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病気の従業員が休めないファストフード業界の闇

昨年、米の人気ファーストフードチェーンで食中毒が起きた。ノロウィルスによる食中毒の原因の7割は、調理関係者だという。

病気になっても仕事に行く人は多い。しかし、外食産業に従事するなら、病気は、客にまで広がる可能性があることを忘れてはならない。

昨年、アメリカのファーストフードチェーン「チポトレ(Chipotle)」でノロウィルスや大腸菌、サルモネラ菌による食中毒事件が発生した。この事件は、病気の従業員が出社することが、いかに破滅的な結果をもたらすかをよく示している。

この集団発生によって、チポトレの売上は2015年第4四半期で14.6%落ち込み、2016年1月には36%まで下がった。四半期で約1200億円(10億ドル)を売り上げる会社にとって、この落ち込みは大きい。しかし、真の問題はチポトレのブランドイメージが地に落ちたことだ。その代償は高くつくだろう。

「二度とこのようなことを起こさないと約束する必要があります。具合の悪い従業員を働かせてはなりません。ノロウィルスの発生は避けられるのです」と共同最高経営責任者(CEO)モンティー・モランは、2月8日、従業員に向けて語った。

だがチポトレは会社として既にダメージを受けてしまった。不可解なのは、病気の従業員を自宅療養させなかったことだ。

従業員の大半が低賃金労働者で占められている外食産業では有給休暇がなければ、労働者は休まない。アメリカの労働者の擁護団体Restaurant Opportunities Center(ROC)が、約4千人のレストラン労働者を対象に実施した全国的な調査によると、3人に2人は病気でも料理や準備、盛り付けをすると答えている。

アメリカ疾病管理予防センター(CDC)によると、ノロウィルス集団食中毒のうち、約70%は、ノロウィルスに感染した調理関係者が起こしている。ノロウィルスによってアメリカが被るコストは、医療費と生産性の損失を合わせて毎年約2400億円(20億ドル)にものぼるという。

昨年7月、チポトレは、有給の病気休暇を導入した。レストラン業界でこうした福利厚生の導入は極めて稀だ。労働統計局によると、全国のアメリカ人の労働者で、有給の病気休暇を利用できるのは3人に2人。ただし、レストラン業界ではそれよりはるかに少ない。ROCによると、レストラン労働者のおよそ90%は、有給の病気休暇をもらっていない。

スターバックスのようないくつかのレストランチェーンは、従業員が病気になった際に、有給休暇を使える制度を整えている。しかし、このような有給休暇が義務化されていない州や都市もある。

ROCの共同ディレクターのサルー・ジャヤラマン氏によると、チポトレのような例は、レストラン業界では決して特異な例ではないという。

「ノロウィルスがレストラン業界に広く蔓延しているのは、チェーン店がアメリカレストラン協会(NRA)を通じて有給病気休暇の法規制に反対するロビー活動を行っているからです。法律的な意味でも、業界規範という意味でも、チェーン店に基準を設ける責任があるのは明らかです」とサルー・ジャヤラマン氏は述べる。さらに、たとえ病気であったとしても、有給休暇をとったらクビになったり、職場に戻った時にきついシフト勤務をさせられる場合が多い、と付け加えた。

アメリカレストラン協会の広報官クリスティン・フェルナンデス氏は、業界団体が「小さなレストランにとって負担になるとして、有給休暇の義務付けに反対していた」とメールで記した。

有給休暇を取得することについてフェルナンデス氏はこう答えた。「病気であろうと個人的な用事であろうと、柔軟にスケジュール調整をするのが、レストラン業界の特徴なのです」

チポトレはやっと、病気の従業員を休ませる重要性を認識し、病気になった時の手続きを厳格化した。「誰かが家や職場で嘔吐したら、即座にレストランを閉鎖します」とチポトレのレストラン・サポート・オフィサーのグレッチェン・セルフリッジ氏はAP通信に語った。

チポトレによると、有給の病気休暇は1年で3日与えられる。場合によっては、病気の従業員が5日間出勤しないよう言い渡され、その間の給料を支払うケースもあるという。しかし、有給の病気休暇が全従業員に与えられるのか、一定期間以上働いている人にだけ与えられるのかという点については、返答がなかった。

昨年9月、オバマ大統領は大統領令で、連邦政府の契約企業に対し、従業員に年間最大7日の有給病気休暇を認めるよう義務付けた(発効は2017年)。

労働省によると、有給病気休暇法はコネチカット州、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ワシントンDC、オレゴン州にあり、ニューヨーク市やペンシルベニア州のピッツバーグ市、ニュージャージー州のいくつかの市など22の地方管轄区域が法律を制定し、住民投票で有給病気休暇プログラムを承認している。

「従業員と客の安全は、どのレストランでも最優先事項のはずです」とフェルナンデス氏は述べた。「だからこそ私たちはいつも、レストランやその従業員に規範を遵守し、必要な時には病気休暇を取るよう促しているのです」