門脇麦、「このままじゃ死ぬ」と言われ変わった女優への意識

    2年前に急性喉頭蓋炎で緊急入院

    門脇麦はまだ24歳だが「若手」よりも「演技派」と呼ばれることが多い。

    多くの監督から愛されるこの稀有な女優のために、「梅ちゃん先生」「結婚できない男」で知られる脚本家・尾崎将也が脚本を書き、監督を務めた映画が「世界は今日から君のもの」(7月15日)だ。

    2人の出会いは2014年のフジテレビ系ドラマ「ブラック・プレジデント」。

    尾崎はドラマの脚本を担当しており、ドラマの打ち上げの際に、門脇と映画を一緒にやりたいと話が上がった。

    尾崎は今作の脚本を書くにあたり、映画「アメリ」のような、少し風変わりな女の子を描きたいと考えた。

    出来上がった主人公・真実は引きこもりで風変わりで、内気。でも芯のある女の子。世間的な門脇のイメージに近いが、実際は監督の投影だ。

    門脇も尾崎を頭に真実を演じた。

    「撮影では日に日に尾崎さんに染まっていきましたね(笑)。尾崎さんって会話に間があるんですけど、その間も心地よく感じるようになっていきました」

    門脇本人と真実とは「こだわるところとこだわらないところがはっきりしているところ」以外は真逆。

    「真実は朝ごはんをパンで、昼ごはんもパンで済ませる。食のこだわりのなさは、理解できない。私は、ごはんを食べるために生きているので、朝も時間あればオムレツをつくるし、ちゃんと美味しいものが食べたい。より美味しいものを常に探しています」

    主人公の真実はイラストを得意としているが、自由に描いていいと言われた途端に描けなくなる。実は、門脇自身も自由に演技することは苦手。

    「私、アドリブとか本当にだめな人です。だから、この仕事をしていると思うんですけど。アドリブになると黙ります。早くカットかけてって(笑)」

    インドア派のイメージもあるが、クラシックバレエ歴は12年。運動神経もよく実はアクティブだ。

    つい先日も4日間の休みができたからと、奄美大島に飛び、ダイビングなどを楽しんだ。

    話していると、世間のイメージとは真逆なことがわかる。

    死を覚悟して「楽しむ」に変わった女優への意識

    「世界は――」の撮影前には門脇の人生を変える出来事があった。

    クランクインを前日に控えた2015年10月、急性喉頭蓋炎で緊急入院したのだ。重症ではないと報じるメディアもあったが、実際は死を覚悟するほど、大きなものだった。

    「喉の腫れが呼吸器官を塞いでしまっていて、ぱっと朝起きたら息ができなくなっていて。病院に行ったら『このままじゃ死んじゃうから、大学病院に行ってください』と言われて。鼻から管を通して1週間入院。その後は撮影現場に病院から通いました」

    死を目前にして、意識も変化した。

    「人って簡単に死んじゃうんだなって。(演技は)好きな仕事だし、やりたい仕事を始めたはずなのに、そのころはいろんな責任感とか感じていて。作品をやって、また次の作品に入って。アップアップになっていたんだと思いますし、現状と心が追いつかなかったんでしょうね」

    元来ストイックな性格。ストイックになりすぎて自分を追い詰めていた。

    「デビューからやってきた作品が苦しんでなんぼという、そういうクリエーションが良しとされる現場が多かった。苦しい境遇の役が多いので、どうしても引っ張られちゃいますし、苦しまないと役に対して失礼で恥ずかしくてできないというのもあって」

    撮影が終わった後も演じた役を引きずり、家に帰り、風呂で泣く。地方で2〜3日出番がない日でも、楽しまないようホテルにこもることもあった。

    だが入院して、こう思うようになった。

    「人間はいつ死ぬかわからない。人生一度きりの人生なのだから、毎日楽しくやらなければ、もったいない」

    「エネルギーの通り道が整備されました」

    もちろん理想通りすぐに気持ちが切り替えられるわけではない。でも「楽しもう」と日々思い続けることにした。

    漠然とそんな風に思いながら過ごすと、気持ちが少しずつ楽になっていく。楽しみながら苦しむ。自分の意思で苦しみにいけるようにもなった

    門脇はその変化を「強く柔らかくなった」と表現する。

    役も引きずらなくなり、家で泣かなくなった。すると心だけでなく、体も楽になっていった。

    「ようやくエネルギーの通り道が整備されました。いろんなところにガコガコぶつかって。でも、うまい具合にはエネルギーが出なくて。自分でもうまいこといっていないのがわかっていて。どうしようもないという時期がずっとあったんですけど、すっきりしました」

    以前はこういうテイストの作品、映画に出たい。この監督と仕事したいというこだわりがあった。でも、自然とそういうものがなくなった。

    「だからといって野心がないわけではなく、熱量が下がったわけでもない」

    様々なこだわりや重しから解放され、今は自然に、女優を、演じることを楽しめている。その姿は映画で演じた真実とも重なる。

    「いまも日々変わっているので。なんか。うん。置いてかれないように必死ですね。自分の変化に」