Posted on 2017年12月16日

    「鳥肌モノ」「久々に痺れる」 少年誌で異例のファッション漫画、なぜ生まれた?

    異端の王道少年漫画は緻密な演出によって生み出される。

    「鳥肌モノです」「久々に痺れる」——。5月31日の連載開始以来、漫画好きの間で注目を浴びる「ランウェイで笑って」。

    トップデザイナーを目指す高校生・都村育人と、パリコレモデルを目指す身長158センチのモデル・藤戸千雪の成長譚は、週刊少年マガジンの連載作ながら、ファッション業界を題材とした異色の漫画だ。

    講談社

    手がけるのは100回を数える「週刊少年マガジン新人漫画賞」で過去4人しかいない「特選」を受賞しデビューした猪ノ谷言葉さん。初の連載作に、なぜあえて少年漫画らしからぬ題材を選んだのか。制作の経緯を聞いた。

    ——どうして少年漫画でファッションを題材に?

    ずっとスポーツものが好きで、初めて描いた漫画はバスケットボールが題材だったんですけど、登場する男の子が6人で女性は主人公の母親くらい。男まみれだと作画のモチベーション的にきつくって(笑)。

    志望の少年誌では女の子のスポーツを描くのも違うと考えていて、一度スポーツからは遠ざかりました。

    その後は色々なジャンルの読み切りを描いていたのですが、そんな中で「四月は君の嘘」や「ボールルームへようこそ」のような男女が平等にライバルや仲間として前線で戦えて、スポーツ漫画的な熱さもある題材っていいなと感じて。服ってあまりやられていない題材だしイケるなと思ったんです。

    少年漫画的にも主人公の男の子がモデルと近しい関係というのはロマンがあると思い、デザイナーとモデルで一緒に登っていく漫画を考えつきました。ファッションは好きでしたが、学校などで専門的に学んだことがあるわけではないので、そういう意味では詳しくはありませんでした。

    ——ファッションが題材だが、ストーリーの構造は王道の少年漫画。懐かしさも感じつつ、新鮮だ。

    新しいだけの漫画にならないよう、ファッションという世界ですが、登場人物の悩みは読者が想像できるものにしています。

    例えばサッカー選手になりたいけど、上手じゃないからなれないという思いは千雪。ベースにファッションを置いただけで、誰もが持ち得る悩みです。

    <千雪は身長が足りないがモデルの道に大きな障害となる>

    講談社

    ——ファッションという題材にマガジン編集部から不安の声は?

    担当編集者:もともと、プロット版は結構違うところから始まっていたんですけど、打ち合わせを経て今の形になりました。わかりやすい目標を目指すというのはすごく少年漫画的です。

    作品を読んで導入の見せ方がすごく賢いと思ったんですけど、いきなり専門的なファッションの話に入ってくるのではなく、まずキャラクターの背負っているものや心情を描いて、ファッション部分に関してはキャラの積み重ねてきた気持ちと絵の演出で描いている。

    読者に「専門業界で一般にはわからない小難しいことをやっているな」と思われないよう工夫されています。

    編集長にファッション漫画をやりますと伝えた時には「大丈夫か」となったんですけど、少年漫画的読み味が徹底されていて、作品にとっつきにくさがない。読者アンケートでも「ファッションに抵抗はあったけど、読んでみるとすごく面白かった」という声が多かったです。

    ——ファッション関係の取材を重ねて面白いと思った部分は?

    例えばデザインしかできない、自分では服を縫えないデザイナーも結構いるそうなんです。建築界からデザイナーの世界に来る人もいる。

    全部ができる人がブランドのトップにいると育人がやることがなくなるので、柳田一(主人公・育人が務めるブランドのデザイナー。腕は良いがデザイン専門で服は縫えない)というキャラができました。

    <柳田はデザインはできるが、自分では服を縫えない>

    講談社

    ——ファッション漫画となると服のデザインも重要だ。

    漫画なので色や材質の表現には限界があります。色は白と黒が基本の世界ですし、同じコットンでも目の荒さで印象が全然違うんですが、漫画ではそこまで再現するのは難しい。

    そうなった時は演出やセリフなりで補完していくしかなく、やれる範囲で頑張っている感じです。

    ——他にファッションを漫画で描く難しさは?

    服は誤魔化しがききません。音楽漫画は演出でいい音楽が鳴っていると表現できるし、料理漫画はめちゃくちゃ美味しそうと読者に想像させることができるけど、服は見た目が勝負の世界ですから、目には見えない音楽や料理の味と違い、ビジュアルでドンと出ちゃう。

    仮に世界のトップデザイナーの服をそのまま描いたとしても、ダサいと言う人もいるし印象は人それぞれです。そうなると「この服が素晴らしい」という話の作り方はギャンブルだと思ってます。

    服に寄り添っているドラマで盛り上げて、服のオシャレさとはまた別の部分、たとえば技法や想い、ドラマ的な要素の部分でも同時に勝負を盛り上げるように気をつけて描いています。

    <育人の作った服を着て登場する千雪。見せ場だが、絵以外の構成も重要だ>

    講談社

    ——第1話では千雪の物語を描き、最後に育人が主人公であることがわかる、主人公の転換が話題を呼んだ。

    僕は読んだことのある漫画を描きたくなかったんです。自分が読者だったら、どうしたら「この作者やってくれたな」と思うか考えたとき、最後に主人公が入れ替わったら面白いと思いました。

    同時に、最初にヒロインを主人公として立てて、好きになってもらったら、ヒロインに入れ替わった時に読者が強い思い入れを持ってくれるのではとも思い、千雪で話を進めました。

    ——よくキャラが一人歩きすると言うが、そういうキャラはいたか。

    僕はキャラよりストーリーをまず考えるのであんまりないんですが、ある意味では、森山さんはそうかもしれません。

    構想時から主人公の職場での先輩として据えていたのですが、当初の想定以上に愛着のあるキャラになりました。

    ——物語途中から出てきた新沼文世は思春期のころにオシャレに興味は持ったけど挫折して、今はファッションが嫌い。ファッションに興味のない人にも感情移入しやすいキャラだ。

    千雪と育人で東京コレクションに参加することは決まっていたんですけど、ショーへのリアクション役と読者の感情移入役として、観客の一人にスポットを当てたかったんです。東京コレクション編のゴールで心を動かされる存在が欲しくって。

    自分のやりたいことと違うことをやっていて、かつコレクションに来れるのは雑誌編集者。出版社で希望の部署に行けないケースがある話も聞いていたので、文世というキャラができました。

    職業上、特にモデルにとっては切っても切れない。大事なキャラとして登場させました。

    <中学生の頃にオシャレから挫折した文世>

    講談社

    ——「週刊少年マガジン新人漫画賞」の最上位の賞である特選に選ばれた。特選を取った作品「星に願いを」は絵もさることながら、新人離れした構成力が評価されたが、構成や演出のこだわりは?

    演出はすごく大事にしています。漫画やドラマでは、癒されるというよりはゾクゾクさせられるものが好きなんです。

    面白さの山場がどれだけ高くなるか。高ければ高いほどゾクゾクすると思っているので、ほぼ山場に向かって構成している。山場の演出のために、序盤は1ページ7コマ8コマ入れても、山場のシーンは見開きにしたり。

    <特選をとった「星に願いを」>

    講談社

    ——セリフの分かりやすさも大事にしている?

    気をつけていますね。塩梅が難しいんですけど、理想は流して読んでも理解できるくらい簡潔にしたい。頭の中でセリフを復唱してみて、順序立ててしか理解できない説明は入れないようにしています。

    ——構成を勉強するにあたり、いろんな漫画を読んできた?

    僕は漫画の1話をたくさん読みます。連載をとった段階でファッションが題材だと読者は1話が面白くないとついてきてくれないと思ったんです。

    そこで1話が面白いと思った作品や、売れている作品の1話はだいたい読んでいました。

    作り方をまねるというより、作品を読んで自分が面白いと思った感覚をストックする。自分の作品を描いたときに、これでああなるという面白さのパターンを増やし、面白さの理由を自分の中で法則化する感覚です。

    つかみがどう良かったのかとか、理論を考えたりはするんですけど、最終的に頼りにしているのは僕の中の読者が面白いと思うかどうか。そのハードルを越えているかどうかを自分に問いかけている感じです。

    ——「ランウェイで笑って」を通して、どういうメッセージを今後伝えたい?

    ファッションという世界は泥臭くって思ったより体育会なんですが、とにかく悪いだけの人はあんまり出したくありません。

    足の引っ張り合い、自分が上にいくために相手を貶めるというのはあんまり好きじゃなくて、なるべくガチンコの世界を描いていきたい。そうすることで、頑張るって良いことなんだよって作品で伝えていきたいです。