマスの拠点などを空爆して報復。ハマス側はさらに1000発近いロケット弾をテルアビブやイスラエル南部などに発射。イスラエルも空爆を強化し、双方の暴力がエスカレートした。

6.なぜ激化したのか

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ハマスは今回、1000発を超えるロケット弾をイスラエルに向けて発射した。

これに対し、イスラエル軍は防空システム「アイアンドーム」による迎撃やハマス拠点への空爆などで対抗している。

2008年、2014年には大規模な空爆や地上軍の侵攻などに発展してきた。

今回も、米AP通信やアルジャジーラの支局があるビルを含むガザ各地の空爆を続け、地上軍の侵攻もあり得る状況だ。

今回の衝突が激化した理由は複数、考えられる。

まず、長年、中東和平を仲介してきたアメリカはトランプ大統領（写真左）の時代、エルサレムをイスラエルの首都と認めて大使館を移転。さらに入植活動も追認する構えを見せたことで、「仲介役」としての信用を失った。

バイデン政権はトランプ政権に比べればイスラエルと距離を置き、双方に沈静化を呼びかけているが、実効力のある策は持っていない模様だ。

そこに、イスラエル・パレスチナ双方の内政状況が、この衝突を煽る役割を果たしている。

7.内政で追い詰められていたネタニヤフ首相

AFP=時事

イスラエルのネタニヤフ首相（写真）は、世界最速レベルの新型コロナワクチン接種を行い、各国の注目を集めてきた。

それは、ここ2年で4度目となる2021年3月の総選挙に向けた、有権者へのアピール策という一面を含んでいた。

しかし総選挙でネタニヤフ氏は自派の議席を減らす結果に終わり、新たな組閣に向けた交渉が難航。このままでは組閣を断念して対立勢力に主導権を渡す可能性が出るまで追い詰められていた。

そこに起きた衝突。

もともと対パレスチナ強硬派として売ってきたネタニヤフ氏は、パレスチナ側、特にハマスに激しい反撃を見せることで失った支持を取り戻し、組閣交渉を再び有利な状況に持ち込む狙いがあると考えるのが自然だろう。

イスラエルに限らず、為政者が「内憂」を「外敵」を求めることで乗り切ろうとするのは、政治の残念な現実の一つだ。

ネタニヤフ氏は5月15日のTV演説で攻撃を続ける方針を示しており、矛を収める姿勢は見せていない。

8.パレスチナは総選挙延期に

AFP=時事

パレスチナ自治政府は2021年1月、15年ぶりの総選挙を5月22日に行う方針を示していた。

しかし、アッバス議長（写真）は徐々に混乱が悪化していた4月30日、選挙の延期を表明。「東エルサレムでイスラエル当局がパレスチナ人の投票を認めないため」と説明した。

しかし、実際には15年前の選挙でファタハを破ったハマスが今回も圧勝することを恐れたのではないかという観測が広がり、パレスチナの青年層を中心に、投票機会を奪った自治政府とファタハに抗議する動きが広まっていた。

同時にファタハへの批判を強めたのが、ハマスだった。

イスラエルへの強硬姿勢を改めて示すことで、10年余のハマス支配で反発が広まっていたガザ地区での支持を繋ぎ止め直し、西岸でも次期選挙への支持を取り付けることができると計算して、おかしくない。

こんな政治状況の中で5月10日、エルサレム方面に向けてロケット弾が飛び、双方の暴力の応酬はあっという間に深刻化した。

そしてハマスへの不満や、ファタハの選挙延期への批判の声は、イスラエル批判に置き換わった。

つまりネタニヤフ氏だけでなくファタハ、ハマス双方にも、「外敵の脅威」から利益を受ける部分がある、ということだ。

9.もう一つの要素はイラン

AFP=時事

前述の通り、ハマスを支援してきたのは、イスラエルと長年にわたり対立するイランだ。

イスラエルはイランの核開発を、イラン側が主張する「原子力発電のため」ではなく核兵器生産のためとみなし、核技術者の暗殺や核施設へのサイバー攻撃などの妨害活動を繰り返してきた。

そしてトランプ政権下で、イランと対立するアラブ首長国連邦などのペルシャ湾岸アラブ諸国が、イスラエルとの外交関係樹立などに向けて動き始めた。

イランと湾岸諸国のほとんどは、ペルシャとアラブの伝統的な対立もあり、不仲なのだ。

イランには、ハマス経由で間接的にイスラエルに報復するとともに、湾岸諸国に「こんな状況でもイスラエルを認めるのか」と牽制する狙いもあるとみられる。

10.現状、沈静化への動きは見えない

AFP=時事“

すでにガザと西岸を含めたパレスチナ側の死者は200人を超え、イスラエル側の死者も10人となった。

イスラエル、パレスチナ双方の政治状況とアメリカをはじめとする国際情勢を考えると、残念ながら事態の早期の沈静化は考えにくい状態だ。

各勢力の政治的な思惑を尻目に、特にガザで市民の犠牲が増えていくことが、強く懸念される。