国会で安倍首相が謝ったわけ 施政方針演説から占う2019年

    消費税は10%に。幼児教育は無償化へ。北方領土や北朝鮮問題は? 首相の施政方針演説から見える2019年のかたち。

    安倍晋三首相が1月28日に開会した国会で、施政方針演説を行った。今年1年間の政策の方向性を示す演説だ。統計不正問題への謝罪、消費増税など、その内容から見えてくる2019年は。6つのポイントにまとめた。


    【1.少子化対策】

    「子どもたちの教育に掛かる負担が、出生率を1.8に押し上げることを妨げてきた」として、10月から3−5歳児の幼児教育を無償化することを表明した。

    首相はあわせて「待機児童ゼロの目標は必ず実現する」と語ったが、具体的な目標時期は示さなかった。学童保育の充実は「自治体の裁量拡大などで進める」という。

    【2.消費税】

    「次の世代に負担を先送りせず少子高齢化対策を行うために、安定的財源がどうしても必要だ。引き上げに国民の理解と協力をお願いしたい」と語り、2019年10月から、現在は8%の消費税を10%に引き上げることを改めて表明した。

    「8%への引き上げ時の反省のうえに、経済運営に万全を期する」「来年度予算では消費税を還元する規模の対策を行う」とした。

    軽減税率の導入や、例えば額面2万5千円の商品券を2万円で販売し、差額の上乗せ分を公費で負担する「プレミアム商品券」の発行やポイント還元などで負担軽減を図るという。

    ただ、軽減税率を巡っては、「ファーストフード店でテイクアウトすると税率は8%だが、店内で食べると10%になる」と国税庁が例示するなど制度は複雑で、10月に制度が始まると混乱が起きる可能性がある。

    また、プレミアム商品券は過去にも自治体が発行しているが、「バラマキ」という批判もつきまとってきた。

    ポイント還元とは、クレジットカードや電子マネー、スマホによる電子決済などで買い物をした時に5%のポイントを還元し、公費で負担するというもの。

    首相はその背景に「外国人観光客4000万人時代を見据え、中小事業者へのキャッシュレス決済の普及する」狙いがあると説明した。

    この動きに、日本チェーンストア協会など小売り3団体が連名で2018年12月、「同じ商品・サービスに対して異なる還元率が出現したり、一般の消費者にとっては極めて分かりづらい制度となる」などと懸念する要望書を発表している。

    消費税は7月に任期満了を迎える参議院選の争点になる可能性もあり、引き上げや緩和対策を巡りもう一波乱がある可能性は否定できない。

    【3.統計不正問題】

    「長年にわたり不適切な調査が行われてきたことはセーフティーネットへの信頼を失わせることであり、国民のみなさまにお詫び申し上げます」と、厚労省で2004年から勤労統計調査の不正が行われてきたことを陳謝した。

    この統計に基づいてのべ約2000万人の雇用保険などが過小給付されていたことについては「できるだけ簡便な手続きで、速やかにお支払いする」とした。

    【4.働き方・社会】

    女性活躍推進法を改正し、中小企業にも枠を広げる。パワハラ、セクハラの根絶に向け、すべての事業者にパワハラ防止を義務づけ、セクハラの相談を理由とした不利益な取り扱いを禁止する。

    罰則付きの時間外労働規制を大企業で4月から導入する。また、段階的に自動運転を解禁すると表明した。

    【5.外交・防衛】

    沖縄の基地問題

    沖縄・辺野古地区への米軍基地移設を巡っては、沖縄県の玉城デニー知事が強く反対する姿勢を維持しており、2月には県民投票も予定されている。

    これに対し、安倍首相は演説で「沖縄の基地負担の軽減に取り組む」「辺野古移設を進め、普天間基地の返還を実現する」と語り、辺野古への移設を進めるという政府の姿勢を今年も維持する考えを示した。

    北方領土問題

    北方領土問題を巡っては、「領土問題を解決して平和条約を締結するという課題を、次の世代に先送りせず必ず終止符を打つ意思を、プーチン大統領と共有した」と語り、「1956年の日ソ共同宣言を基礎として交渉を加速する」と続けた。

    日ソ共同宣言では、以下のように規定されている。

    ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする

    これを基礎とすることで、国後・択捉両島を含む「4島返還」ではなく、平和条約の締結による歯舞・色丹の2島返還を優先させる考えを示したといえるだろう。

    一方、プーチン大統領は1月22日の日ロ首脳会談後、「私たちは平和条約の締結を目指します」とは語ったものの2島返還については触れておらず、厳しい交渉が続くことになる。

    北朝鮮の核と拉致問題

    「北朝鮮との不幸な過去を清算し、国交正常化を目指す。次は私自身が金正恩委員長と直接向き合いたい」と述べ、トランプ米大統領、文在寅・韓国大統領に続いて、金正恩氏と会談する考えを示した。

    なお、トランプ大統領は金委員長に、2月にベトナムで会談することを提案している。

    【6.憲法】

    自衛隊の扱いなどを巡り憲法改正を持論としてきた首相は「憲法は国の理想を語るもの。次の時代への道しるべであります」「国会の憲法審査会において、各党の議論が深められることを期待する」と語った。

    「各党が憲法の具体的な案を国会に持ち寄り、憲法審査会において議論を深め、前に進めていくことを期待している」と語った2018年の演説から大きな変化はなく、4月の統一地方選は7月の参院選を前に、憲法改正に消極的な公明党への配慮を示した可能性がある。

    一方、自民党憲法改正推進本部の下村博文本部長は「統一地方選で有権者に憲法改正を訴えることがプラスになるような流れを作っていきたい」と述べており、これから次第に議論に向けた動きが出てきそうだ。