「核兵器製造企業に日本から7社が投融資2兆円」ICANが発表

    核兵器禁止条約の実現を各国に働きかけ、2017年のノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が、核兵器に関わる外国企業に対し、日本の7社が総額1.9兆円の投融資を行っている、と発表した。

    調査を行ったのはICANと、ICAN傘下のオランダのNGO「PAX」。まず、核兵器が搭載できるミサイルの製造や核兵器施設の管理などを行う米国、英国、フランス、オランダ、インドの企業20社を「核軍備の維持・近代化に少なからず加担した」として「核兵器製造企業」に選定した。

    そのうえで、この20社に対する2014年1月〜2017年10月の投融資を調べた。ここに含まれないロシアや中国、北朝鮮などの核武装国では核軍備の維持や近代化のほとんどは政府機関が直接担っているという。

    20社のうち日本でも知名度の高い企業としては、航空機製造会社として知られるエアバス(オランダ)とボーイング(米国)がある。ICANによると、エアバスは核兵器を搭載できるフランス海軍の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「M51.2」などを製造している。ボーイングは大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ミニットマンⅢ」の維持業務などを請け負い、ミサイル「トライデントⅡ」の主要部品も受注しているという。

    3月7日に会見したICAN国際運営委員の川崎哲さんは「核兵器禁止条約が昨年7月に成立し、核兵器の開発や製造を含む全ての活動と、それへの援助が禁止された。融資も国際的に禁止されたとみるのが当然」と、調査の理由を語った。

    世界全体では、2014年1月から2017年10月の間に、24カ国計329の銀行、保険会社、年金基金、資産運用会社などが核兵器製造会社に提供した総額は、5250億ドル(約55兆円)にのぼるという。

    うち、日本からの投融資額は7社計185億ドル(約1.9兆円)で、その内訳をまとめたものが、以下の表だ。

    今回の調査結果を巡り企業側からは「エアバスやボーイングが『核兵器製造企業』に色分けされてしまえば、航空機産業への投資そのものが不可能になり、非現実的だ」「例えば日本の中小企業が開発したネジが核兵器の部品に使われたら、そういう企業への融資も禁止というのか」といった反発も出ている。

    一方でICANは「核兵器製造企業と認定した20社は、もちろん核兵器以外の事業も行っている。だが、金融機関などが核という非人道的な兵器に関わっている企業には一切、投融資をしないという明確な方針を立てることで、(認定20社が)核兵器関連の事業を止め、それ以外の事業を伸ばすことを促したい」(川崎さん)としている。

    ICANが前例として想定するのは、クラスター爆弾関連企業への融資を巡る対応だ。

    クラスター爆弾とは、一つの親爆弾から無数の小さな子爆弾をばらまく仕組みのもの。いつ爆発するか分からない不発弾があちこちにばらまかれ、紛争が終わった後も長期間にわたり市民生活を脅かすという非人道性から、禁止に向けた国際的な機運が高まり、2010年に禁止条約が発効した。

    日本でも条約発効と関連国内法の施行を受けて、全国銀行協会がクラスター弾の製造を資金使途とする与信は、国の内外を問わず行わないことを申し合わせた。

    だが、PAXが2017年5月、三菱UFJフィナンシャルグループなど日本の金融機関4社がクラスター爆弾の製造企業に投融資をしたとの調査結果を発表。同社などは方針をさらに厳格化し、資金の用途にかかわらず、クラスター弾を製造する企業に対する与信を禁止する意向を相次いで打ち出した。

    日本は世界で唯一、戦争で核兵器が使われ多くの市民が犠牲となった国だが、政府は「核抑止力が失われる」などとして核兵器禁止条約に反対している。

    ICANのリストに掲載された国内各社のコメントは、次の通り(あいうえお順)。

    ・オリックス

    「弊社から各社に対する直接の投資等ではなく、傘下の資産運用会社が、お客様の資産をお預かりして米国市場で運用する中で(ICANの発表で名の上がった)企業の株式を保有していた。その額と思われます」

    ・野村ホールディングス

    「個別取引についてはコメントを差し控えます。常に社会的責任を自覚し適法かつ適切な取引を行っています」

    ・みずほフィナンシャルグループ

    「公序良俗の観点や社会的正義、人道上の観点などから、殺戮・破壊を目的とする兵器の製造を資金使途とする与信を回避する手続きを明確化し、手続き化しております」

    ・三井住友フィナンシャルグループ

    「個別取引に関して回答は差し控えるが、弊社では、与信業務の普遍的かつ基本的な理念・指針・規範を示すクレジットポリシーを定めている。当該クレジットポリシーにおいて、核兵器等の殺戮兵器の製造に用いられる等社会的規範から逸脱する与信については禁止している」

    ・三井住友トラスト・ホールディングス

    「個別取引の詳細はお答えできないが、ご質問にある取引は現在、ありません。弊社では人権方針を定めており、海外を含む投融資先や調達・委託先(サプライチェーン)の企業活動が人権に与える負の影響について情報収集し、法規範等に反する場合には、必要に応じた対処を講じております」

    ・三菱UFJフィナンシャルグループ

    「個別案件に関してはコメントを差し控えさせていただく。融資に関しては当社クレジットポリシーに則り、公序良俗に反しないか等の検討ポイントから、個別取引毎に判断を行っている」


    千葉銀行は「今は(当該企業への)融資を行っていない」とし、ICAN側と認識に違いがあるとしている。

    日本に関する報告はこちら(日本語)。世界各国の状況に関する報告はこちら(英語)。

    追記

    三菱UFJフィナンシャルグループのコメントを追記しました。

    追記

    三井住友トラスト・ホールディングスのコメントを追記しました。