2020年2月25日

    「心が折れました」9割が勝訴してきた原爆症の裁判、最高裁で敗訴に

    広島・長崎で被爆した人々が、自らの病気は原爆によるものだと認定を求める訴訟で、最高裁が被爆者の訴えを退けた。

    広島や長崎で被爆した3人が、白内障やなど自らの病気は原爆によって引き起こされた「原爆症」だと認定することを国に求める訴訟の判決が2月25日、最高裁第三小法廷であった。

    宇賀克也裁判長は、3人をいずれも原爆症と認定せず、被爆者側の請求を退ける判決を言い渡した。

    これまで原爆被害からの救済を求めた裁判で9割近い「圧勝」を続けてきた被爆者らに、最高裁が冷水を浴びせたかたちだ。

    Yoshihiro Kando/BuzzFeed

    最高裁前で判決を批判する垂れ幕を掲げる原告団の人々

    9割が勝訴してきた被爆者ら

    広島・長崎の被爆者は、放射線の影響でがんや白内障などの病気になりやすいため、被爆者援護法という法律をもとに、国は医療支援などを行っている。

    その中で争点となってきたのが、病気が原爆によるものという厚生労働省の認定(=原爆症認定)を受ければ、月額約14万円の医療特別手当を受けることができるという制度だ。

    というのも、その認定率は極端に低く、1990年代には被爆者手帳を持っている人の1%に満たないという状況だった。

    それを変えたのが、司法だった。

    被爆者らは2003年から集団訴訟をはじめ、全国17カ所の裁判所に306人が裁判を起こした。

    その91%が勝訴して自らの病気を原爆症として認定されるという、行政訴訟では極めて異例な連戦連勝となった。これを受けて2007年、第一次政権の座にあった安倍首相が認定基準の見直しを指示した。

    しかし、基準が見直されても国側は認定に後ろ向きで、被爆者らが改めて認定を求めて第二次の提訴を行った。第二次訴訟の原告120人のうち、これまでに59人の勝訴が確定。さらに25人は厚労省が自発的に原爆症と認定して訴訟は取り下げとなっている。

    この両方を合わせると、これまでに訴訟が終わった98人のうち、85.7%が認定を受ける、第一次訴訟に続く「圧勝」となった。

    今回の判決は

    Yoshihiro Kando/BuzzFeed

    判決後、支援者らに頭を下げる原告の内藤淑子さん

    今回、判決を受けた3人のうち2人も、それぞれ広島高裁と名古屋高裁で勝訴していた。一方で、残る1人はほぼ同じ内容の訴訟なのに、福岡高裁で敗訴していた。

    最高裁は、高裁によって分かれた判断を統一するため、2020年1月に弁論を開いていた。高裁段階までの状況をまとめると、以下のようになる。


    広島で被爆した放射線白内障の内藤淑子さん(75)=2018年、広島高裁で勝訴

    長崎で被爆した慢性甲状腺炎の女性=2018年、名古屋高裁で勝訴

    長崎で被爆した放射線白内障の女性=2019年、福岡高裁で敗訴


    そして最高裁はこの日、被爆者援護法にある「原爆に起因し、現に医療を必要とする状態の被爆者に必要な医療の給付を行う」という条文を狭く解釈し、3人いずれも「今すぐに治療が必要な状態ではない」として、原爆症と認めないという判決を出した。

    原告「国に寄り添ってほしかった」

    Yoshihiro Kando/BuzzFeed

    判決後の会見で語る原告の内藤淑子さん。右は日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の木戸季市事務局長

    今回の原告の1人の内藤淑子さんは広島の爆心地から2.4キロの地点で被爆した。当時生後11カ月。母に背負われ、広島市西部の駅で電車を待っていた時に、原爆が炸裂した。被爆者の中では最も若い世代だが、それでも75歳になる。

    47歳の時に白内障を発症した。2019年11月には右目を手術した。左目も白内障の症状を抱えている。白内障は、原爆の放射線によって引き起こされる代表的な病気の一つだ。しかし、厚労省は内藤さんの原爆症認定を却下した。

    内藤さんは認定を求めて裁判を起こし、一審の広島地裁、二審の東京高裁でいずれも認定を認める判決を勝ち取ってきた。

    「問題はお金ではない」

    内藤さんが国を相手取り裁判を起こした理由は、お金ではない。

    「私は働いてきたので年金があるし、主人も元気です。生活に困っているわけではありません。しかし、国にもう少し、被爆者に寄り添ってくれても良いんじゃないかと思ったのです」「心が凄く折れましたが、まだまだ国には言いたいことがある。まだ頑張りたいと思います」

    被爆者団体・日本被団協の木戸季市事務局長は「全く予想していなかった判決だった」と語る。

    「被爆者は超高齢化し、5年後は10万人を切り、10年後は5万人を切るだろう。被爆者がいなくなる時が来る。私たちはあの日、見たことを繰り返させないために、核兵器廃絶と原爆被害への補償を求める活動を続けてきた。初心に返り、被爆者は原点に返ってこれからも目標の実現に余生を捧げたい」

    原告弁護団と被団協は、これから厚労省側の認定姿勢がさらに厳しくなることを警戒している。認定制度そのものの抜本的な見直しを政治(立法)の場などを通じて求めていく構えだ。





    Contact Yoshihiro Kando at yoshihiro.kando@buzzfeed.com.

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