テレビではなく、女子中高生たちが自ら作った2017年のK-POPブーム

    TWICE、BLACKPINK、BTS、SEVENTEEN...

    高校野球で春夏連覇を狙った大阪桐蔭は、スタンドで応援する吹奏楽部も全国大会の常連だ。甲子園では毎回新曲を投入することで知られるが、今年披露したのが、K-POPグループTWICEの「TT」だった。

    TWICEは、曲の振り付けの“TTポーズ”が女子高生の間で人気となり、今年に入りメディア露出が増加しさらにファン層を広げている。甲子園中継で曲を聴き、改めてK-POPブームの再燃を感じた。

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    TWICE「TT」のミュージックビデオ

    TWICEとともに新たなブームの一躍を担っているのが、4人組グループ「BLACKPINK」。

    8月30日の日本デビューに先駆け、7月30日に日本武道館でデビューショーケース(ライブ)を開催したが、1万6000枚のチケットに対し、応募は20万通あった。

    2階席の最上段までびっちりと埋まった客の大半は、女子中高生。日本でのレコード会社となるエイベックスの関係者もその光景に衝撃を受けていた。

    韓国本土ではソロでライブをしたことがないと聞き、さらに驚かされた。

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    BLACKPINK「BOOMBAYAH」のMV

    長年K-POPに力を入れてきたタワーレコード渋谷店で、K-POPのバイヤーを務める渡邊リサさんは「この2組は日本でのプロモーションを戦略的に行っています。TWICEは男性も取り込み、BLACKPINKはおしゃれ女子の憧れを手に入れています」と話す。

    韓国、日本、台湾出身の9人で構成されるTWICEはより日本のアイドルにイメージが近く、7月2日に開催されたデビューショーケースは来場者の4割ほどが男性だったという。

    一方、BLACKPINKは女性が中心。「NYLON JAPAN」「Popteen」といったファッション誌の表紙を飾り、ライブでもファッションを真似した女の子たちが楽しげに会場へと向かっていた。

    ブーム後も人気のあったK-POP

    東方神起、少女時代、KARAを中心に2010年ころには日本でブームとなったK-POPだが、日韓関係の悪化やKARAの分裂騒動などもあり、2014年からメディアへの露出が減り、人気は冷え込んだように見えた。

    「世間一般的には、終焉したと思われましたが、ブームとしてのK-POPが終焉し表に出なくなっただけのように感じました。現場ではリリースがあれば、一定数の売り上げは確保できましたし、お客様自身も取り上げるお店が少なくなってしまい、情報に飢えている感じはありました」(渡邊さん)

    ライブとなればBIGBANGやEXO、SHINeeは東京ドームを埋め、複数アーティストが参加するK-POPのフェスもさいたまスーパーアリーナなど大箱で開催されてきた。

    こうしたK-POPファンの下地の上に、新たなアーティストの登場が加わり、人気に拍車をかけた。

    街行く女子中高生に学校でのK-POPについて聞くと「クラスでめっちゃ流行ってます。最近ファンが増えた」(17歳・高校2年生)、「小学生のころ人気で、一度減ったけど、ここ1年くらいでまたブームがきた」(15歳・中学3年生)と誰もがブームだと答える。

    人気があるアーティストとして名前が上がったのは、TWICE、BLACKPINKに防弾少年団(BTS)、SEVENTEEN。

    日本のアーティストでなくK-POPに惹かれる理由については「ダンスと歌の完成度の高さ」と異口同音に返ってくる。

    ファンが主導する新たなK-POPブーム

    前回と今回のKPOPブームとは大きな違いがある。KARAや少女時代のころはマスメディアが主導だったが、今度のブームはファン自身がアーティストを発掘し、盛り上がっている点だ。

    新しいK-POPのグループを知るきっかけはテレビからTwitter、YouTubeとネットに移行している。

    「Twitterで事務所の公式アカウントをフォローしていて、その事務所から新しいグループから出たのを知る。あとはTwitterでのファン同士のつながりから」(18歳・高校3年生)

    「自分の好きなアーティストをYouTubeで見た後、レコメンドで出たことがきっかけ」(16歳・高校2年生)

    ファンになったきっかけはいずれもネット。その後の情報収集もネットが中心で、テレビや雑誌といった既存メディアという声はなかった。

    もともと国内の音楽市場が小さい韓国では、早くからYoutubeなどネット戦略に力を入れてきており、TWICE、BLACKPINKやBTSのMVの動画再生回数は2億回を突破している。

    世界市場を見据えた戦略だが、日本でもこれが奏功した格好だ。

    アーティストごとにどの国から再生されているかが分かるツール「YouTube for Artists」で調べると、TWICEの再生回数は日本が韓国、台湾を抑えて1位。SEVENTEENは韓国に続く2位だった。

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    SEVENTEENのMV「Don't Wanna Cry」


    MVだけでなく、韓国ではテレビ局が音楽番組の歌唱シーンや楽屋での様子などをYouTubeの公式チャンネルでアップすることが多い。

    日本では禁止されている、ファンがライブを撮影する「ファンカム」も数多くアップされており、中には音楽番組が公式に、1人のメンバーの動きを追った動画を上げている。

    TWICE、今年5月に日本デビューした「Monsta X」は韓国のオーディション番組出身だが、女子高生の中にはYouTubeにアップされた番組を見て、K-POPグループのファンになったという子もいた。

    日本のメディアに頼らずとも、楽しめる映像は十分揃っているといえる。

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    BLACKPINKのリサだけを追った、公式の「ファンカム」

    それでもテレビの力は大きい。TTポーズが日本の情報番組で何度も取り上げられたことで、TWICEやK-POPに関心をもつ層はさらに増えている。

    取材に答えてくれた女子高生の一人は、再燃してきたK-POPブームについて「もともと私はK-POPがずっと好きだったけど、ここ1年でクラスにK-POPファンが急にバンと増えた」と“にわかファン”の増加に苦笑していた。

    こうした古参ファンの不満が出始めるのも、ブームの証しといえる。