医療の現場では、どれくらいの女性が医師として働いているのか。
先進国を中心とする国際機構、経済協力開発機構(OECD)の2015年のデータをみると、医師に占める女性の割合は、日本は20.4%で、加盟国で最低だった。つまり、日本は先進国で最低ということで、加盟国平均のおよそ半分だった。
なぜ東京医科大は女性の数を3割程度に抑えてきたのか。
読売新聞などによると「女性は出産や子育てで休職や退職をすることが多いから」だった。特に緊急手術などが多い外科では女性医師は敬遠されがちで、「女3人で男1人分」ともささやかれていたという。
OECD諸国で女性の比率が高いのは、エストニア、フィンランド、スロバキアなど北欧、中東欧諸国だ。
フィンランドの医療現場は、どんな労働環境なのか。
日本の内閣府が紹介している。
フィンランドでは、当直医を除くと医師も8時間労働が基本。フィンランド第2の都市であるタンペレ市のタンペレ大学耳鼻咽喉科(30床)で勤務経験のある医師によると,同科の医師数は13名でうち女性が8名,朝8時にミーティング。その後、それぞれ外来や病棟、手術室に移動して仕事をこなし,午後4時には1人の当直医を残して帰宅するというのが1日の大まかな流れだ。
フィンランドでは、人口当たりの医師数が日本に比べて多い。加えて,受診する医療機関を自由に選ぶことができないなど,医療へのアクセスに制限があるため,初診や軽症の患者で大病院が混雑し、医師が疲弊する状況が生じにくい仕組みとなっている。
また,在院日数も日本に比べ極めて短い。日本の医療提供体制と比べると不便に感じるが,患者も一定の不便さを受け入れることで,医師が仕事と家庭を両立できる体制となっている。
15年変わらないままの比率
日本女性医療者連合の種部恭子理事による 「女性医師を『増やさない』というガラスの天井~医師・医学生の女性比率に関する分析」というレポートでは、医師国家試験の合格者に占める女性の割合はここ15年ほど30%前後が続き、大きく変わっていないといい「社会全体の流れを考えると、変わらないのは、むしろ不自然」と指摘している。
医師国家試験は、医学部の学生ほぼ全員が受験し、例年9割前後が合格する。合格率は女性の方が数パーセント高い。つまり、日本の医学部生に占める女性の割合も30%程度で推移し、大きく変わっていないということだ。
フランスは2021年に男女同数に
フランス大使館は8月2日、こんなツイートをして、フランス留学を呼びかけた。
医学部で女性の割合が高いのは、欧州だけではない。
パキスタンは医学部の女性比率が70%
インド紙タイムズ・オブ・インディアによると、インドの医学生の51%が女性だ。また、パキスタンではさらに高く70%。スリランカも60%だという。
南アジアでは子どもが生まれると、男の子はエンジニアに、女の子は医師になってほしいと多くの親が考える。
エンジニアはITを中心に高収入や海外就職への道が開け、医師は安定した職業だからだ。
公開時にインド映画歴代興収1位を記録し、日本でも公開された映画「きっと、うまくいく」(2009年)も、エンジニアを目指す工学部の男子学生と、その大学の学長の娘の医学生の恋愛が、ストーリーの主軸の一つだった。
とはいえ南アジアでは、医療現場での女性医師の比率は、医学生の比率ほど高いわけではない。
インドでの2011年の調査では、診察実務に当たっている医師のうち女性は17%、地方部では6.5%だった。
またBBCによると、医学部生の7割が女性のパキスタンでは、医師に占める女性の比率は23%だ。
南アジアでは「結婚すれば女性は家庭に入るもの」という意識が日本とは比べものにならないほど強く、家庭を持つ女性の就労に対し、社会一般の抵抗感が強いことが、背景にあるとみられる。
女性が活躍できる社会をつくっていくためには、大学教育だけではなく、社会の意識、そして働き方など、幅広い部分の刷新が必要だ。