参議院、来夏の選挙から議員が6人増に 問題点はどこ?

    自民党が参議院の選挙制度を変えた。産経や読売も含め、メディアは批判の集中砲火だ。

    7月18日の衆院本会議で、自民党などが提出した、参院議員の定数を6人増やす改正公職選挙法が、与党の賛成多数で成立した。2019年夏に予定される参議院選挙から議員の定数を増やしたうえ、ただでさえ複雑な参院の選挙に「特定枠」という新しい制度を導入する。

    この改正案を巡り、新聞各紙は批判を続けてきた。政権に近い立場を取る産経新聞と読売新聞も社説で「頭を冷やせ」「改革の名に値しない」などとしてきた。

    どこに問題があるのか。

    今の選挙制度は

    参院はいま、定数242人。任期は6年で、うち半分ずつを3年ごとの選挙で改選する。

    参院選は
    1)原則として都道府県ごとに立候補した人を有権者が選ぶ選挙区

    2)各政党が全国レベルで候補者名簿を発表し、有権者は当選させたい候補者を有権者が選んで名前を書き、集めた票の多い候補者から当選する「非拘束名簿式」比例区

    の二本立てで、有権者は選挙区、比例区のそれぞれに投票する仕組みだ。

    史上初の議員6人増 

    18日に成立した自民党案では、定数が6人増の計248人となる。

    まず、埼玉選挙区で2人増やす。都市部と地方部で、議員一人当たりの有権者のバランスが崩れ、都市部では有権者の持つ1票の価値が低くなってしまう、「1票の格差」を是正するためだ。

    残りの4人増は、いずれも比例区だ。比例区ではさらに、政党が順位を決める「特定枠」を導入する。政党が当選してほしい人間を指定できるようになる。

    参議院の定数が増えるのは、沖縄の本土復帰に先立ち沖縄選挙区を新設した1970年の公選法改正を除けば、史上初めてだ。


    メディアからは批判の集中砲火

    自民党は、これを「抜本改革だ」と主張してきた。

    これに対し、新聞各紙は激しく批判してきた。安倍政権に近いスタンスを取る読売新聞も7月13日付社説で「改正案は、弥縫(びほう)策に過ぎず、改革の名に値しない」「特に問題なのは、優先的に当選できる「特定枠」を比例選に導入することである」と、ばっさり切り捨てた。

    「特定枠」で議員を救済

    国会は国民、そして司法から、「1票の格差」の是正を強く求められている。

    有権者や弁護士による選挙無効を訴える裁判が相次ぎ、「違憲状態」との判決が出てきたのだ。

    一方で政府・与党は現行の選挙制度の枠組みを維持したまま、選挙区ごとの定数を変えることで格差を抑えようとしてきた。

    しかし、首都圏への人口集中と地方での人口減などが進んだことで、2016年の参院選からは、鳥取県と島根県、そして徳島県と高知県を一つの選挙区にまとめる「合区」を行うことになった。

    これを受けて最高裁は2017年、2016年参院選については「合憲」と判断した。次回参院選でも合区は続く。

    ならば、議員の数は減ると考えるのが自然なのに、なぜ増やすのか。

    朝日新聞、読売新聞いずれも、その理由を「次の選挙で島根・鳥取、徳島・高知の選挙区に擁立できない現職議員の救済策」と指摘した。

    産経も「頭を冷やせ」

    つまり、合区で立候補する選挙区を失う人を比例区に回して当選を保証する、ということだ。

    読売はさらに、「合区対象県で『地方の声が国政に届きにくくなった』と不満が強いのは理解できるが、選挙区選の懸案を、比例選で解決するのは、党利党略との批判を免れない」と続けた。

    産経新聞は12日付朝刊政治面で「一部の比例代表候補を優遇する特定枠は野党に『党利党略』と批判を浴びたが、実は定数増は野党に利点がある」と報じ、自民党に一定の理解を示した。

    しかし、翌13日の社説では「人口がいや応なく急速に減る時代の流れを踏まえず、国会議員だけはお手盛りの定数増を図ろうという案」と批判。「与党は(中略)頭を冷やしたらどうか。国会閉会後も与野党で協議を続け、秋に想定される臨時国会で、もっとましな内容の改正案を成立させるべきだ」とした。

    毎日新聞も「合区制度の本来の目的を否定する『裏口入学』にほかならない」「複雑怪奇な選挙制度を押しつけられる有権者はたまったものではない」としており、全国紙が揃って批判するなか、選挙制度は塗り替えられた。

    参院議員の任期は2019年7月28日まで。新制度での選挙は、その前後に行われる予定だ。

    アップデート

    読者のご指摘を受け、選挙制度の変化を巡る記述を改めました。