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歴史小説家が語る。映画『峠 最後のサムライ』の魅力

絶対諦めない河井継之助に誰もが憧れ、今をどう生きるか考えたくなる映画

累計発行部数398万部超、大ベストセラーとして今なお読まれ続けている司馬遼太郎の名著『峠』が初めて映画化。坂本龍馬と並び称されながらも、あまり知られていない越後長岡藩の家老・河井継之助(かわいつぎのすけ)の最後の1年を描いた『峠 最後のサムライ』が、いよいよ6月17日(金)から公開となる。司馬遼太郎作品の中で『峠』が一番好きだという小説家の今村翔吾さんが本作の魅力と「なぜ今、河井継之助なのか」を語る。

戦争回避を諦めず、何度も交渉に出向く姿に胸を打たれる

原作を読んだのは17歳の頃だったのですが、映画『峠 最後のサムライ』を観てあの時の感動が一気によみがえりました。本作で描かれているのは原作の後半部分の、しかも河井継之助の最後の1年。にもかかわらず、彼の生涯を感じさせる作りになっているところが素晴らしかったです。

印象に残ったのは、継之助が西軍(薩長を中心とした倒幕派・明治新政府軍)のところへ何度も出向くシーン。戊辰(ぼしん)戦争が起こり、日本は東軍(佐幕派・旧幕府軍)と西軍に二分します。そんな中、継之助は最悪の事態を想定して近代兵器を備えつつも、あくまで戦争を回避し、和平中立を目指すべく、粘り強く西軍と交渉を続けます。まさしくあのシーンに継之助という人物のすべてが表れていました。

今のウクライナの人々と継之助が重なって見える

戦争は外交の延長線上にあると言われますが、実際には、外交を尽くしてやむを得ず戦争になるケースは少なく、戦争ありきの外交になりがちです。今回のロシアによるウクライナ侵攻がまさにそうです。

しかし、継之助はその順序を決して間違わず、戦争は最終手段、外交の中の一つのカードでしかないという捉え方で、最後まで血を流さないで済む解決法を模索し続けます。己のなすべきこと、長岡藩の家老という立ち位置を理解して、その中で最善を尽くす。一国のリーダーとしての彼の行動に心が震えました。

残念ながら、継之助の願いもむなしく、西軍と戦うことになります。その姿はどうしても今、ウクライナの人々と重なってしまいます。もちろん、時代も情勢も異なりますが、ゼレンスキー大統領を代表とするウクライナの人々も、最後まで和平交渉を目指していました。しかし、戦わざるを得なくなってしまった。恐らく継之助と同じようにやるせない気持ちを抱えつつ、戦っておられるのではないかという気がします。

「心即理」を生き様で実践。思ったことは即行動に移す

私は、継之助の 「思ったら即動く」、その行動力が大好きなのですが、そうした彼の人となり、生きる姿勢も本作では見事に表現されていました。

この人に会ってみようと思えば会いに行き、これが正しいのではないかと思えばそのように動いてみる。失敗すると何か他に手立てはないかと考え、行動する。心が感じたことのままに動くというラグの少なさが彼にどんどん知識と人の縁を与えていきます。行動が思考を作ったわけです。

だからこそ、多くの人々が損得にとらわれ、「今日は薩長、明日は佐幕」と幕末の動乱に翻弄される中、継之助だけは己の信念に基づき、自分の生き方を貫くことができたのです。

とはいえ、継之助は決して特別な人ではありません。彼の信念は、長岡への郷土愛や身近な人への愛情がどんどん大きくなっていくことで形成されたものに過ぎません。そういう意味で現代の私たちと同じ感覚を持った人だったのではないでしょうか。

「自分はどう生きていくか」と問い直したくなる映画

継之助のように「自分はどうありたいか」「どう生きたいか」という自分の確たる芯があれば、どれだけ多くの情報が入ってきても、それが自分の生き方に必要か否かを判断できます。

私はそんな継之助の生き方に非常に憧れます。日本人の私たちには継之助と同じ「武士の血」はきっと流れているはず。そう信じつつ、「自分は今、どう生きるべきか」と改めて自分に問うてみたくなりました。

龍馬が自ら転々と飛び回りながら世界を見た人だとすると、継之助は自分の生まれた長岡に根ざしながら遠い空を見続けた人。本作の公開をきっかけに、彼の生き様を多くの人に知ってほしいですね。

<ストーリー>

1867(慶応3)年、大政奉還。260年余りに及んだ徳川幕府が終わりの時を迎え、諸藩は東軍(佐幕派・旧幕府軍)と西軍(薩長を中心とした討幕派・明治新政府軍)に二分していく。68年の「鳥羽・伏見の戦い」を皮切りに戊辰戦争が勃発。しかし、越後長岡藩の家老・河井継之助はどちらにもくみせず、民衆の暮らしを守るため戦争を回避しようと西軍の土佐藩・岩村精一郎らへ談判を続ける。だが、交渉は決裂。継之助は徳川譜代の大名としての義を貫き、西軍と砲火を交える決断を下す。

映画『峠 最後のサムライ』公式サイトはこちら