崖っぷちのトランプ氏に逆転の「秘策」はあるのか

    米大統領選でトランプ氏が敗北を拒み、不正があったという主張を続けている。主要メディアはトランプ氏を強く批判。社会の分裂が深まっている。では、トランプ氏にどんな逆転策があるのか。

    11月3日に投票されたアメリカ大統領選から3週間余。アメリカの主要メディアが民主党のジョー・バイデン氏の当選確実を伝え、日本を含む各国の首脳も、バイデン氏を次期大統領と認めて電話会談をなど始めている。一方で現職のドナルド・トランプ氏(共和)は敗北を受け入れず、「選挙に不正があった」と主張し続けている。

    批判をものともせず闘い続けるトランプ氏に、逆転の秘策はあるのか。

    AFP=時事

    トランプ氏に残った選択肢は

    アメリカ大統領選は、全国民による直接投票ではない。「選挙人」による間接投票だ。11月3日の投票とは「各州で有権者が自州の投票人を選ぶ選挙」ということができる。

    選挙人は全国に538人。各州には3人から55人が割り当てられている。比例配分の2州を除き、各州の選挙人は全員が、11月3日の投票による勝者に投票する。

    一般有権者の投票の次のステップとして、選挙人による投票が行われる。バイデン氏はすでに、過半数(270)を超える300人以上の選挙人の確保が、確実となっている。

    今回の大統領選の日程は、次の通りだ。

    【2020年】

    11月3日 各州での一般有権者の投票

    12月8日 各州選挙結果の確定期限

    12月14日 選挙結果に基づいた選挙人による投票

    【2021年】

    1月6日 連邦議会で選挙人投票の結果発表=最終的な選挙結果の確定

    1月20日 次期大統領の就任宣誓式

    選挙結果が確定しなければ

    トランプ陣営は各地で次々と訴訟を起こしているが、主張する選挙不正の具体的な証拠を法廷でほとんど提示できていない。産経新聞によると、すでに30件の訴訟が却下されたという。

    「逆転」の可能性は極めて低いが、ゼロではない。

    どこかの訴訟で、司法がトランプ氏に有利な裁定を下すことは、可能性としては低いながらも残る。

    また、各州の開票結果は、12月8日までに確定しなければならない、と法律で定められている。

    トランプ陣営には、法廷闘争を続けたり手作業による再集計を求めることなどで、12月8日までの結果確定を阻むという選択肢がある。

    各州が期限までに選挙結果を確定できない場合、一般有権者の投票にかかわらず、州議会が独自に選挙人団を選ぶことが、法制度上は可能になるのだ。

    さらに選挙人投票の結果、もし過半数を獲得する候補者がいなければ、連邦議会の下院から各州の50人が投票し、26票を得た候補が勝利する規定となっている。

    しかし、こうした選択肢のハードルは極めて高く、トランプ陣営の戦略は今のところ、不発に終わりそうだ。

    例えば、バイデン氏が勝った南部ジョージア州では、不正を主張するトランプ陣営の申し立てで、選管が手作業による全票の再集計を行った。その結果、11月19日にバイデン氏の勝利が改めて確認された。

    トランプ陣営は「再々集計」を申し立て、12月2日を期限とする2度目の再集計が行われている。しかし、結果が覆る可能性はほとんどないとみられている。

    Big voter fraud information coming out concerning Georgia. Stay tuned!

    Twitter: @realDonaldTrump

    「ジョージア州で大規模不正に関する情報がある。続報を待て」とするトランプ氏の11月21日のツイート

    激戦州のひとつ中西部ミシガン州を巡っては、トランプ氏が11月20日、州議会の共和党幹部とホワイトハウスで会談。選管の開票結果を認めず、共和党が多数を占める州議会が選挙人を選出するよう要請した。

    しかし、ミシガン州の共和党幹部らは「選挙結果を覆すような不正の証拠は出ていない」「通常の選挙プロセスに従う」と、拒否したという。

    ミシガン州選管は23日、バイデン氏の勝利とする開票結果を確定させた。東部ペンシルバニア州と西部ネバダ州でも24日、バイデン氏の勝利が確定した。

    AFP=時事

    11月23日、ミシガン州政府庁舎前で開票結果確定を批判するトランプ氏支持者ら

    なお、ペンシルバニア州では21日、開票結果の確定差し止めを狙ったトランプ陣営の訴えを、連邦地裁が棄却している。

    共和党員でもあるブリン判事は、トランプ陣営の主張を「フランケンシュタインの怪物のような、場当たり的なつぎはぎに過ぎない」と強く批判した。

    トランプ陣営は連邦高裁に上訴。さらに最高裁に上告する構えも見せているが、トランプ氏は29日、FOXニュースとのインタビューで「最高裁に持ち込むのは難しいだろう」と弱気な姿勢を見せた。

    2000年選挙で身を引いたゴア氏

    第二次大戦後、選挙結果の確定に最も時間が掛かったのは、2000年の大統領選挙だ。

    共和党のブッシュ氏と民主党のゴア氏が争ったこの時の選挙では、激戦地だったフロリダ州で両者の差が500票余りという接戦となった。さらに自動集計機に問題があったのではないかという疑惑が持ち上がり、ゴア陣営は手集計による開票のやり直しを求めた。

    ブッシュ陣営はこれに対抗する法廷戦術を採り、最終的に連邦最高裁が12月12日、ブッシュ氏に有利となる裁定を下した。それは、この選挙結果を確定する法定期限の日だった。

    ゴア氏は、こうスピーチし、敗北を認めた。

    「最高裁の決定に強く反対するが、受け入れた。国民の団結と民主主義の強化のため、私は敗北を認める。私は次期大統領がアメリカ人をまとめられるよう、あらゆる協力をすることを誓う。この困難だった道のりは、新たな相互理解のために神が与えた試練だ」

    AFP=時事

    敗北を認めるスピーチをするゴア副大統領

    ゴア氏は法制度上、さらに闘うこともできた。

    しかし、ここで矛を収めたのは、闘い続けることがアメリカの憲法秩序と社会全体に深刻な分断をもたらすことを考慮し、クリントン政権での副大統領でもあった「公人」としての自覚のもとに行動したからだといえるだろう。

    トランプ氏に残る選択肢はふたつだ。

    アメリカで深まる分断をものともせず、あくまで再選を目指して12月8日以降もあらゆる手段で闘い続けるか。それとも、どこかの段階で身を引くか。

    闘い続けることも法理論上は可能だが、アメリカ憲政史上まれに見る政治的、社会的な混乱をもたらすことは確実だ。すでに、共和党支持層の7割が選挙に不正があったと信じているとの世論調査も出ており、社会の分断がさらに深刻化することになる。

    「不正と闘うが身は引く」が着地点か

    トランプ氏は11月23日、連邦政府調達局(GSA)のエミリー・マーフィー長官に対し、バイデン氏に対する政権移行手続きを始めることを認める、とツイートしたが、その後に「不正には負けない」ともツイートした。

    トランプ氏は11月26日、「もし選挙人による投票で敗れればホワイトハウスを去る」と述べた。一方で「選挙は不正だった」という主張を繰り返した。29日にも、不正があったという主張は曲げなかった。

    こうした動きから、トランプ氏の胸中もかいま見えてくる。

    逆転の可能性がほとんどない以上、選挙人による投票結果が出るといった何らかの時点で、「威厳ある撤退」を演出し、ホワイトハウスからは去る。

    ただし「選挙で不正があった」「不正がなければ自分は負けていなかった」という主張は今後も続ける。

    そうなれば、憲法秩序のこれ以上の混乱は避けられる。一方、今後も続くであろう分断の片方の極の中心に自らが座り続けることで影響力を維持でき、2024年大統領選再出馬の芽を残すこともできる。

    場合によっては、2021年1月6日に選挙人による投票結果が発表された際や、1月20日のバイデン氏大統領就任式の日に、次期大統領選への出馬を表明して注目を集めようとすることもありうる。

    こうした方向性が、トランプ氏が探る着地点かもしれない。

    そうなれば、これからもアメリカ社会の分断が続くことが想定されるなか、トランプ氏は分断を広げる役回りを担い続けることになるだろう。

    アメリカ大統領選が終わったと国民が実感するのは、敗れた方が敗北を受け入れ、改めて国民の融和と団結を訴える敗北宣言のスピーチを行った時だ。

    1896年の大統領選から続く伝統は、今回初めて、崩れ去ってしまうのだろうか。

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