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いま日本に入国するとどうなる? 水際対策最新ルポ 親子2人で11㎡シングルルーム、4日間の隔離生活

感染力が強い変異ウイルスのデルタ株の拡大が懸念されるなか、日本政府の水際対策にも注目が集まります。今月、デンマークから5歳の娘を連れて日本に帰国し、隔離ホテルでの滞在を経験した筆者が、「閉所恐怖症になりかけた」という水際対策の様子を伝えます。

事情が重なり、私と5歳の娘の2人で日本に一時帰国することになった。デンマーク人の夫と1歳の息子は、デンマークで留守番である。

到着から14日間は、航空機を含めて公共交通機関が使えない。5歳児と一緒となると自宅隔離などで家族のサポートが必要になると予想されたので、実家のある福岡着になるよう、旅程を組むのがまず大変だった。

井上陽子さん撮影

ガラガラだったシンガポール行きの機内

日本入国の条件は、出発から72時間以内に検体採取したコロナ検査での陰性結果を示すことなのだが、複数の航空会社をまたぐと途中で出国扱いになりアウトになる可能性がある、等々。

結局、デンマーク→シンガポール→福岡、と1つの航空会社で1ヶ所の経由で行けることになったが、これも欠航に次ぐ欠航で、途中寄航が44時間という旅程になってしまった。

出発前、私が一番恐れていたのは、このシンガポールでの44時間だった。日本に着いてしまえばまあ何とかなるだろう、と思っていたのである。

しかし、その予想は裏切られた。

途中寄航の44時間隔離。それは日本と比べれば極楽だった

途中寄航地のシンガポール空港には、トランジット専用のホテルがある。事前に予約した時には日本の隔離ホテル同様、ホテルのドアは開けられない、空港内を自由に歩くこともできないと言われていた。また、5歳の子供は1人にカウントされないので、シングルルームになるという。

そこで、「長時間になるので、窓のある部屋をお願いしたい」とホテル側に伝えていたのだが、部屋に案内されて驚いた。

滑走路が眼前に広がるこの眺め!

井上陽子さん撮影

44時間を過ごしたシンガポールの空港内ホテルからの眺め

しかも、娘と一緒という配慮で、ツインにしてくれたらしい。広さも十分。ホテル側が用意できる食事は決まったお弁当だけで、その中で娘が食べられるのが生のきゅうりと蒸し鶏のみ、という問題はあったものの、そこはカップ麺とお菓子でしのいだ。

何といっても娘目線で考えれば、母親を独占できる時間であり、日常を離れた冒険である。飛行機が離着陸する様子を見ながら、一緒にカードゲームで遊んだりお絵かき大会をやったりと、ご機嫌で過ごしてくれた。

こうして44時間の滞在を乗り切り、午前2時すぎに出発した福岡行きの飛行機の中では、私はもう山場を越えた、という甘い考えでいたのである。

空港検疫は一触即発の雰囲気

日本の空港検疫の厳しさは知られた存在らしい。

デンマークを出発する前日、わざわざシンガポール航空の担当者から電話がかかってきて、「陰性証明に医療機関のスタンプは押してあるか」「質問表は入力済みか」などと詳細に確認され、「日本の検疫はとても厳しいのでやってるんです」と説明された。初めての経験である。

項目に一つでもチェックが抜けていると入国できないと聞いたので、出発前には日本大使館や検疫担当者に何度も電話して確認してはいたのだが、それでも見落としがないとも限らない。

着陸後、緊張しながら検疫に向かったのだが、そこから3時間かかった検疫プロセスを例えるなら「空港を舞台にした壮大な健康診断」というところだった。

とにかく、回るブースが多い。そのたびにパスポートを出し、同じような質問を聞かれ、担当者が書類に丸をつけたりシールを貼ったりしながら「では次のブースに進んでください」。これを、広い空港の階段を上ったり降りたり、長い廊下を歩いたりしながら進んでいく。

検疫には相当な人数が動員されていて、それぞれの持ち場で精一杯効率よく進めようとしているのはひしひしと伝わるのだが、組織間の情報共有がまずいのか、全体設計が根本的に間違っているような気がして仕方なかった。少なくとも、超合理的に物事を進めるデンマークで、この人海戦術はないだろう。

夜中発の便でヘトヘトだったのもあり、何度も同じことを聞かれるとさすがに「勘弁して」という気になってくる。それに、プロセス全体が性悪説(しっかり監視しておかないとルールを破るに違いない)に立っているので、まあ、気分良くはない。

携帯電話会社の契約ブースみたいなところに座って、厚労省が指定する位置情報確認アプリをインストール(毎日数回、ランダムに連絡が来るので位置情報をそのたびに送信)、ビデオ通話アプリのインストール(抜き打ちチェックのビデオ電話用)、14日間の位置情報を保存する設定(行動監視)、1日1回メールに返信する形での健康状態報告(返信までの時間制限つき)...とやった上で、「違反した人は氏名を公表する」等々の誓約書に署名。

トイレにも付添がつく。いや、脱走しませんから。

こんな状態なので、時間がたつにつれて会場の雰囲気は悪化の一途である。ワクチン接種済みでも同じ扱いとあって、特に接種済みの人は「なんで自分まで」という不満が募っている感じだ。

空港を出るまでに3時間かかったのだが、私はこの間、娘が癇癪を起こしませんよう、とひたすら祈っていた。一触即発のピリピリとした雰囲気の中で娘が騒ぎ出したら、どんな非難の声を浴びせられるやら。

でもありがたいことに、娘は「すごいね、飛行機がピンクだね!」といった感じで終始ご機嫌でいてくれて、むしろ、周囲の雰囲気を和ませるのに一役買ってくれた。

隔離ホテルで閉所恐怖症になりかける

さて長時間の空港検疫で娘が爆発することもなく、心からほっとして空港を出たのだが、私が予想していなかったのはここから先の大変さだった。

デンマークは現時点で、強制的にホテルで隔離される対象国に入っている。担当者の付き添いで、ホテルに行く人を移送するマイクロバスに乗り込んだものの、なかなか出発しない。

かなり待たされた後、10分もしないうちにホテルに到着したが、再びドアが閉ざされたまま待つ。ひたすら、待つ。感染対策で密閉状態にしているのか、長時間をバス車内で過ごすうちに、だんだん呼吸が苦しくなってきた。これはまずい、と慌てて窓を開けてもらったのだが、この時の体験を後に引きずることに…。

やっとのことでホテルに入ったら、私と娘の2人に用意されたのは、広さ11㎡のシングルルームだった。窓はわずかに10数センチ開くのみ。大きなスーツケース2つと小さなスーツケース1つを全て部屋に入れると、もう身動きが取れない。この部屋に4泊5日。ドアを開けられるのは、お弁当を取る時だけという。

出発前、友人からタイやオーストラリアの隔離ホテルに滞在した経験を聞いていたのだが、ホテル代は自己負担であるものの、滞在場所は広さが十分に確保された三ツ星ホテルなどで、定期的に体を動かせる時間も用意されているという話だった。家族ではなく単身の滞在でこの条件である。

部屋に案内された後、娘と2人で11平方メートルは厳しい、費用は自己負担でも構わないからもう少し広い部屋に変更してほしい、と担当者に訴えてみたが、そんな柔軟な対応をしてもらえるわけもなく、「家族連れはみなさん同じシングル部屋です」と一蹴されてしまった。

狭い隔離ホテルを娘とサバイバル

仕方ない。こうなったら、与えられた条件でベストを尽くすしかない。

とりあえず、大型のスーツケース2つは別の部屋に移動してもらえることになった(ただし立ち会いなしの出入りは不可)。

デンマークの我が家には浴槽がないので、ホテルの浴槽を遊び場として最大限に活用しようと思い立ち、家族に差し入れをお願いして釣りセットを導入。娘は大喜びで、さらにゴーグルで潜水の練習をしたり、おもちゃ入りの子ども用入浴剤で遊んだりと、お風呂のスペースをかなり楽しんでくれた。

井上陽子さん撮影

浴槽を使った魚釣り

狭い空間での密着生活では、互いの気分が伝染しやすい。「日本って楽しい!」という娘の思いを維持することが最重要、と思って臨んでいたが、私自身が機嫌よく過ごすのも大事だなと考えて、ゆっくり寝て、美味しいお菓子を差し入れしてもらったりしたら気分がかなり落ち着いた。

お弁当が美味しくて栄養バランスを考えてあったのも、さすがに日本。

それでも、滞在が長引くにつれて、バスで閉じ込められた経験がじわじわと効いてきた。窓の狭い隙間に顔を押し付けて深呼吸しながら、息苦しさを考えないようにするのに必死。せめて窓を全開にできないかお願いしてみたが、これも却下…。

いや、これが私1人だったら、仕事をしたり動画を見たりしていれば気は紛れると思う。しかし、娘と二人だとそういうわけにもいかない。狭さが気になったのは初めての経験で、閉所恐怖症になりかけているようで恐ろしかった。

結局、滞在4日目の早朝に行ったPCR検査で陰性の結果が早い時間に出たので、その日の宿泊は免除してもらい、自宅隔離に移って息を吹き返した。

ただ、そもそも結果判明後の4日目の宿泊は必要だったのだろうか。隔離ホテルの滞在費は、食事代を含めてすべて公費で賄っているのだから、結果判明後はすぐに自主隔離に移せば行政の費用負担も減るし、隔離対象者にしてもその方がいいに決まっているのだが…。

なお、その後は帰国後2週間が過ぎるまで実家で隔離生活を送ったが、2日に1回は抜き打ちのビデオ電話がかかってきて指定場所にいることを確認されたし、アプリで「今ここ!」というボタンを押して位置情報をランダムに送るリクエストも、1日に数回送られてきた。水際対策が甘いという批判を受けて、対策を改善したのだろう。

その厳しさに本質的な意味はある?

私としても、日本に住む家族や友人のためにも、水際対策をしっかりしてもらうことに全く異論はない。特に、帰国後14日間の自主隔離ルールを守らない人がいることは、真面目に従っている大半の人には迷惑な話なので、ビデオ電話などで少しでも実効性のあるチェックを始めたのはいいことだと思う。

ただ、一連のプロセスを振り返ってみると、厳しさのポイントがずれているように思えたのも事実。特に、隔離ホテルでの滞在は、全て公費負担ではなく部分的に私費でもいいから、もっと閉鎖空間での過ごしやすさを配慮してもらいたかったし、基準となるPCRの陰性結果が出た後も一泊する必要性もよくわからなかった。

井上陽子さん撮影

隔離ホテルではカードゲームが大いに役立った

子供を2人連れていたら、3人で11㎡で過ごすことになったわけだが、ちょっと想像できない狭さである。

現在の帰国者の14日間の隔離は、基本的に自主性に任せた対策である以上、意図してルールを破ろうという人の動きを完全に防ぐことはできない。全く漏れのない対策を講じたいのなら、ホテルなどで一定期間にわたり隔離するしか確実な方法はないのだから、そうであれば過ごしやすさに配慮した上できちんと実施してもらいたい。

一方、海外ではワクチン接種が日本よりも進んでいる。ワクチン接種済みの人には入国後の隔離ルールを変えるなど、実態に即したやり方に変えないと、未接種者と同じルールを適用されることへの反発でルールを破る人が増える気もする。

日々の生活でもストレスは避けては通れないが、その辛さに意味があると思えれば、頑張れるものだ。しかし、意味を感じられないストレスは辛い。私がストレスを感じたのは、本質的な水際対策とは無関係に思えるところだっただけに、余計に辛さが増したのだった。

【井上 陽子(いのうえ・ようこ)】

デンマーク在住の文筆家、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学国際関係学類卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞で国土交通省、環境省などを担当したのち、ワシントン支局特派員。2015年、米国からコペンハーゲンに移住。デンマーク人の夫と子供2人の4人暮らし。

noteでも発信している。Twitterは @yokoinoue2019