ゴーン被告、レバノンに出国。身柄の引き渡しと裁判は?過去に拒否例も

    保釈されていた日産元会長のカルロス・ゴーン被告が極秘裏に日本を出国していた。日本に戻る可能性は。そして刑事裁判はどうなる。

    特別背任などの罪で起訴され、保釈中だった日産元会長カルロス・ゴーン被告(65)が極秘裏に日本を出国し、国籍を持つ中東レバノンに逃れていたことが12月31日、明らかになった。ゴーン被告はアメリカの代理人経由で声明を出した。

    時事通信

    公判前整理手続きのため、東京地裁に入る日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(2019年5月23日撮影)

    声明の日本語訳全文

    私は今、レバノンにいます。もうこれ以上、日本の不公正な司法制度に捕らわれることはなくなります。日本の司法制度は有罪を前提とし、差別が横行し、基本的人権が否定されており、国際法や条約で日本が守らなければならない法的義務を著しく無視しています。

    私は正義から逃れたのではありません。不正義と政治的弾圧から逃れたのです。私はようやく今、メディアと自由にコミュニケーションできるようになりました。来週からお話しできることを楽しみにしております。

    ゴーン元会長はこれまでもTwitterアカウントを開設し、ビデオ声明を出すなど、日本の司法制度を批判し、自身の潔白について語る機会を求めてきた。今後、フランスや日本などのメディアの取材に、レバノンで応じる可能性がある。

    渡航禁止の保釈条件に違反

    ゴーン元会長は2018年11月、金融商品取引法違反の容疑で東京地検特捜部に逮捕された。その後、同法違反や特別背任の罪で起訴された。2019年3月に最初の保釈を受けた時、作業着姿に変装していたことが話題を呼んだ。

    時事通信

    最初の保釈時に変装して姿を現したゴーン元会長

    4月4日に特別背任容疑で改めて逮捕され、同月25日に二度目の保釈を受けていた。

    保釈とは「判決を受けるまで、被告人は無罪推定」という原則に基づくものだ。証拠隠滅や逃亡のおそれがないと裁判所が判断した場合に認められる。

    ゴーン元会長が納めた保釈金は計15億円。それに加え、国外逃亡や証拠隠滅を防ぐため、いくつもの条件が付いていた。

    • 海外への渡航は禁止で、パスポートは弁護士が保管する
    • 妻との接触には裁判所の許可が必要
    • 事件関係者との接触は禁止
    • 住居の玄関に監視カメラを設置し、録画の内容は定期的に裁判所に提出する
    • 携帯電話はインターネットに接続できない1台のみ
    • パソコンは平日日中で弁護士の事務所にあるものしか使えない
    • 携帯とネットの通信記録を裁判所に提出する

    15億円は没収に

    条件に反して無許可で出国したことにより、保釈金15億円は没収される。また、保釈そのものも取り消しになるため、ゴーン元会長は日本に戻れば、すぐに勾留されることになる。

    ゴーン元会長弁護団の弘中惇一郎弁護士は31日、報道陣の取材に「ゴーン元会長とは25日の公判前整理手続きで会ったが、報道された以上のことは知らない」と語った。

    パスポートについては「弁護団が預かっている。弁護団が本人にパスポートを渡すようなことはありえない」と説明した。

    国籍を持つ3ヵ国のいずれかの在京大使館がゴーン元会長に協力して新たなパスポートを発行し、それを使い出国した可能性も否定できない。

    身柄の再勾留は困難か

    ゴーン元会長が再び日本に戻る見通しは立っていない。元会長は声明で「日本の司法制度にはもう捕らわれることはない」と、日本には戻らない意向を示唆している。

    ゴーン元会長が逃れたレバノンは、日本と「犯罪人引き渡し条約」を結んでおらず、日本政府が要請してもレバノン政府が拒否すれば、ゴーン元会長が日本に引き渡されることはない。

    レバノン移民の子としてブラジルに生まれたゴーン元会長は、ブラジルとレバノンの国籍を持っている。さらに、レバノンの高校を出てフランスの大学に進学し、長くフランスに暮らしたため、フランス国籍も保有している。

    日本が引き渡し条約を結んでいるのはアメリカと韓国の2ヵ国だけのため、それ以外の国にゴーン元会長が移動しても、日本が強制的に身柄を勾留することはできない。

    レバノンでゴーン元会長は「世界的なビジネスの英雄」として国民的な人気があり、一部でレバノン大統領選挙への擁立を求める声も上がったほどだ。

    首都ベイルートでは2018年の逮捕後、ゴーン元会長を支持する看板が現れた。こうした状況から、レバノンが引き渡しに応じない可能性は否定できない。

    AFP=時事

    ベイルートに飾られた、ゴーン元会長を支持する大きな看板。2018年12月撮影

    レバノンには、日本側の身柄引き渡し要請に応じなかった先例もある。

    イスラエルでテルアビブ空港乱射事件(1972年)を起こした元日本赤軍の岡本公三・元受刑者だ。イスラエルで終身刑判決を受けて服役中の1985年、「捕虜交換」のかたちでレバノンにわたり、今もレバノンで暮らす。

    AFP=時事

    ベイルートのレバノン首相宅前で、警官隊に包囲されながら岡本元受刑者の肖像画を掲げ、日本への送還に反対するデモ隊(2000年撮影)

    レバノンで岡本元受刑者は「イスラエルを攻撃した英雄」として高い知名度があり、送還が取り沙汰された時は反対デモが起きた。レバノン政府は、日本からの岡本元受刑者の身柄引き渡し要請に今も応じていない。

    裁判はどうなる?

    ゴーン元会長を巡る刑事裁判は、公判前に争点などを整理する手続きが進行中で、2020年4月ごろに初公判が開かれる予定だった。

    日本の刑事訴訟法では、軽微な犯罪などを除いて被告人が公判に出廷する義務があり、出廷しなければ公判を開くことができない。

    つまり、ゴーン元会長が帰国しない限り、元会長を巡る国内の刑事裁判の審理は進まない可能性が高い。