「内定ほしいでしょ、ホテル行こう」昭和じゃありません、令和の出来事です。就活生を苦しめる就活セクハラって?

    就活ハラスメントの実態や対策について、日本ハラスメント協会代表理事の村嵜要さんに話を聞きました。

    「俺と付き合わないと選考に不利になる」

    「スーツ姿もフレッシュでいいけど、二次面接は部屋着で参加してね」

    「彼氏はどのくらいの頻度で部屋に来るの?同棲してるの?」

    企業の社員から就職活動中の学生に向けられる「就活セクハラ」。

    性的なからかいを受けた、しつこく食事に誘われた、選考に有利になるとちらつかせながら体の関係を求められた――面接やOB訪問などさまざまな場面で被害が報告されています。

    毎年多くの学生が被害にあいつつも、「内定がほしくて断れなかった」「企業も大学も対応してくれなかった」と泣き寝入りするケースも少なくありません。

    上の発言は「日本ハラスメント協会」が設ける相談窓口に、実際に全国の大学生からよせられた事例です。

    同協会が、就活ハラスメントの専用相談窓口を設置したのは2019年5月のこと。

    2019年の相談件数は40件でしたが、社会の認知が進んだこともあり、2020年は142件、2021年は116件もの相談が寄せられています。

    採用する側、される側という権力関係を利用し、断りにくい立場に追い込む就活ハラスメント。

    その実態と、今後の対策に必要なことを、日本ハラスメント協会代表理事の村嵜要さんに聞きました。

    「内定ほしいでしょ、ホテルこう」

    ――ホットラインには、どんな相談が寄せられているのでしょうか。

    さまざまなパターンがありますが、典型的な一例をご紹介します。

    ある女子学生がOB訪問で出会った男性に、軽いノリで「今度ご飯行こう」「ご飯行ったらいろいろ教えるよ」と誘われ続け、選考が進んでいくにつれて要求がエスカレートしてきた。

    自分が人事部長と仲がいいことをちらつかせながら「俺と付き合わないと選考に不利になる」と脅すようなことを言われ、最終面接前には「内定ほしいでしょ、ホテルに行こう」と、ストレートに要求されたそうです。

    女子学生は「さすがにこれはおかしい」と日本ハラスメント協会に相談してきました。

    ――そんなにあからさまなんですね……。

    「昔の話」ではまったくなく、2021年の事例です。

    就活セクハラに該当するポイントとしては「選考にまったく関係のない、個人的な興味に付き合わされる」というところですね。

    立場が弱いから…言い返すことは難しい

    ――企業内のパワハラやセクハラと比較して、就活ハラスメントならではの問題はありますか?

    最も大きいのは、内定を出すのは企業なので「採用する側」「される側」という意識が当事者にも染み付いていることです。

    強い立場と弱い立場が明確に表れるのが採用面接、就活というところなので...…。

    いくら学生が就活ハラスメントについて知識を持っていたとしても、「ここの企業の内定がほしい」と思えば思うほど、瞬時に言い返すことは難しいですよね。

    セクハラに抗議したり不快感を表明してしまうと、選考には不利になってしまう。

    どちらもとれる正解がない。そこが一番難しいですね。

    ――ここで波風立てたくない、と思ってしまいますよね……。

    就活ハラスメントについては、仲のよい友人同士でも相談しにくいようです。

    場合によってはライバルになりかねないですし「友だちは普通に受け入れているかもしれない」「おかしいと思う自分がおかしいのかな」と迷いながら、選考の日程も次々と迫ってくる。悩む時間もないほど忙しいと思います。

    大学の教職員、教授もどうアドバイスしたらいいかわからない。学内の話ではないと、アドバイスをするにしてもどうしても一般的なものになってしまいます。

    就活生は頼りどころがないんですよね。下手したら、家族にもわかってもらえないかもしれません。

    コロナ禍ならではの問題も

    ――コロナ禍の就活で、相談内容に変化はありましたか?それこそ「ホテルに誘う」などはやりにくくなったのでは?

    もちろん、直接の接触機会が少なくなったので抑えられている一面もあると思います。

    一方で、オンライン面接の浸透により、面接官側も会社ではなく自宅で面接するケースが増えています。

    他人の目がなく、くだけた感じになりがちというところで、オンラインでの就活セクハラは目立つようになりました。

    相談の中でも画面越しに「全身立って見せて」「あっち向いて背中見せて」など、セクハラや性的な冗談を言われた――というケースは少なくありません。

    コロナ禍の影響で、新卒採用を見送ったり、人数を絞ったりした業界もあります。

    競争率が高く、少ない枠で内定を奪い合う状況になると、学生側も必死ですよね。面接官も「何でもいうことを聞いてくれるんじゃないか」と勘違いしがちです。

    基本的なことですけど、せめて「男女一人ずつの面接官を置く」などの対策は早急にとってほしいです。

    ――就活セクハラが起きやすい業界はあるんでしょうか。

    一概には言えないですが、男性が多い業界は起きやすい傾向にあると感じます。

    あとは業界に限らず、人気企業や大企業は相談件数も多いです。やはり「人気がある」「給料が高い」となると、倍率も高いですからね。

    「まさかこの会社の人が?」という学生側の信頼もあって、違和感を感じてもなかなか断れないようです。

    学生は常に笑顔で接さないといけないので、ハラスメントがどんどんエスカレートしていきます。言うことを聞いてくれそうな学生を狙っているのが卑劣なところです。

    就活セクハラの処分は甘くなりがち?

    ――もし就活セクハラを告発したとして、加害者はどんな風に責任を負うことになるのでしょうか。

    企業ごとの就業規則に照らして、出勤停止や採用の立場から外すなどが考えられます。

    たとえば、昨年大きく報道された近鉄グループホールディングスの就活セクハラでは、採用担当者が「採用過程で好意を持った」と女子学生に個別に連絡を取り、ホテルに行くなどの不適切な行為をしていたことが明らかになりました。

    報道を受け、加害者は懲戒解雇になっています。これは大きく報じられたゆえでしょうね。ここまで報道されていなかったら、簡単な口頭注意で済ませることがあってもおかしくなかったと思います。

    企業内の従業員間のセクハラに比べ、就活生へのセクハラは、多くの会社できちんとした規定もありません。

    従業員間のセクハラの場合、被害者も会社の中にいるので、処分の内容も従業員に“示しがつく”ようなものにしなければいけない。

    でも、就活生へのセクハラはあくまで社外の人との話。多くの社員には「言わなければバレない」ですよね。処分内容が甘くなってしまう懸念があります。

    学生は「パワハラ防止法」で守られない

    ――就活セクハラの被害者が法的に守られていない、頼る場所も少ない現状がわかりました。大学側はどんなことができるでしょうか。

    全教職員と全学生に向けて、就活ハラスメントを理解してもらう講座を毎年開催してもらいたいです。新入生が入ってくるたび、教職員の入れ替わりのたびに、やった方がいいですね。

    被害を受けた時、大学側がどういう対応をするか明確に示すことで、学生は安心できると思います。「何かあった時に守ってくれる」姿勢を見せれば、高校生や保護者が入学の決め手にすることもあるのではないでしょうか。

    大学のキャリアセンターの方とお話することもありますが、正直、被害にあった学生に代わって積極的に被害を訴えたり、処分を求めたりはしにくい現状があるようです。

    学生たちが進路に選ぶかもしれない企業との関係を、あまり悪くしたくないのが本音ですよね。卒業生が活躍しているなどしたらなおさらだと思います。

    このあたりは、企業側が就活ハラスメントに厳しくなれば、大学も行動に移しやすくなるかもしれませんね。

    現状では、企業にクレームを入れたとしても、対処は担当者の主観に委ねられてしまう。国が率先して対策の義務化をしないと、いろいろな歪みが出てしまうのではないかと懸念しています。

    ――国に対して求める対策はありますか?

    最も求めたいのは、パワハラ防止法(労働施策総合推進法)の中で就活ハラスメントへの対応を義務化させること。これに尽きますね。

    現状は「努力義務」で対応するのが“望ましい”という表記にとどまっている。積極的な企業は対策を始めていますが、ごく一部だと思います。

    2022年3月、厚生労働省が就活生への対策を強化すると発表しました。企業や大学への指導の徹底や、各都道府県の労働局で就活ハラスメントの相談を受け付けるなどを明記し、それ自体はとてもよいことだと思います。

    しかし、被害者への具体的な対応を示しておらず、本質的な解決策には至っていません。中途半端な印象を受けます。

    厚生労働省も、就活ハラスメントを社会問題だと理解はしているけど、法律をすぐに変えるのは難しいんでしょうね。

    対応を義務化するところまで、少しずつ向かっていくのが国の対応としては望ましいと思いますし、そのためにこれからも啓発を続けたいと思います。

    (サムネイル:Getty Images)